韓流時代小説 秘苑の蝶「夢の途中」後編ー二人の王に愛された孝慧王后の数奇な生涯ー佳境へ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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☆☆次回予告☆☆

 

夢の途中~秘苑の蝶~【後編】

著者 : 東めぐみ

発売日 :

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5月に刊行した「夢の途中~秘苑の蝶~」後編。

国王陽祖に召し上げられた雪鈴は、後宮入りし、承恩尚宮となった。21歳も若い娘のような雪鈴を熱愛する陽祖。
一方、文陽君ことコンは愛する想い人を突然、王に奪われ、嫉妬で鬱々とした日々を送る。そんな中、世子冊封の儀式が行われ、コンはついに正式な東宮となった。
コンはまだ雪鈴が一方的に別離を告げたのは、自分の前途を思い身をひいたのだと考え、何とか雪鈴の本心を確かめたいと思っている。しかし、「王の女」である雪鈴と世子であるコンが二人きりになれる機会など、あるはずもなかった。
だが、秘苑と呼ばれる王宮庭園の奥深く、二人は運命的かつ皮肉な再会を果たす。
更に、導きの蝶である銀蝶が雪鈴を導いたのは王妃の居所とされる中宮殿だった。
ー今でさえ正式な側室でもないのに、私が王妃になるなんてあり得ない。
やはり、銀蝶が未来を告げるというのは自分の思い違いにすぎないと苦笑する雪鈴だったが。
*************(本文から抜粋)
 と、銀蝶が突如、羽をはためかせ舞い上がった。ついて来いとでもいうように、忙しなく羽をはためかせている。
 雪鈴が歩き出すと蝶もまたひらひらと前方を飛び、立ち止まれば待ってくれるかのように静止している。あたかも自ら道案内役を買っているかのようでもある。歩き始めた雪鈴を見て、尚宮も慌てふためいて付き従う。
 銀蝶は光の粉を振りまきながら、雪鈴を先導していった。既に戸外はすっかり夜の気配に包まれており、紫紺の空には銀月が浮かび、銀砂子を撒いたかのような星たちが煌めいている。
 美しい夜に幻想的な銀蝶、まだ自分は夢を見ているのではないかと錯覚しそうになる。
 半ば夢見心地で歩いていた最中、ふっと銀蝶がかき消えた。
「待って」
 ー行かないで。私を一人にしないで。
 コンとの想い出のよすがでもある銀蝶を呼び止めようとしても、既にあの美しい蝶は影も形も見えなくなっていた。
 雪鈴は眼をまたたかせた。
 ここは、どこだろう? 後宮の一角には違いないが、見慣れない場所だ。月光に照らし出された前方には、壮麗な殿舎が聳えている。
「ここは、どこ?」
 雪鈴が問うともなしに問えば、傍らに控えた尚宮が答えた。
「交泰殿(キョテジョン)にございます」
「交泰殿?」
 雪鈴は息を呑んだ。交泰殿は中殿(チュンジョン)、つまり王妃の居所である。現在、陽祖の正妃は既に亡くなって久しく、臣下たちに勧められても王は継妃を迎えていないため、王妃殿は無人であった。今も灯りはついておらず、ひっそりとしている。
 もちろん、毎日、当番の女官たちによって掃除され空気の入れ換えもされているはずだが、やはり主人を失った無人の殿舎はうらぶれた雰囲気が漂う。壮麗なだけに余計に物寂しさが増していた。
 銀蝶は何故、我が身を交泰殿に導いたのか。王の寵愛を受けているとはいえ、いまだ正式な側室でさえない自分が王妃になるなど夢のまた夢、想定外だ。
 やはり、あの蝶が運命を告げるというのは雪鈴の考え過ぎにすぎなかった。それでも、たった今、コンとの辛すぎる再会を経たばかりの身には、あの美しくも儚い蝶を見られたのはせめてもの心の救いとなったのは確かだ。
 雪鈴はなおも銀蝶が消えた方を名残惜しげに見つめていた。