韓流時代小説 秘苑の蝶~龍は物想うー苦手な継母がまた結婚しろとせきたてる。良い加減にしてくれー | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

 

 

第三話  韓流時代小説 夢の途中【秘苑の蝶】  前編

~イ・コンこと文陽君が世子に冊立される?~

 地方の田舎町で両想いの恋人として、幸せな時間を過ごしていたコンと雪鈴(ソリョン)。だが、幸せは長く続かず、国王からの王命で、コンは急きょ、都に呼び戻されることになった。雪鈴も彼と共に生まれて初めて漢陽へ赴く。
 国王から王宮に呼ばれたコンは、そこで世子に指名されたのであった。
 そして、雪鈴はコンに起きた身の激変について知らぬまま、ついに二人して出掛けた海辺の小屋で初めて結ばれる。
 しかし、嵐の一夜を二人きりで過ごし邸に戻った若い二人を過酷な運命が待ち受けていた。
 コンを訪ねてきた国王が雪鈴を見初めたのだ!
 王はコンから強引に雪鈴を奪おうとしてー。
 嵐の王宮編、怒濤の展開、前編。

*****************************

 儀式は翌月と決まっていた。ほぼ一ヶ月しかない。コンが頷けば、ソンギは真剣な面持ちで告げた。
「悪いことは言わない。大切な女なら、なおのこと早く伝えた方が良いぞ。昔の人も言っている、何事も当たって砕けろってな」
 いかにもソンギらしい励まし方に、コンは苦笑しかない。
「砕けたくはないが、まあ、それもそうだな」
 ソンギが親しくコンの肩を叩いた。
「俗な女ではないというのが本当なら、その者にとって、お前の立場の変化など些細なことじゃないのか? 要するに、彼女が見ているのはお前の外見ではなく、中身だろう。イ・コンというただの男として求められているなら、お前が世子さまになろうが道端の物乞いになろうが、彼女はどこまでも付いてきてくれるはずだ。違うか?」
 コンは深く頷いた。
「お前の言う通りだ。俺は少し彼女を見くびっていたようだ」
 ソンギが笑った。
「そうこなくちゃな」
 そこで、唐突にソンギが居住まいを正し、深く頭を下げた。突然のことに、コンは面食らうしかない。
「おい、どうしたんだ、いきなり」
「次に逢うときは、きちんと礼を尽くします、世子邸下」
 最初はソンギがおどけているだけかと思ったけれど、友の顔は至って真面目だ。
 コンは笑いながらソンギの肩を叩き返す。
「俺とお前の間柄じゃないか。そんな堅苦しい礼儀なんぞ糞食らえだ」
 ソンギは生真面目に首を振る。
「そういうわけにはゆかない。けじめはきちんとつけなきゃな」
 彼は小声で囁いた。
「意中の相手と上手くゆくことを願ってるよ」
 去り際、ソンギは深々とお辞儀をして去っていった。コンは遠ざかる友の背中を複雑な想いで見送った。
 立場が変わったら変わったで、近づいてくる者もいれば、かえって距離ができる者もいる。ソンギがもう今日のように隔てなく自分に相対してくれることはないのかと思うと、一抹の淋しさは拭えない。
 ちなみに、この男、金誠基こそ、後にコンが即位して王となった治世下、片腕となる名宰相である。

 翌日、珍しい来客があった。いや、珍しいというのはある意味では正しくないかもしれない。セサリ町に引っ越すまでは、継母はほぼ三日にあげず訪ねてきていたからだ。
 執事に出迎えられた継母は、スチョンの案内でコンの居室にやってきた。
「水臭いのですね、都に戻ってきたのに、この母に顔を見せてもくれないなんて」
 継母芙蓉(プヨン)は、名の通り、芙蓉の花のように麗しい容貌をしている。が、綺麗なのは外見だけで、中身は身を綺羅で飾ることと、自分の立場をいかに守るかしかない俗な女だ。
 こういう言い方は身も蓋もないかもしれないけれど、雪鈴とは対照的であり、コンの苦手とするタイプだ。芙蓉が嫁いできたのは、コンが十歳になる少し前だった。以来、この女は何かといえばコンに干渉したがった。
 父と結婚した時、芙蓉は二十二歳であった。当時としては婚期を逸しかけた年齢であったのは、芙蓉自身の責任ではない。なかなかの美人であったため、周囲が彼女の未来の良人となる男に高望みをしすぎたのだ。
 中級官吏からの縁談申し込みになぞ、眼もくれなかった。
 結局、思うような相手に恵まれず、このままでは本当に嫁き遅れると親も焦りだした。丁度その頃、国王が間に入り、父との縁談がまとまったという経緯がある。
 ゆえに、義理の母子とはいえ、芙蓉とコンの年齢差はわずか十三でしかない。
 九歳の少年といえば、そろそろ思春期の入り口に差し掛かる時期だ。当時から、コンはこの継母のお節介がうっとうしくてならなかったのだ。だが、自分が嫌な顔をすると継母がすぐに泣き出すので、仕方なく好きにさせておいた。
 彼が都からセサリ町に居を移そうと決意した理由の一つが継母である。殊に十五歳を過ぎた辺りから、継母のお節介は度を超した。義理の息子が適齢期に入り、継母は張り切って縁談を持ち込み始めたのである。
 父と継母の間に子はできなかった。継母なりに将来に不安を感じていたのか、何とか嫡子たるコンと繋がりを持とうとしていた節があった。ゆえに、継母が持ち込む縁談というのは、彼女の知人、親戚の令嬢が多かった。
 実子がいないため、姪を義理の息子に娶せてコンとの結びつきをより強固にしておきたかったようである。
 毎日、山のような令嬢の身上書を抱えて訪ねてくる継母は恐怖でしかなかった。継母と父が暮らす本邸は、新しく賜った屋敷からさほど離れているわけではない。それでも訪ねていかなかったのは、また早く妻を娶れと結婚をせっつかれるのが嫌だったからだ。
 継母は当然のように上座の座椅子に座り、コンをねっとりとした眼で見つめている。
 正直、こんな眼で見られると、自分があたかも鷹に狙われた小動物になったような気がするコンであった。
「しかも、こたびは畏れ多くも、あなたが世子邸下におなりになるとのこと。こんなめでたいお話をあなた自身の口から知らせて戴けないとは、情けない限りです。父上も今度の慶事には、とてもお歓びでおられますよ」
 コンは文机を間に少し距離を置いた下座に座り、やわらかな笑みを浮かべた。
「帰る早々、片付けねばならない用件がありまして、父上母上には、ご無礼を致しました」
 これだけで、継母の機嫌はあっさり直った。