食事は大人数で楽しく、ひとりでも美味しく食べることがとても大切です。
私たちはストレスのある状態では身体が正常に働かず、栄養素の消費量にも変化が起こります。
ストレスと栄養素の消化吸収
1977年に行われた実験では、普通の食事を食べた時には胃液やガストリン(胃酸分泌刺激ホルモン)が分泌されますが、プラスチックのチューブをただ噛むだけでは胃酸やガストリンは分泌されませんでした。
つまり、食べた瞬間に美味しいという感覚が刺激となり、消化酵素や消化ホルモンを分泌させるため、美味しいという感覚がなく、食べることがストレスになってしまうようでは分泌されないことが分かったと報告されています。
美味しいことが大脳に伝わることで、その情報が自律神経系を介して消化管に作用し、消化のための準備態勢を整えていると考えられます。
食事の感覚は消化吸収だけでなく、食後のエネルギー代謝にも影響していると言われています。
ストレスとタンパク質
ストレス状況下ではタンパク質の代謝も変化すると言われています。
学生を対象に行われた実験では、断眠、昼夜逆転、試験の精神的ストレスなど様々なストレスによって窒素排出量が6〜20%増加していることがわかりました。
窒素排出量が増えるということはタンパク質の消費量が増えていることを表しています。
ストレスによるタンパク質の必要量の増加はドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンなどの神経伝達物質や副腎皮質ホルモンなどのホルモンの分泌量の増加により、タンパク質の分解が亢進するためだと考えられています。
神経伝達物質はタンパク質の構成成分であるアミノ酸から合成されています。
また、ある動物実験ではストレスをかけると動きが減少し、脳内のノルアドレナリンの分解が増加しましたが、チロシンを与えるとストレスに伴う行動の変化が消失し、ストレスへの対応が起こったと報告されています。
チロシンは肝臓で合成できるアミノ酸ですが、脳では合成することができません。
ストレスに対応するためにタンパク質とともに、チロシンが多く含まれる食品の摂取もおすすめです。
チロシンはチーズや納豆、豆腐、バナナ、ナッツ類に多く含まれています。
ストレスとビタミン・ミネラル
ビタミンB1はブドウ糖からエネルギーに変換する際に重要な働きをしており、さらに脳内の神経伝達物質の合成にも関与しています。
ビタミンB6は神経伝達物質の合成に関与しており、脳の働きに大きな影響を与えています。
ビタミンCは強い還元力を持ち、副腎に高濃度に存在し、ストレスに対抗するホルモンと言われる副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の合成に関与しています。また、コルチゾールの合成にはビタミンEも関与しています。
マグネシウムは神経伝達物質の合成に関与しています。
ストレスがかかると腸管でのカルシウム・マグネシウムの吸収率が減少すると言われており、さらに、ストレス時に分泌されるコルチゾールやノルアドレナリンはカルシウム・マグネシウムの尿中排泄を促進してしまいます。
鉄が欠乏するとヘモグロビンの濃度が低下し、酸素が運べなくなり、ブドウ糖の利用率が悪くなります。また、神経伝達物質の合成にも関与しています。
そしゃくの大切さ
そしゃくには肥満防止、味覚の発達、口周辺の筋肉の発達、脳の発達、歯周病や口臭の予防、消化吸収の補助など多くの効果があります。
さらに、唾液中にあるペルオキシダーゼという酵素には活性酸素を除去する働きがあり、ガン予防になるともいわれています。
そしゃくして、唾液と食物を混ぜ合わせることで、食物に含まれる発がん性物質によって発生する活性酸素を除去するということが報告されています。
現代人は忙しくてゆっくり食事をする時間がなかったり、噛まなくてもいい食事をするようになっており、昔に比べてそしゃく回数がかなり減少していると言われています。
健康のためにも楽しく、美味しく、たくさん噛んで食事をすることが大切です。
ストレス事典 河野友信、石川俊男編(2006)朝倉書店
咀嚼とがん予防
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshaku1991/1/1/1_1_25/_pdf