長い梅雨が明け、各地で猛暑が続いています。
今夏は、夏の風物詩と称されてきた花火大会や甲子園大会も早々に中止となり、また、子どもたちが楽しみにしていた夏休みも大幅に短縮されています。
高温多湿の夏になれば、日本の新型コロナも少し落ちつくのではないか、と見る向きもありましたが、現実はそう簡単ではないようです。
新型コロナウイルスに感染すると、平均して5~6日、最長で2週間ほどの潜伏期間を経て症状が現れます。WHOは、最もよくある症状として、発熱、空咳、倦怠感を挙げています。
新型コロナウイルス感染防止策の「新しい生活様式」では、定時の体温測定も推奨されていますので、多くの企業や学校が家庭での検温を求めているようです。
身体の状態を知る指標の一つになる体温は、病気の診断や経過を見るために欠かせません。この時期だからこそ、体温について正しい知識を持ち、正しく測定することが大切です。
●体温の生理的変動と調節機構
ヒトの体温は、通常36~37℃の範囲で保たれています。身体の深部で約37℃であり、皮膚温は平均して約34℃であることが知られています。
体温には、日周リズムがあり、早朝に最も低くなり、その後徐々に上昇し、夕方に最も高くなります(約1℃)。同じヒトの体温でも、測定する時間によって違いがあります。
また、運動や食事後も体温が上昇します。
私たちの身体は、体熱の産生と放散のバランスをとって、体温を一定範囲に維持しており、そのシステムは間脳の視床下部にある体温調節中枢によってコントロールされています。
体温調節中枢は、脳の視床下部の前の部分にあたる“視索前野”という場所にあります。視索前野には温度感受性ニューロンと呼ばれる脳の温度をモニターしている神経細胞が存在しています。
●感染症と発熱
発熱は、体温調節中枢のセットポイント(基準値:約37℃)が、何らかの原因によって上昇し、体温が上昇した状態です。
体温調節中枢には、皮膚が感じる温度情報や内臓などの深部の温度情報が送られてきます。
また、細菌やウイルスに感染すると、細菌や炎症で死んだ細胞などが発熱物質を出し、免疫細胞が放出するインターロイキンなどのサイトカインが、プロスタグランディン(ホルモン様物質)の産生を引き起こし、発熱します。
●発熱による身体の変化
40℃の発熱は代謝のレベルを約60%増加させ、免疫活性を高めますが、一方で血液中の水 分が細胞内へ移行したり、発汗が増えたりして、血液の濃縮や脱水症状を招きます。
また、呼吸数や心拍数が増しますが、消化機能は低下します。高熱、脱水のために神経障害を生じたり、筋肉痛が起こる場合もあります。
このように、体温の上昇は、好中球の殺菌作用を強めたり T細胞の活性を高めたりして細菌の増殖を抑えるという効果がありますが、身体を消耗させるなど二面性を持っているのです。
●解熱剤の使用は慎重に
熱が上がり過ぎてよほど辛くなったときは別ですが、解熱剤の使用は、病状の理解を誤らせる場合や副作用もあるので、慎重にとされています。
三石巌著『医学常識はウソだらけ』(祥伝社黄金文庫)にも記載がありますが、解熱剤によって無理やり熱を下げるのは、身体の正しい反応を邪魔することになりかねず、体温が高い方が代謝レベルも高まることを考えると、むしろ解熱剤が身体の抵抗力を奪っている可能性もあるといえます。
発熱は「安静にしていろ」という身体からの警告だと考え、ウイルスとの戦いに全力を傾けている身体の邪魔をせず、協力してあげることが大切なようです。
平熱は個人によって異なりますので、日ごろから情報として自分の体温を知っておくことが大切です。また、日周リズムや身体活動によっても変化しますので、体温は毎日、ほぼ同じ時間帯に同じ条件で測定しないと比較の意味がないことも理解しておきましょう。