「昨日、一緒に居た坊主がまだだが始めるぞ」

男はそう言って目線を楓に向けた。

「そもそも楓にはこの星でやる事があって生まれてきている・・・」

そう言うとハッと思い出した様に

「と、その前に俺の名は・・・そうだな、リョウにしておこう。本当の名はこの星の言語では発音しにくい」

すかさずテツが「龍の身体じゃないと発音しずらいってか?」と聞く

「まぁ、そんなところだ。俺についてもおいおい話そう」とリョウは言った

「だいたいなぁテツよ、お前も本当は俺達を知ってるはずなんだ。今は記憶が飛んでるみたいだが・・・まったく、皆して俺様を忘れやがって・・・」そう続けてリョウは鼻をフンと鳴らした。

テツは一瞬目を見開いたがすぐにいつもの表情になった。心当たりがあるらしい。

淡々と話し始めるリョウが語ったのはこうだ

自分が持っている全ての知識を楓のようにしばらく眠ってもらって伝えたいが、それはこの星の生物には身体と魂に膨大な負担をかけてしまう。したがって面倒だが少しずつ言葉で伝えることにする。

宇宙中の星々を渡り歩き彷徨う「蛇族」に楓の故郷、美しき惑星シエンナは侵略され資源を搾取され続けた結果、星として地上で生命を育める状態ではなくなってしまった。

この宇宙は全て星もそこに生きる生物しかり、みな生きている「生命体」だ。

星との意思疎通を得意としていた楓の種族は、惑星シエンナの意志を伝えられる。

それは「自ら自爆し長い時をかけて再生する」ことだった。

このまま蛇族の思うがまま搾取され続け、星のコアまで影響がおよんでから滅ぶと再生は不可能。だがシエンナの意志(コア)が残っているうちに自ら星を破壊することで再び惑星シエンナとして復活する可能性が高い。

「可能性が高い・・・」つぶやくテツ。

「それじゃシエンナで復活しないかもしれないって事だよね??」美由紀がリョウに訊ねる

「うむ、シエンナのコアが残っている以上はシエンナとして復活するが・・・以前と同様なシエンナとしてではないかもしれないって事だな」

リョウは続ける。

星の意志を受けた楓の種族は動き出す。

星じゅうの同胞達に星の意志を伝えると同時に、破壊のその時まで蛇族を最大限引き付けシエンナと共に吹き飛ばすという作戦を秘密裏に広げた。

侵略戦争を受け続け疲弊していたが最後の総力を振り絞り脱出組と交戦組と別れ、運命の時を待つ。

蛇族と以前から長年戦争を続けていた惑星バラダスの龍族(リョウの種族)がバラダスから星の意志として告げられシエンナの危機を知り参戦、シエンナ脱出の人々の受け入れと長年の蛇族との戦いのノウハウを伝授しながら共に戦った。

「この混乱の中で俺と楓とテツは出会っているんだ」とリョウが言う。

テツは長年モヤモヤしていた事が霧が晴れたようにクリアになったと

「あぁ・・なるほどな。そういう事なのか」何故かニヤッと笑みを浮かべた。

シエンナ消滅のその後、惑星バラダスで生きることになる楓は対蛇族特殊部隊のリョウと共に行動し戦いの中で互いに特別な存在になっていく。

そして異種族間の異例の婚姻関係を結ぶことになる。

「ほう、それが”嫁”という理由か」

「そうだな」

蛇族を追い、戦いに明け暮れる。

そこで蛇族が惑星ガイア(地球)に興味を示し始めた事を知る。

先手をとって地球へ干渉を始める龍族だったが蛇族の狡猾な戦略には守り切る事が出来なかった。

地球は人類誕生からどんどん重くなる。物質至上世界。

霊的には重い世界になってしまったために簡単に他の星の者が干渉できなくなってしまった。

唯一の方法は地球へ転生する事。その星の者として生まれることだ。

だが、この方法には弊害がある。生まれ出た途端に何が目的かすべて忘れてしまう。

蛇族の侵略の方法も質が変わっていく。ただ単に資源もむさぼるというより人類を使って何らかのエネルギーを永続的に搾取する方法に変わる。

宇宙の平和・安寧を見守る宇宙連合は、蛇族の支配から人類を解放する対抗する力を持つように支援するために志願者を募り地球へ転生させ続けるが苦戦を強いられる。

魂の質が周囲にしてみたら異質に感じるのか意味なく虐げられ攻撃される。本来の目的を思い出せないまま発狂して自死してしまう者や使命に気づく間もなく蛇族配下の者に排除される者もあらわれる。

そんな中、楓が決心する。

「地球へ転生する」

あともう少しで地球外の者でも干渉できるようになるという時だったが

「待ってられない」と固い意志を示す。

惑星ガイアは無数の重い焼けた鎖にがんじがらめに縛られ締め上げられているかのように苦しみの悲鳴を上げていた。

星の悲痛な叫びをこれ以上、聞き続けていられないと楓は言う。

「お前ひとり覚醒して何かをしたところで蛇族にしてみれば痛くもかゆくもない、連合が干渉できる時を待つんだ」とリョウに止められたが楓には届いていなかった。

「汚染された土地を浄化して楔を打ち直し連合が来る時まで少しでもガイアを癒し続ける」

「その浄化すらできないで人生を終えるかもしれないんだぞ!」いつも冷静沈着なリョウがめずらしく声を荒げたが、やっぱり楓は聞かない。

楓は転生してしまった。

干渉は出来なかったが見守る事は出来たリョウはずっと楓の側にいた。

なかなか覚醒できない楓。少し苛立ってくるリョウ・・・。

そんなある日、事故が起きた。

それからはテツも美由紀も知っているだろう。

何故、とつぜん楓が霊体から実体化したのかはわからないがそのおかげでリョウがこの物質世界で実体化できるヒントが得られた。

そこで楓に覚醒してもらうため直接干渉しようと現れたという。

楓はこれらの事を事細かに思い出しながら本来の力も取り戻すために次元の狭間を彷徨っている。

「覚醒が完了し目覚めた時からは、浄化と楔の打ち直しの旅が始まるだろう」

「大体の流れはこんな感じだ。そして楓が目覚めたらお前達にも手伝って欲しい」

そう言うとリョウはフゥーと息を吐き

「美由紀、この世界のお茶を堪能してみたいんだが飲ませてもらえないか?」

そう言ってニッコリと美由紀に微笑んだ。

「え?えぇもちろん。いまお茶を淹れてくるわね」立ち上がり台所へ向かう美由紀。

向かう途中にユウジと鉢合わせる。

「今起きたの?」

「う・・・うっス。寝すぎたっス」

「大体リョウから話聞いちゃったんだけど、今お茶入れるから一緒に飲みましょ。楓ちゃんの寝てる部屋に行ってて」

「うっス・・・リョウ??楓ちゃんまだ目覚めてないっスか?ってか話終わっちゃったんスか?!うぅ・・・」

まだ寝ぼけてるユウジの肩をパンッと叩き台所へ向かう美由紀。

チクチクした坊主頭を撫でながら歩き出すユウジだった。

 

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