ビタミンCのはたらきが縦横むじんだとおもったら発がん性があるとは。がんを防ぐいっぽう、がんのもとになるとはどういうことか。
この問題をとくには、発がんのメカニズムがわかっていなくちゃだめだが、これが難物だ。
だからこっちもオタオタしてくるんだなあ。ボクもがんばるからキミも元気をだしてくれなけりゃこまるよ。
発がんには電子がかかわっているんだ。だから、これは医者の土俵をはみだしている。物理学のあつかうしろものなんだ。
前に、DNA(遺伝子)がからだの設計図だっていったことがあるだろう。設計図どおりにいってりゃ何もがんとの縁などはないはずだろう。がんは設計図の狂いからくるっていったら、キミはがっちり受けとめられるかな。逃げ腰になるんじゃないぞよ。
DNAと電子と、なんか関係があるかって。そうこなくちゃいけない。
DNAは設計図だが、こいつは分子のかたちになっている。なにぶんミクロの世界のことなんだから、目先をかえてかからんといかん。
分子ってやつは原子の集まりだ。その原子ってやつは原子核と、それをとりまく電子とからできている。中学生でもそれくらいは知ってるはずだ。
がんはその電子に関係があるんだ。DNA分子をくみたてている原子のもっている電子に関係があるってことだな。
DNAは二重ラセンなんていわれる。ながいラセンが二本からみあったかたちのものだ。それが炭素や水素や酸素や、いろんな原子でできているわけだ。そこに電子がたくさんいるが、こいつのやくめはクギみたいなもんだ。ラセンが木片でできているとすれば、電子は木片をつなぐクギってところだな。
電子が手ごわくてもクギなら何てことはないだろう。
そのクギが一本ぬけたらどうか。設計図はくずれるだろう。狂った設計図でつっくたものはどうか。やくにたたないものもあり、悪さをやらかすものもある。悪さをやらかすのが、がんだな。
DNAのクギが抜けるとがんだ。電子が抜けるとがんだ。電子を抜きとるやつがいるわけだ。それが発がん物質ってことだ。
電子ドロボーはどこにいるんだ?
本原稿は、1994年4月15日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。