韓流時代小説 秘苑の蝶~龍は花を探すーカンテク~王妃選考最終試験。残ったのは美しい令嬢ばかりでー | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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第五話(最終話) Blue Lotus~夜の蓮~

去年から一年に渡って執筆してきた長編「秘苑の蝶」ここに完結。

☆国王陽祖が崩御した。陽祖のただ一人の子を懐妊した最晩年の側室となった雪鈴。だが、お腹の御子の本当の父親は陽祖ではなく、世子文陽君だ。やがて即位した文陽君(直祖)は、かつての言葉を思い出させるような大胆な行動に出てー。
ー俺は、そなたを取り戻すために必ず王になる。王になるために、女を奪われた屈辱にも耐えてみせる。
シリーズ最終巻が開幕。

******************

 その二日後、国中の適齢期の両班の息女に対して禁婚令が発布された。国王の花嫁選びである揀擇がついに本格的に始まったのだ。
 即位後まもない国王は二十八歳の若さであり、また風雅だけでなく武芸もたしなむ美丈夫である。都はおろか地方在住の両班の令嬢までもが我こそはと立候補し、想定以上の応募総数があった。
 およそ十数日かけて、第一次、第二次と審査が進む。第一次は書類選考で、二次試験から面接になる。選ばれた令嬢たちは皆、一様に真紅のチマときなりの上衣を纏い、次々に王宮に参内した。三次選考ではかなりの数の令嬢が惜しくも二次で落とされ、王宮に足を踏み入れることができたのはわずか十数人にまで減っている。
 そこで更に慎重な選考が行われ、最終選考へと進んだのは五人の令嬢たちであった。
 最終審査はむろん面接だ。これまでは議政府の三政丞を初め政府の高官が選考官を務めたが、最終審査は王族女性になる。王族女性たちによって選ばれた令嬢を三政丞と国王が承認し、初めて最終的に次代の王妃が決まるのだ。
 ちなみに、最終審査に進んだ令嬢たちは結果に関係なく、全員が王の配偶となるのは決まっている。つまり、この時点で既に彼女たちは王の後宮に入ることは約束されているわけだ。
 最終選考は言うなれば、中殿選びとも言い換えられる。五人の中から王妃になれるのはただ一人きり、後の四人は高位の側室として遇されることになる。
 一月も終わりに近づいたその日、王宮の眺めの良い楼閣で揀擇の最終試験が行われた。
 国王直祖が最上段に座し、王族女性が王を中心にズラリと縦に並ぶ。王族としての位が高い順に並んでおり、むろん、王よりやや下方、隣に陣取るのは後宮、王室の最長老たる大王大妃である。
 とはいえ、この場に連なった王族夫人の大半は宮外に住まう方ばかりだ。いかにせん、現国王にはいまだ側室さえいない。当代の後宮からは大王大妃と先代王の後宮であった雪鈴二人のみの参加だ。
 本来なら正式な側室でさえない雪鈴は末端に座るはずなのに、そのために大王大妃とほぼ同等の場所、つまり、国王のやや下手隣に席を与えられることになってしまった。
 国王を間に大王大妃、雪鈴が並び、それを筆頭に前王の側室、大王大妃の娘たちとなる。前王の側室はすべてが揃ったわけではなく、高位の数人が招かれたのみだ。
 前王の時代の後宮ではむろん、彼女たちの方が雪鈴よりははるかに位階が高かった。しかし、現在、雪鈴は前王のただ一人の御子を懐妊中として後宮にとどまっている。
 従って、かつての位階よりは御子の母である功績の方が重んぜられたのは言うまでもない。
 楼閣からは遠く山々が眺められ、吹き抜けのため、風が通り抜ける。一月の極寒ではあるが、この日は新しき王の前途を言祝ぐかのように小春日和の温かな一日となった。
 図画署の名だたる絵師が描き上げた水墨画のような風景を遠目に眺める中、女官たちによって国王初め王族女性に茶菓を乗せた小卓が配られる。年配の尚宮数人が片隅に控え、すべてが滞りなく行われるように眼を光らせていた。
 室の片隅には清国渡りの青磁の壺に大ぶりの花が生け込まれている。いずれもが今を盛りの梅の花で、楼閣内に得も言われぬ香りを放って列席者を楽しませていた。大王大妃の傍らには白梅、雪鈴の横には紅梅が配置されている。銀髪の似合う穏やかな雰囲気の大王大妃はまさに白梅のような気品があり、年が明けて十八歳の特別尚宮ソン氏は輝くばかりの美貌に艶やかな紅梅がふさわしい。
 流石に父親ほど年の離れた前王をひとめで虜にしただけあり、ソン氏の美貌は並み居る女性たちの中でも目立っていた。
 すべてが整ったところで、今日の主役である令嬢たちが入室してくる。彼女たちは選考中はずっとお揃いのお仕着せを着用することになっている。上質な絹の華やかな衣裳を纏った五人は、いずれもが咲き始めた花のような匂いやかな美少女ばかりだ。流石は国中から選び抜かれた名花である。
 だが、正直なところ、世間的には美女と褒めそやされるこの令嬢たちも、上座のソン尚宮に比べると何故か急に色褪せた花に見えてしまうのは、どうしようもない。
 静々と入室してきた令嬢たちは、横一列に並ぶ。彼女たちは上座の国王、大王大妃、雪鈴に向かって一斉に拝礼を行った。
 本日の課題は二つある。一つめは王族女性にお茶を淹れて差し上げること、二つ目は、王族女性からの問いに応えることだ。
 どなたがどの令嬢を担当するかは予め決められていたが、令嬢たちには知らされていない。
 まずは最初の令嬢が呼ばれ、大王大妃の前でお茶を淹れ、その質問に応えた。女性にしてはやや大柄ではあるが、目鼻立ちの整った美しい娘である。茶器を持つ仕草も流れるように優雅で、王室の最高権力者からの質問にも臆することなく淀みなく応えた。この令嬢は礼曹参判の次女とのことだ。
 次の令嬢の名前が呼ばれた。
「キム・スンジェ」
 前の令嬢と入れ替わりに、新たな令嬢が御前へと進み出る。今回の試験官は雪鈴である。
 雪鈴は最初、こんな大役はできないと辞退したのだけれど、通るはずもなかった。
 キム・スンジェと呼ばれた令嬢もまた美しい。きりっと引き結んだ口許は緩く弧を描いている。場に気圧されないどころか、かなりの余裕と自信があるのだろう。
 焼け付くような視線を感じ、雪鈴は慄然とした。何故か、令嬢が敵意に満ちたまなざしで雪鈴を睨みつけている。だが、当然ながら、雪鈴は彼女と逢ったことなどない。何ゆえ、我が身にこのような烈しい敵意が向けられるのか、解せなかった。