活性酸素、活性酸素って目にウロコができるほどやかましくいって、発がん物質の話はどこかへいったんじゃないか、それでいいのかなんて、キミはじりじりしてるんじゃなにのかね。
ボクだってそう思っているんだが、常識の壁をやぶりたいところがあるんだ。それがだいじだから、もう少しがまんしてほしい。
なるほど、発がん物質っていわれているものはヤマほどある。AF2、おこげ、トリハロメタン、農薬、食品添加物、アフラトキシン、キク科植物の花のハチミツ・・・。このほかにもキミの知っているやつがあるだろう。
AF2はトウフの防腐剤で、だいぶまえに市民運動に騒がれて禁止になったシロモノだ。おこげの発がん物質はトリプルP、グルPのふたつで、国立がんセンターが十六億円の税金をつぎこんでみつけたシロモノだ。トリハロメタンは水道水にふくまれているといって問題になるシロモノだ。
AF2の発がん性はとても弱く、口にはいったところで何ということもないシロモノだときいている。“理科離れ”の市民運動のからさわぎだと思うんだが・・・。
トリプルPもグルPも含有量が少なすぎて、毎日一〇〇トンのおこげを食わなければ、がんができないっていう研究結果がでている。
含有量が不足のため問題にならないものはわんさとある。トリハロメタンもその例なんだ。何もビクビクして水道の水をのむことはない。水道水をいじくる装置がいろいろあるようだが、理科離れ好みのへりくつが多いようだ。マユにツバをつけての思案どころだな。
活性酸素はどこへいったかってキミはきたいしたんじゃないかな。これはかんたんな関係だ。発がん物質とは活性酸素をだすもののことなんだ。
医者のくすりでも、AF2でも、トリプルPでも排ガスのベンツピレンでも、からだにはいればゲドク(解毒)される。ゲドクのプロセスで活性酸素がでてくる。ゲドクといったって、毒をけすんじゃなくて、なかに毒をつくるやつがあるんだな。これが発がん物質ってことさ。
そういうわけだから、学術用語じゃ解毒なんていわずに「薬物代謝」っていうことになっている。薬物代謝のプロセスのなかで、活性酸素をつくるものが発がん物質ってことになる。きちんとした話は、井戸端会議用語じゃむりだってことが、そろそろわかってもらえるんじゃなかろうか。
本原稿は、1994年9月30日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。