韓流時代小説 秘苑の蝶~龍は花と天翔けるーけだるさの余韻。夜明けまで、ただ抱き合っていた二人 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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第三話  韓流時代小説 夢の途中【秘苑の蝶】  前編

~イ・コンこと文陽君が世子に冊立される?~

 地方の田舎町で両想いの恋人として、幸せな時間を過ごしていたコンと雪鈴(ソリョン)。だが、幸せは長く続かず、国王からの王命で、コンは急きょ、都に呼び戻されることになった。雪鈴も彼と共に生まれて初めて漢陽へ赴く。
 国王から王宮に呼ばれたコンは、そこで世子に指名されたのであった。
 そして、雪鈴はコンに起きた身の激変について知らぬまま、ついに二人して出掛けた海辺の小屋で初めて結ばれる。
 しかし、嵐の一夜を二人きりで過ごし邸に戻った若い二人を過酷な運命が待ち受けていた。
 コンを訪ねてきた国王が雪鈴を見初めたのだ!
 王はコンから強引に雪鈴を奪おうとしてー。
 嵐の王宮編、怒濤の展開、前編。

******

 それから幾度、雪鈴の上を嵐が通り過ぎただろうか。その夜、コンは風となった。あるときは荒れ狂い雪鈴を翻弄し、またあるときは彼女を優しく包み込んだ。
 雪鈴は風に吹かれ、幾度も花びらを散らしたのだ。
 初めての行為に流されっ放しだったせいか、コンがいつ服を脱いだのかも知らなかった。
 初めての絶頂は凄まじいものだった。
 あまりに凄まじい快感に、眼裏が紅く染まり、ついで白くなった。白色は次第にまばゆい光を増し、いつしか銀色に変わる。瞼で無数の銀の蝶が舞っていた。
ーこの蝶は。
 雪鈴は不思議な想いに囚われた。今、コンに抱かれ未知の世界に足を踏み入れた彼女が見ているのは、紛れもなくあの銀蝶であった。雪鈴が崖から飛び降りた時、コンの邸で初めて目覚めたときにも、この蝶は現れた。更に銀蝶は彼女を王宮に導いたのだ。また姫貝細工が満開であった姫乃原にも、この蝶は現れた。
 大半が夢の中の出来事だったから、さほど気にも留めなかったけれど。
 その瞬間、雪鈴は、やはりこの蝶は自分を導く運命の蝶なのだと知った。奇しくも銀蝶が夢で王宮に導いたのは真実になった。コンが予期せず世子となり、彼の側で生きると決めた雪鈴もいずれは王宮に赴くことになるからだ。
 では今日、銀蝶が再び現れたのにも何か意味があるのかー。我が身が彼と結ばれたことに何らかの意味が、運命の激変があるのか。
 あまたの銀蝶は渦を巻くように群舞する。それらは次第にまた一体となり、眩しい光の渦となった。
「ああっー」
 雪鈴はひときわ声を上げ、瞼で群舞する銀蝶たちが織りなした光が砕け散る。雪鈴自身もまた砕け散り、高く高く飛翔した。身体が信じられないほど軽くなり、大空を飛翔しているかのようだ。
 その瞬間、確かに彼女は星になっていた。輝く夜空から緑の地上を俯瞰し、鳥のように翼をはためかせ夜空を翔けていた。
「雪鈴」
 コンもまた切なげに眉を寄せ快感の吐息を洩らす。雪鈴はかつてない眩しい銀の光に飲み込まれた。
 瞼の向こうで、また銀の蝶が踊っている。
 あまりに烈しい快感に、雪鈴の意識はついに銀色の大きな渦に吸い込まれた。

 烈しい嵐に翻弄され尽くし意識を手放した雪鈴が次に目覚めたのは既に夜明けが近かった。小屋内には夜明け前の薄蒼さがそここに漂っている。
 嵐の後の静けさに包まれ、二人は、ぴったり寄り添い合っていた。寝具などあるはずもなく、コンの上衣を掛け衾の代わりにしている有り様だ。
 コンが手枕をし、雪鈴の肩に空いた方の腕を回している。雪鈴が意識を取り戻した時、コンは既に眼を見開き、見るともになしに天井を見つめていた。
 一体、いつから起きていたのだろう。言葉にして訊いてみたい気もしたけれど、何故か勇気がなかった。
 昨夜、とうとう自分たちは一線を越えてしまった。コンを大好きな雪鈴としては、彼に抱かれたことを後悔はしていない。けれど、コンの方は二人の関係が一夜を境に大きく変化してしまったのをどのように受け止めているのか。
 そっと秀でた横顔を窺っても、コンの整った面からは見事なまでにすべての感情が排除されている。
 昨夜の一部始終が記憶に蘇り、雪鈴は我知らず赤面した。
 かなり早い段階から彼女はコンの巧みな愛撫に流されてしまい、意識は朦朧としていた。あまりに過ぎた快感は苦痛も伴うものだ。しまいには、このいつ途切れるか知れぬ快楽地獄が終わって欲しいとさえ願ったほどだ。
 が、曖昧模糊とした意識の狭間でも、自分がコンの前で乱れに乱れたという自覚はある。はて、コンはそんな雪鈴を見て、どう思ったのか。
 十六歳で嫁ぐ前、母は雪鈴に婚礼に際しての知識を授けた。未婚の娘が思わず顔を背けてしまうような淫らで赤裸々な春画が描かれた絵巻物を広げ、祝言の夜に花婿が花嫁をどのように扱うのを教えてくれた。
 だが、母自身が両班家に生まれ育った令嬢だ。父との結婚生活を知るだけで、たいして性の知識があるわけではなかった。母は肝心の部分になると頬を赤らめ、曖昧な言葉で濁すため、結局のところ、雪鈴は祝言を挙げた男女が初夜に何をするのか理解することはできなかった。
 ただ、コンに抱かれて初めて知ったことがある。それは母から婚礼前に授けられた知識と現実はまったく相反するということだ。
 母は〝講義〟の終わり、真顔で言った。
ー何事も旦那さまのおっしゃる通りにするのです。けして逆らってはなりません。
ー初めての瞬間は痛みを伴うものですが、無闇に声を上げてはなりません。ひたすら終わるまで耐えるのです。
 その言葉は、実のところ、雪鈴に底知れぬ恐怖を植え付けただけだった。婚礼初夜に良人にされることは〝声を上げなければならないほど痛い〟とは、どれだけ残酷な仕打ちをされるのか。
 良人ハソンが早世したことにより、最初の結婚は形だけのものでしかなかった。結婚歴があるとはいえ、雪鈴は正真正銘の生娘であった。
 ゆえに、雪鈴は性の営みに対して、言いしれぬ不安を抱いていた。だが、コンに抱かれて感じたのは快感ばかりで、母に教えられたように痛みを伴うものでもなく、苦しみに満ちたものではなかった。