入学式の翌日


マジ女、その校舎1階では、例年通りに喧騒に包まれていた。

理由は、一室を除き、各教室で巻き起こっているクラス内争いと言う、何とも単純で明快なもの。


1-A教室

ここは他の教室とは違い、妙な静けさがある。

だが、決して人がいない訳ではなく、クラスメート同士が睨みを利かせ、それを織り成していた。

その均衡を破壊するべく現れる優子。首の骨を鳴らしながら教壇に立つと、ニコリと笑う。


優子「他も盛り上がってきたところだし…うちらも始めようぜ」


その言葉を皮切りに、膠着状態にあった教室は生まれ変わり、ヤンキーたちが動き出す。


?「おいおい、無名が何仕切っちゃてんの?雑魚は眼中にねぇんだよ」


【馬路須加女学園 新1年 平嶋夏海】


平嶋「雑魚ちゃんの煽りで、やる気になってる馬鹿どもには申し訳ないけど、1-A(ここ)の頭は、私かアイツだよ。…なぁ星野?」


言葉と視線を"星野"と呼んだヤンキーに投げかけ、指の骨を鳴らす。

その"星野"もまた、目の前にある机を蹴っ飛ばして、闘志を燃やす。


星野「1-A(ここ)の頭は譲らねぇぞ?…平嶋!」


【馬路須加女学園 新1年 星野みちる】


盛り上がった2人が衝突する寸前、教卓がその間に落ちた。

間一髪のところで躱す2人は、額に冷や汗を滲ませている。程なくして教壇の方へと顔を向けると、天高く足を突き上げた優子の姿がそこにはあった。


優子「あ…わりぃわりぃ。そこに落とす気はなかったんだけど、蹴り損ねちまった」


意図すれば当てることもできた、と言われたような気がした2人は、"大島優子"と言う存在を認識した。


優子「お詫びと言っちゃなんだけどよ…お前らを同時に相手にしてやるよ」


軽快に首を鳴らすと、青い目から赤い目へとガラリと変わる。

しかし、そんな優子に臆することなく、啖呵を切る平嶋。


平嶋「舐めんのも大概にしろや」


刹那に駆けるが、優子の許へは遠く及ばない。点在するクラスメートたちが壁となり、思うような展開へと持ち込めないでいた。

それは優子もまた同様で、2対1の喧嘩から大乱戦へと昇華したことに、若干の面倒くささを覚えずにはいられなかった。

優子、平嶋、そして星野のため息が重なる。次の瞬間、3人は勢いよく駆け出した。

それはまるで止まることを忘れた暴走列車の如く。

順当に薙ぎ倒して数を減らしていく彼女たち。その果てに、やっとのご対面。

と、同時に脇目も振らずに平嶋は優子に攻め立てる。

辛うじてそれに反応した優子。何とか組み合うことで、自分に降りかかるダメージを最小限に留めていた。


優子「(あっぶ)ねぇ~。間に合ってなかったら痛いで済まなかったかもな」


(………!?)


平嶋は思わず目を見開く。その目に映るのは、優子の背後を取った星野の姿。


『お詫びと言っちゃなんだけどよ…お前らを同時に相手にしてやるよ』


平嶋「私の喧嘩…邪魔すんじゃねぇよ」


そう怒鳴った次の瞬間、優子を払い除けようと腕に力を込める。

が、不思議なことに倒れていたのは平嶋だった。

このとき、優子は平嶋を上回る力で、逆に彼女を払い除けていた。更には背後より迫り来る星野に対し、振り向き様に腹部を殴り付けていた。

優子の足下で腹を抱えて蹲る星野と、少し離れたところで机に体を刺され、痛みに悶える平嶋。

僅かな内に示された実力差を噛み締めるも、敗けたくない、負けられない、その一心で立ち上がる。


星野「お前…名前は?」


優子「…?……そういや名乗ってなかったな…。私は大島優子。よろしく」


星野「あっ…私は星野みちる。よろしく」

(大島優子?…聞いたことねぇ名前だな…。だけど、この痛みから察するに、イキがってるだけの目立ちたがりって訳じゃねぇよな…)


星野「あぁ~考えたってわかんねぇ…一先ずくたばれやぁ…大島優子」


次の瞬間には駆け出し、一気に間合いを詰める。

それに合わせて平嶋も迫る。

しかし先に到着した星野を、優子は簡単にいなし、平嶋とぶつかった。

互いに拳を繰り出すと、それらは交差して頬を打つ。

意識が飛びかける平嶋に対し、余裕そうに笑みを浮かべる優子。

そこに、またも背後から星野が仕掛けた。優子の後頭部を目がけて、思いっきり殴りつける。

突然、後頭部に強烈な痛みが走るや否や顔から床に落ちた優子。その拍子に鼻をぶつけ、溢れ出す血。


優子「痛ぇ~。油断した」


鼻血を手で拭いながら立ち上がる。鋭い眼光で2人を睨もうとしたとき、平嶋の蹴りと星野の拳を捉えた。

とは言いつつも反応は遅れており、彼女たちの攻撃を躱すことはできていなかった。

星野の拳は辛うじて左腕で守れたものの、平嶋の蹴りが右上腕に打ち込まれている。


優子「いい連携だな…ホントに敵対してんのか?」


平嶋「後悔してきただろ?2対1の喧嘩にしたこと」


星野「まぁ後悔しても遅いがな」


次の瞬間、逆の手で殴りかかるが叶わない。

それもそのはず、優子は星野の既に打ち終わっていた拳を弾き、飛んでくる拳を掴んでいたからだ。


優子「全然後悔してねぇよ…むしろ楽しくなってきたところだよ」


平嶋「強がりも大概に…!?」


刹那、容赦のない優子の蹴りが鳩尾に刺さって吹き飛ぶ。

それによって、一瞬気が緩んだ星野。

生じた隙を一切見逃さなかった優子は、畳み掛ける。顎を殴り、膝に鋭い蹴りを打ち込んだ。


星野「ぐっ……」


体勢を崩した彼女の腹部に、優子は膝を刺し、堅く握った拳をこめかみへと打ち放った。

殴り飛ばされた星野は、カーリングストーンの様に滑り、ロッカーに背中を預ける形となる。

優子はそれを最後まで見届けると、平嶋へと視線を移す。

しかし彼女は倒れたままで動いておらず、先程までの(や)る気は見られなかった。


星野「ぜぇ…ぜぇ…大島優子と言ったな………何者なんだ?お前」


優子「?…意味わかんねぇ奴だな。私は喧嘩好きの至って普通の女子高生だよ」


(それって……普通なのか…??)


星野と平嶋は全く同じことを心の中で呟いた。

荒れ果てた教室を後にする優子。去り際に零す「楽しい…」って言葉は、どこか哀愁を感じさせるものだった。