争いは終わり、マジ女中に駆け巡る勝者たちの名前。
いつ、どこで、誰が、何をしでかすか読めない状況に、上級生たちはより一層強い緊迫感に包まれていた。
だが、そこに何ら一切の遠慮なく、1人のヤンキーがある階段前に佇んでいる。
件の1人だ。
"クラス内争い"と言うイベント事に盛り上がっているマジ女に、休む暇を与えようとしない彼女。階段に向けて足を伸ばすが、感じた背後からの気配にそれを止める。
振り返ると、敬礼よりも角度を落とした姿で、階段のその奥を眺めている優子が、そこにはいた。
優子「何か…ここだけ重くねぇか?空気」
上げていた顔を下げ、言葉を投げた相手を視界に入れる。次の瞬間には、笑ってみせる優子。
しかし、彼女の仏頂面には変わりはなく、ただただ虚しい時間が通り過ぎるだけ。
それでも尚、笑みをう浮かべ続けている優子に折れたのか、堅く閉ざしていた口を開いた。
?「この先に何があるのか知らねぇのか?」
【馬路須加女学園 新1年 篠田麻里子】
首を傾げてみせる優子。
それに対して、思わず呆れた篠田は言葉を続ける。
篠田「この先にあるのは吹奏楽部の部室、ただ1つだけだ」
優子「吹奏楽部?…あぁお前、音楽好きなのか」
篠田「お前はバカか?このヤンキーの巣窟に音楽をしに来る奴なんている訳がねぇだろ」
掌に拳を落とす、大袈裟な動作で納得したと伝えてみせる優子。
篠田「"ラッパッパ"と呼ばれる喧嘩最強集団がこの先にいるんだ。んで、この階段を昇ると言うことは、奴らへの宣戦布告を意味する。…わかったか?」
表情にイライラが出てしまっている篠田に相反する優子。
"喧嘩最強集団"のワードに思わず逸らせてしまう鼓動。そんな彼女の視界には最早、篠田の姿はなかった。
優子「おいお前、階段昇るなら一緒に昇ってやろうか?1人で全員を相手にするのは無理だろ?」
篠田「私がお前と?…笑わせんな」
優子の提案を鼻で笑うと否や拳を繰り出していた。しかし確実に顔を狙ったそれは、彼女の掌にすっぽりと収まっており、動かない。
均衡する互いの力。
ピクリともしない自分の拳に動揺が止まらない。
何とか振りほどこうと、色々と試みたがそのどれもが失敗に終わり、いよいよ"タイマン"と言う武力行使に出ようとしたとき、その手は解放された。
優子「無駄な体力使わせんなよ…。この階段、昇るんだろ?」
篠田「うるせぇよチビ。…もうそんな気分じゃねぇよ」
それだけ吐き捨てると、階段に背を向けた。
優子「何か悪ぃことしちまったな…」
-場所は変わり、吹奏楽部の部室-
珍しく部室に、ラッパッパの全メンバーが集まっている。
扉を開けたその奥、この部屋で最も煌びやかな椅子がある。それに腰を掛けているのは、ラッパッパの部長である大島麻衣。
麻衣「お前が来るのは意外だな」
自分の前に立つ1人のヤンキーへと零す。
腕を組むどこか不機嫌そうな彼女は、軽い会釈だけを返す。
【馬路須加女学園 新1年 板野友美】
麻衣「歓迎するよ…ラッパッパに」
野呂「ちょっと待てよ。入部テストもせずに…有名人だからって入れるのかよ」
浦野「実績ならあるだろ?中学時代の3年に加えて、"今回の件"も」
野呂「流石だな~。昔から付き合いのある後輩には、こうも甘くなるもんなんだな」
2人の間で高まる緊張。
椅子に腰を掛け、くつろいでいた野呂は立ち上がり、浦野を迎え撃つ体勢を整える。
静まり返った部室。すると、ドン、と1つの音が鳴る。
麻衣「私の前でいちいち面倒事、起こそうとすんなよ。煩わしいな」
先程の音は、麻衣が床を踏み鳴らしたそれであった。
凄まじい殺気を放ち、彼女たちを睨むと、まるで肉食動物に気圧された小動物のように萎縮する2人。
麻衣「ったく…内々で揉めてる程の時間は、うちらにはねぇんだよ………もう3年なんだぞ?」
その言葉から受ける重みに、思わず黙り込んだ。
麻衣「私は昔話は好きじゃねぇ。過去に縋ったって、何も変わりやしねぇからな…。だが…」
急に切り出された話しに一同困惑するも、誰もそれを遮ることはしなかった。
麻衣「かつてマジ女は、他の追随を許さない程に圧倒的で、絶対的な力で県内最強の座に就いていた…一昨年と違ってな。だが、先々代は仕方がなかったとしても、先代はそうじゃない。現状に驕った先代(やつら)のせいで、ヤバクネの勢力拡大を許し、今じゃ最強に最も近いと謳われている…実に不愉快だ」
堅く握りしめる拳。それは恐怖すらも感じさせる光景だった。
麻衣「だから私たちは今年、天下を獲る…かつての栄光を再びってやつだ」
その言葉は部員全員に士気を宿す。
折井「戦争になるなら、こいつらをどう取り込むかが鍵になりそうだな」
ホワイトボードに貼られた写真と記載されている名前に目をやり、拳を叩きつける。
A 大島優子 D 秋元才加
B 柏木由紀 E 篠田麻里子
C 板野友美
書かれたそれは、先の戦いで勝利を掴んだ者たちの名。それには、今後の動向に注意を払う必要性が十二分にあると言う警告の意も含まれている。
増山「大島優子?…聞いたことのない名ですね」
宇佐美「高校進学にあたって、こっちに越してきたのか…それともスーパールーキーか…どっちだろうな?」
麻衣「大島優子かぁ…」
折井「その感じだと覚えてなさそうだね、麻衣」
折井の方へと向いた麻衣。その顔はとても困惑しているようだった。
麻衣「私、知ってるのか?…」
折井「うちらが1年のときにあった、マジ女とヤバクネの抗争。それに終止符を打ったのが、大島優子だよ」