NK(ナチュラルキラー)細胞をつくる話にもどるとしよう。NK細胞の数がたりないことは、センサーがなくちゃわかるまい。それがどこにあるか知らんが、とにかくこれをつくらにゃあかん。そこでフィードバックシステムがはたらきだすんだ。
NK細胞は、タンパク質だけでできているわけじゃない。細胞膜はリン脂質といって、リン酸・脂肪酸・グリセロールの三つからできているんだ。どれも食い物からとれるんで、わざわざつくることはない。だが、それをくっつけてリン脂質にしなけりゃならん。
この仕事はだれがやると思うか。これは、酵素のやることだ。そして、酵素はタンパク質だった。これがキー物質ってことになる。
酵素のタンパクは設計図によってつくられるが、それには、リン酸・脂肪酸・グリセロールをいっしょにのみこむ口があいている。三つのものはそれぞれブラウン運動しているが、そろってその口にのみこまれると、酵素はそれをまとめてくっつけちゃう。
むろん、それにはエネルギーがいるけれど、それはミトコンドリアから供給される。
この酵素の働きぶりは、お見事っていうほかない。こいつがないと、どんな生物もありえないんだな。酵素は手品師だよ。手品だよ。手品のレパートリーは、五千もあるだろう。それを専門の手品師が、さっさとこなすわけさ。
キミは卵にタンパクがあるのを知っているだろう。それはぜんぶ酵素だ。黄身は、手品の道具置き場で白身は、手品師のたまり場だ。
これまでに、タンパク不足だの、高タンパク食だのってことばが出てきたのをキミは気にしているだろうか。ボクの栄養学だと、これは重大なポイントなんだよ。
高タンパク食とは、タンパク不足のない食事の意味で、良質タンパクを毎日、体重の千分の一だけとることをさすことになっている。
良質タンパクの代表は鶏卵だ。ボクはいま、菅平高原にいる。そこのペンションでは、三食に卵を二つずつつけてもらっている。良質タンパクの量は四十グラムほどだ。ボクは体重は六十三キロだから、あと二三グラムでいいわけだ。
肉や魚なら二〇〇グラムぐらいでもまにあうが、不足はじぶんでつくった配合タンパクで、つじつまをあわせることにしている。鶏卵オンリーならば、九個でいいわけだが、これではカロリーがすごくオーバーになる。これは問題なんだな。
この高タンパク食ならば、親の設計図どおりに生きられるはずだ。NK細胞の不足もない。
本原稿は、1994年11月18日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。