認知症とは、正常に機能していた認知機能が、後天的な脳の傷害によって慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態をいいます。
認知症を引き起こす疾患のうち、もっとも多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと失われていく「変性疾患」で、アルツハイマー病やレビー小体病などがあてはまります。
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経細胞に栄養素や酸素が行き渡らなくなり、結果その部分の神経細胞が失われたり、神経のネットワークが破綻してしまう脳血管性認知症です。
このようにさまざまな原因を抱える認知症ですが、発症するまでに25年かかるといわれていることから、予防が十分に期待できると考えます。
[脳の機能維持に必要な栄養対策]
脳細胞やニューロンが要求する栄養素は、エネルギー源や組織の構成材料、機能を正常に果たしていくためのものが主になります。
また、要求する栄養素を補完すると同時に、血流の確保や活性酸素を除去し、周囲の条件も整えていくことが大事になります。
■適正量の糖質の摂取(エネルギー源の確保)
脳のエネルギー源は糖質です。ただし、近年流行の糖質制限はエネルギー不足のリスクを、過剰摂取は、糖化、耐糖能異常、内蔵脂肪型肥満等のリスクを高めますので、適正量での摂取が大事になります。WHOでは、糖質ではなく糖類(砂糖など)摂取を、1日に摂取するカロリーの5%未満に抑えるよう推奨しています。
※(糖類:砂糖、ブドウ糖、果糖)
(糖質:糖類+デンプン+オリゴ糖+糖アルコール)
■エネルギー産生の正常化
(良質タンパク、ビタミンB、C、ミネラル、コエンザイムQ10)
エネルギー源をエネルギーに変えていくためには、代謝を進めていく酵素となる良質タンパク、酵素の共同因子として働くビタミンB群、ビタミンC、ミネラル、コエンザイムQ10などが必要です。
■脳の構成成分
(コレステロール、レシチン、アラキドン酸、EPA、DHA)
脳は、約60%が脂質から成り、その成分にはコレステロール、リン脂質(レシチン)、脂肪酸(アラキドン酸、EPA、DHA)が多く含まれます。
レシチンは、細胞膜の構成成分であるホスファチジルコリンの供給源となり、脂肪酸は脳の機能維持に役立っています。コレステロールは、脳内脂質の中でも1番多い成分です。コレステロールは不要なもの、高ければ下げるという印象がありますが、脳にとっては必要不可欠な成分です。
■神経のサポート
(アミノ酸、ビタミンB群、ミネラル、レシチン)
レシチンは、脳内神経伝達物質であるアセチルコリンの原料になります。その他の神経伝達物質の多くがアミノ酸とビタミンB群(特にB6、B12、葉酸)によって合成されます。ミネラル類の神経への働きも非常に重要であり、中でもカルシウムは記憶形成や感覚伝達など脳のあらゆる神経の情報伝達に関与し、亜鉛は情報伝達に関与する神経調節因子となります。
■血流の確保
(ビタミンE、イチョウ緑葉エキス)
脳の重量は、体重の2%程度ですが、全酸素量の20%、さらに酸素や栄養素を含む血流量は全体の15%をも占めるといわれています。独特の血管網を持ち、大量の酸素や栄養を要求する器官であるからこそ、血管障害や虚血によるダメージを受けやすいのです。
栄養素や酸素を滞りなく循環させるためは、十分に血流を確保することが大事になります。
■活性酸素除去
(ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、植物ポリフェノール)
脳のエネルギー代謝や酸素要求量の大きさなどから、酸化ストレス(活性酸素)がどうしてもついて回ります。さらに、加齢やストレス、疾患の合併により、小胞体ストレス、糖化ストレス、酸化ストレスが混在して生じ、活性酸素の影響は無限大です。脳細胞やニューロンは、活性酸素のダメージに非常に弱いため、抗酸化成分を積極的に摂取することも必要不可欠です。
[生活習慣での対策]
●生活習慣病への対応(特に糖尿病患者は認知症の発症が2倍といわれています)
●禁煙(喫煙者は認知症の発症が3倍というデータがでています)
●運動(身体を動かすことは脳にとっても様々な良い刺激となって機能維持に有効です。運動習慣は認知症を4割減少できるといわれています)
●五感を刺激する(読書、書物、絵や写真を見る・書く・撮る、音楽を聴く、アロマ、マッサージなど)
認知症は、生活習慣との関連も非常に大きいと言われており、またイギリスでは、脳卒中や心臓病の予防を強化したところ、認知症患者が23%も減少したとして注目されていることからも、健康レベルを高める対策こそが認知症対策にも有効だと言えるのだと思います。
しかし、このような栄養が影響を及ぼす可能性については、まだまだ一般には浸透しておらず、せいぜい、生活習慣での対策止まりです。
加齢にともない、生活習慣や食の変化から、栄養欠乏のリスクはますます増加してくると思います。今回の内容をご覧いただくことで、栄養摂取の必要性を見直すきっかけになれば幸いです。