学問となる栄養
分子栄養学の主張のなかには、従来の栄養学を、古典的なもの、古いものとする思想があります。極端な言い方が許されるなら、古典栄養学は、科学の資格をそなえていない、と考えることができるでしょう。そのことは、古典栄養学の英語が、雄弁に告白していることです。
英語では、栄養学のことを「ニュートリション」といいます。ニュートリショントとは栄養を意味することばです。英語では、栄養と栄養学とに、区別がありません。それはつまり、栄養学と日本でいわれるものが、学問になっていないことを証明するものといえましょう。
分子生物学という、新しい生物学が誕生して、すべての生命現象が、科学の光をまともにあびるようになった今日、栄養学がその恩恵に浴して悪いわけではありません。それはつまり、栄養学が、科学としての面目をととのえる時期にきた、ということです。
私の分子栄養学は、そこからきているので、まさに、科学としての資格を備えている、と私は考えます。そこで、この栄養学を、「ニュートリオロジー」と名付けたいと思っています。
ロジーはロジックのことで、「論理」を意味します。学問というものは、一般に論理をもっているので、英語では、語尾をロジーとする学問がいくらもあります。その例は、生物学のバイオロジー、心理学のサイコロジー生態学のエコロジー、動物学のゾオロジー、人種学のエスノロジー、地質学のジオロジーなど、枚挙にいとまがありません。
いずれにしても、私たちがこれから勉強してゆく栄養学は、ニュートリションではなく、ニュートリオロジーでなければなるまい、と私は考えます。そのような意識の変革があって、はじめて、栄養物質と生命とのかかわり、栄養物質と健康とのかかわりが、論理的に、あるいは理論的に扱われることになるのです。
なお、ニュートリオロジーを、即、分子栄養学としてよいかどうかが、一つの問題になります。私としては、分子栄養学を「モレキュラーニュートリオロジー」とし、それを省略して、たんにニュートリオロジーということもできる、としたらよいかと思います。
この講座は、ニュートリオロジー講座ということになるでしょう。
(megv. information vol.10 1983)