入学式が終わり、帰路についている新入生たちを、マジ女校舎3階のとある部屋の窓から眺める、「クール金魚」の刺繍が施された薄ピンクとベージュのツートーンのスカジャンを着ているヤンキー。その様相は他の者たちとは比べものにならない程の威圧感がある。
?「今年は特に問題なくって感じかな?」
【ラッパッパ 3年 浦野一美】
浦野「血の気の多い奴がたくさんいるって聞いてたけど、期待ハズレかもね…そう思わない?野呂」
長椅子で寝ていた"野呂"と呼ばれたヤンキーは、話を振られたことで、徐に上体を起こしていた。
それによって姿を現す「波鷹」の刺繍。赤とシルバーのスカジャンが光を取り戻した瞬間だった。
野呂「能ある鷹は爪を隠すとか何とかって言うだろ…たぶんそれだよ」
【ラッパッパ 3年 野呂佳代】
欠伸をしながら適当に言葉を返す、野呂。
恐らくこのとき、周りにいたヤンキーたちに、マジ寝をしていたことを悟られたのだが、当の本人は気づいていなかった。
野呂「そういや"宇佐美"の奴、見ねぇけど…サボりか?」
その問いに対し、浦野は何も知らないと言わんばかりに首を傾げている。
一方で、同じ空間にいながらも、2人の会話に耳を欹てていただけのヤンキーが口を開く。
?「あっ…宇佐美さんなら『散歩に忙しいから、気が向いたら顔出すわ』って、さっき連絡がありましたよ」
【ラッパッパ 2年 増山加弥乃】
そんな増山の背には、「白竜」の刺繍が施され、黒と白のツートーンが、その身を包んでいた。
野呂「新年度早々からどこをほっつき歩いてんだ、あの自由人がぁ」
浦野「そう言うお前こそ、新年度早々にピリピリすんなよ」
増山「そうですよ。…それに矢場久根女子商業高校(ヤバクネ)の偵察に行ってる可能性が僅かに…」
僅かにあるかもです、と言い掛けたが、それを2人が遮って「ないない」と切り捨てた。
-場所は変わり、とある公園-
ここは、主にヤバクネの生徒たちがたむろしている謂わば縄張りである。しかし、だからと言って彼女たちの安全が約束されている訳ではない。
それが証拠に、ヤバクネの制服を着たヤンキーが10人、悶え苦しみ倒れている。
「て…てめぇ…ヤバクネ(うちら)にけ…喧嘩を売って……ただで済むと思うなよ…」
意識が朦朧とする中、ヤンキーはマジ女の制服を着ている少女の後ろ姿を捉えていた。
?「フフ……フフフフ……フハハ………コワレタ…アハハハ」
【馬路須加女学園 新1年 松井玲奈】
呻き声と爪を噛む音が交錯する中、突如「キーキー」と音が鳴る。
その瞬間、松井は殺意を剥き出しにし、それへと視線を移した。
?「おいおい、入学式に顔も出さずに、こんな所で何してんだか」
【ラッパッパ 3年 宇佐美友紀】
ブランコに座って、甘ったるい菓子パンに齧りつく彼女は、松井に手を上げて挨拶する。
キョトンとする松井とは裏腹に、笑みを浮かべている宇佐美。2人の距離は邂逅時よりも縮まっており、互いに手の届く位置にまで詰められていた。
宇佐美「こんな日くらい、喧嘩忘れてみたらどうだ?喧嘩漬けの毎日なんて飽き飽きするだろ」
だが次の瞬間、それまで崩していなかった表情を、宇佐美は崩すこととなる。なぜなら、松井の上げた笑い声によって、寒気と危機感を覚えていたからだ。
間もなく、彼女の拳が飛んでくる。それをちょうど1歩分後退ることで躱した。
松井「…?……フフ…フフフフ……アハハハハ…」
このとき、必要最低限の動きで躱されたことにより、相対する宇佐美をそこいらにいる雑魚兵とはまるで違うことを感じ取った。
爪を噛む為、口元に手を伸ばすが、その動きは止まる。すると、刹那に宇佐美の顔を狙う拳をはなった。しかし、それは空を切り、更には宇佐美の姿は消えていた。
宇佐美「噂以上にクレイジーな奴だな…だが、触れるもの皆傷つけようとするのは…まだまだ青い証拠だな」
背後から聞こえた声に振り返る松井。
その目に映ったのは、「花竜」の刺繍が目を引く、ダークグリーンと黒のツートーンのスカジャン。
そして、間もなく宇佐美の姿は見えなくなった。
-場所は戻り、マジ女-
体育館を出た優子は、マジ女校舎へと足を向けたとき、10人程度の新入生(ヤンキー)に道を塞がれた。
「おいおいおいおい、さっきはよくも派手なことをしてくれたな」
その集団の中でも、顔つきが最もおっかないヤンキーが優子に詰め寄った。
優子「何のことだ?……てか、てめぇら誰だ?」
(こいつがリーダー格だな…恐らく)
このとき、喧嘩になることを見据えた優子は、真っ先に叩くべきヤンキーから目を離さないでいる。しかし、寝起きのせいもあってか、それをすることで頭が一杯になり、囲まれていることに気づいていなかった。
「しらばっくれてんじゃねぇよ。てめぇが入学式(さっき)犯した過ちのそれだよ」
すると、優子の背後にいたヤンキーが音もなく殴りかかる。
間一髪のところで躱した優子は、反射的に蹴りを放っていた。それは空を切らされたヤンキーの顎を打ち抜いて、吹き飛ばす。
ヤンキーが倒れたのを確認すると、次に狙ったのはおっかない顔つきのヤンキー。蹴り上げた足を下ろすと同時に、一気に間合いを詰める。
刹那、ヤンキーは殴り飛ばされた。
争いになってから30秒、その僅かな内に2人のヤンキーが堕とされ、群れを成していたヤンキーたちは焦り始める。
「こ…こいつヤベェ……バケモノかよ」
「リーダーですら1発K.O.とか…どうなってんだ、こいつの強さ」
数的優位にありながらも恐怖に足を竦め、完全敗北と言う屈辱を実感させられている。
1人また1人と薙ぎ倒す優子は、肩を回しながら残った最後のヤンキーの前に立った。
「10人相手にして、何で傷1つ付いてないんだよ………」
その言葉を最後に崩れ落ちる。
このとき、優子が徐に放っていた拳が、腹部にめり込んでいたのだ。
優子「マジを貫けよ、最後までよ…」
戦いが終わり、髪をくしゃくしゃと掻き乱すと、大きな欠伸を零す。そして、それまで阻まれていた歩みを進め始めた。
道すがら、1人のヤンキーとすれ違う。確かに覚える異質な感じに思わず振り返るが、ただゆっくりと離れていく背中が映るだけだった。
優子「?……変な奴……」
チュッパチャプスを口の中で転がす、優子とすれ違ったヤンキーは、正門に向かっていた。だが、そこには彼女が予期していない人物の姿が。
校長の野島だ。
野島「珍しいですね… you が名もなき Rookie の顔を見に態々赴くなんて」
?「思ってないことを口にする性分でしたっけ?校長先生って」
【ラッパッパ 3年 部長 大島麻衣】
麻衣「それに私は新入生(ガキども)に何ら興味が湧かないんで」
そう言って麻衣は正門を抜けた。