しんと静まり返った食堂の中央にある古びたダイニングテーブルは1本の大木から作られていて厚みがありしっかりしている。長い間についた傷も誇らしげに自慢さえしているようにも見える。同じ木から作られたであろう椅子も同じく年季が入っていて古そうだがテーブル同様に本当に丈夫そうでちょっとやそっとでは壊れなさそうだ。

実際にユウジの巨体をきしむことなくびくともせず支えている。

勝手口の横からL字に伸びるキッチンも古いが綺麗に片付けられている。

使い込まれて輝きを失ってしまっているシンクに蛇口から一つのしずくが落ちピチャンと音を立て食堂の空気を揺らした。

美由紀とユウジは各々考え事をしているのか黙りこくってしまっている。

隣の部屋にはいまだ意識の戻らないまま布団に横たわっている楓と突然現れた全裸の得体の知れないオッサンがいる。

あれからどれくらい時間が経っただろうか・・・

「龍族・・・ねぇ」美由紀がつぶやいた。

キッチンにあるやや小さめの窓から外の様子がうっすら見えてきている。夜明けが近いようだ。遠くから小鳥がさえずる声が聞こえた気がした。

それにしても長い間、物音ひとつしない隣の部屋の様子に美由紀は不安と苛立ちと、いったいどうなっているんだろうという好奇心が湧いてきた。少し覗くぐらいならいいのではないだろうか。あの全裸の男は楓と2人にして欲しいとは言ったが絶対に部屋に入ってくるなとは言っていない。

楓が心配なのと同時に、あの男の素性と目的も早く知りたいという気分になってきた。

美由紀は「少し様子を見てくる」とユウジに言うと席を立った。

ユウジは「うっス」と返事をすると冷たくなった残りのお茶を飲みほした。

食堂から風呂場の方へ向かい廊下を通って楓達のいる部屋の閉ざされた襖の前に立つ。

部屋の中の2人の気配をうかがうが、やはり物音ひとつしない。

「邪魔になってしまわなければいいけど・・・」

美由紀はためらいながらも襖に手を伸ばした。

スッ。

美由紀の手が届く前に襖が開いた。

驚いて顔を上げると、あの男が目の前に立っている。

「もう大丈夫だ」そう言うと部屋へ招き入れるように男は襖から離れた。

美由紀は心配だった楓の様子を確認しようと足早に部屋へ入る。

まだ目は覚めていないようだ、穏やかな顔ですやすやと眠る楓を見て美由紀は少しホッとした。

ユウジもやって来て楓の顔を見てホッとしているようだ。

「さて、事情を説明しないとな」男はそう言うと少し考えて

「その前に酷く疲れたから休みたいな。お前達も眠いだろう、皆休んでから改めて話そうと思うがどうだ?」と男は美由紀に聞いてきた。

楓の顔を見てホッとしたせいか、確かにズンと身体が重い感じはする。

気を張っていてさっきまでは気づかなかったが美由紀もユウジも眠気がピークに達していた。

2人は一度、睡眠をとることにした。

その日の昼近くに美由紀は目覚めることになる。

布団に入ってから間もなくテツが起きた気配を感じたが起き上がる気力もなく深い眠りに入っていった。

目が覚めた美由紀は手早く身支度を済ませ楓の寝ている部屋へ向かう

いまだ目が覚めていない楓を見守るように、ようやく服を着た男とテツがあぐらをかいて座っている

ユウジはまだ寝ているのか姿が見えない

「楓ちゃんはまだ目覚めなさそうなの?大丈夫なの?」

いまだ不安を拭えない美由紀は男に念を押すように聞く

男は「あぁ、大丈夫だ。楓はいま、昨日言ったように違う世界を旅している。何故こうなったのか・・・それをこれから話そう」

テツがおもむろに顔を上げる

いよいよ物語の本筋が聞けるのかとつぶやいているように見えた

 

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