「戦争の社会学」橋爪大三郎(光文社新書) | 乱読家ぽちんの独り言

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【『あとがき』より引用】

本書が言っていることは、とてもシンプルだ。

人類はこれまで、戦争とともに歩んできた。戦争を克服し、平和に生きる希望をもつためにも、戦争の知識は必要だ。戦争を、社会のなかのノーマルな出来事として、みつめよう。

それを、普遍的な(=誰の耳にも届く)言葉で語ろう。そう、「戦争の社会学」を身につけよう。

戦後の日本は、これを怠ってきた。だからこの本は、戦争からずっと目を背けてきた、でもそれをどこかでマズイと直感している、多くの日本人のためにまず、書かれている。そして同時に、この世界を守るため最後の手段として戦争を辞さないが、しかし戦争を防ぐためにあらゆる努力を惜しまない世界のすべての人びとのためにも、書かれている。

【引用終わり】



本書は、東京工業大学での「軍事社会学」の講義を元に新書化したもの。

古代の戦争、中世の戦争、火薬革命、戦時国際法、クラウゼヴィッツの「ナポレオンの戦争論」、海戦の議論、天才軍人モルトケの戦略、二つの世界大戦の考察、日本の戦争、21世紀の戦争、など。



●クラウゼヴィッツが『戦争論』で下した「戦争」の定義は、『戦争とは、暴力によって、自分の意志を、相手に押しつけること』。


●西ヨーロッパでの「中世」を定義づけるもの。「土地と結びついた領主支配」「安全保障のための領主間の契約」「武装できるのは領主層に限られる」「領主の権力に正当性を与えるキリスト教」など。


●中国の軍隊は、武官よりも文官が優位。文官は、人事権や武器、兵糧の管理を通じて武官を統制する。軍隊は正規兵のみであり、領主が各地で自己武装させないようにした(現在の中国共産党も基本は同じ)。よって、中国には中世は存在しない。


●日本には中世がある。武士が軍事力を握り、領主は自己武装していた。天皇家が領主の権利を正当化した。西ヨーロッパの中世に近い。


●イギリス海軍の前身は、海賊だといわれる。そしてその実態は武装した商船だった。当時、海上は無法地帯で、商船も武装していないと、途中で襲われて無事に目的地に到着できる見込みが無かった。そうした武装商船が戦時には海軍に編入された。


●ナポレオンが戦線連勝できたのは、ナショナリズムという「戦争を支える主体」が新しくなったから。武器が改良されたわけではない。用兵が新しくなったわけではない。フランス革命の結果、国民の為の国家が出来、他国の干渉戦争を跳ね返すため、フランスの若者が大量に軍に加わった。田舎でくすぶっていた若者が軍人になった。圧倒的に人数が多く、士気も高く、費用がかからない。他国は、ナポレオンに対抗すべく「徴兵制」を取り入れた。


●日露戦争。「マハンの海戦論」によれば、ロシア海軍がまずすべきは日本と朝鮮半島の補強線を断つことであり、そのために旅順艦隊を増強すべきだった。


●戦争が長引いた第一次世界。動員された兵力は8700万人で、戦死者は1000万人に及ぶ。戦争が長期化したのは、攻撃力を防衛力が上回り、膠着戦が続いたから。膠着戦を突破するために、戦車、飛行機、毒ガスなどの新しい兵器が開発された。


●第二次世界大戦。航空機が戦力に加わることで、前線と後方の区別がなくなり、戦争が全く別のものになった。後方の兵站や工業施設を航空機は直接攻撃出来る。そして、航空機による都市への空襲、そして原爆投下という民間人への大量の殺戮が容認された。



古代から近未来までの「戦争の仕方」の歴史を学ぶ本です。

日本は、いつ戦争が起こってもおかしくない情勢下にあり、国民の命をどうやったら守れるかを考えるキッカケになると思います。


この本も強くオススメします。



「戦争の社会学」橋爪大三郎(光文社新書)

【4月23日読了】

【オススメ度★★★★★】