「古典栄養学と分子栄養学」
分子生物学を基盤とする栄養学、これが分子栄養学です。これを新しい栄養学とするならば、分子生物学以前のそれは、古い栄養学ということになるでしょう。これを私は「古典栄養学」とよびたいと思います。
古典栄養学は、食物を、熱や力のもとと考えるところから出発します。熱も力もエネルギーですから、古典栄養学では、食物をエネルギー源と考えます。そこで、カロリーというエネルギー単位を使って、食品の「栄養価」を割りだすことが柱になりました。古典栄養学が、現在もなおその価値を失っていないことは確かです。
古典栄養学は、栄養素として、糖質・脂質・タンパク質の三者をあげ「三大栄養素」の考え方を全面におしだしました。栄養価をカロリーであらわす立場があれば、タンパク質はどうしても影がうすくなります。それにしても、三つの栄養素があれば、そのバランスはどうかという問題がおこるのは当然でした。「栄養のバランス」の概念は、そこから生まれたのでしょう。
栄養バランスの数字が一方にあり、総カロリー数が一方にあれば、糖質・脂質・タンパク質の一日必要量が算出されるわけです。そうしておいて、ビタミン・ミネラルをふくむ食品を献立に組みこめば、理想的な食事ができる、というのが古典栄養学の思想なのではないでしょうか。
分子栄養学の理論からすると、三大栄養素の筆頭にくるのがタンパク質になります。「タンパク質は生命をつくる」のです。だから、タンパク質の必要量は、カロリーとは無関係に、プロテインスコ-ア一〇〇の良質タンパクとして体重の一〇〇〇分の一とされます。これは必須の条件でして、糖質や脂質の量に左右されない数字なのです。
この例でおわかりのとおり、分子栄養学では、栄養素の絶対量に目をつけます。だから、栄養のバランスという考え方のでてくる余地はありません。これは、三大栄養素にかぎらず、ビタミンやミネラルなどすべての栄養素について、一貫しての主張となります。
(megv. information vol.4 1983)