韓流時代小説 秘苑の蝶~衝撃の真実ー15年前の少女殺害は本当に「人柱」だったのか?全てが明らかに | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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第二話  韓流時代小説 龍神の花嫁~風舞う桜~【秘苑の蝶】

コンと晴れて両想いになった雪鈴は、セサリ町の小さな屋敷で穏やかな日々を紡いでいた。そんなある日、年若い女中のソンニョが冴えない顔をしてるのに気づく。理由を訊ねた雪鈴に、ソンニョは必死の面持ちで訴えるのだった。「妹が殺されてしまいます、どうか妹を助けて下さい」。
昔ながらの小さな農村に伝わる「龍神の花嫁」伝説をめぐる悲劇。「花嫁」が残酷な生け贄だと真相を知った雪鈴はコンと共に龍神伝説が伝わるハクビ村に赴くのだがー。

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 舞台袖に書き物机が用意され、書記役の役人が筆を静かに走らせている。
 罪人たちの側には、監視役として役所に勤務する刑房が控えていた。
「ハクビ村、村長イ・ジェシン、並びに助役ホン・スンジ、同シム・サンチョン。そなたらは一昨日の昼前に龍江のほとりでソン・ソリョン嬢を誘拐、ハクビ村内の龍穴に監禁した罪を認めるか?」
 厳かにも聞こえる県監の声は、流石に朗々と辺りに響き渡った。しかし、筵に座らされ、両手を後ろに括られたままの罪人たちは反応はそれぞれだ。
 特に村長は不敵な薄笑いを浮かべ、県監とコンを逆に威嚇するかのように睨み上げていた。両側の助役たちは、髭だらけの大男はふて腐れたように開き直り、痩せた鵞(が)鳥(ちよう)のような丈長の方は憐れっぽい声を上げては許しを請うている。
 捕らえられた翌日、既に罪人たちは過酷ともいえる取り調べを再三受けていたものの、容疑を認めたのは痩身の男だけだ。後の二人は村長が黙秘、髭男が否認を貫いている。
 県監から下問され、まずは村長が口を開いた。
「はて、何のことやら、儂にはさっぱり判りかねますが。一体、何遍、同じ科白をお役人さまに申し上げれば済むんでしょうか」
 敵ながら天晴れと褒めてやりたいほど、居直っている。この村長は思った以上の悪なのかもしれない。コンは内心呆れながら、事の成り行きを見守っていた。
 傍らから、髭男が吠えた。
「だから、俺は何もやっちゃアいねえと何度も言ってるだろうが。身に憶えのねえ罪でしょっ引かれて挙げ句、鬼のような責め苦を与えられて堪ったもんじゃねえや」
 村長がまた言上した。
「使道さまは私ども民の味方であり、民の声の代弁者であると認識して参りました。その使道さまが無実の民を言われなき罪で強引に捕らえ、あまつさえ罪人に仕立てあげようとなさるとは、最早世も末ですな」
 言われなき罪とは、よくぞ真っ赤な嘘偽りを平然と口にできたものだ。コンはますます呆れた。
 髭男が村長を援護するように、まくしたてた。
「村長と俺は本当に何の関係もねえんだって。現に、そこの旦那が龍穴に踏み込んだ時、そこにいたのはサンチョンだけだったんだろ。お嬢さんを攫って龍穴に隠したのはサンチョンの仕業だって丸分かりじゃないか。そんなのは三つのガキだって判るぜ」
 と、それまで黙り込んでいた痩せた男が憤慨めいた声を上げた。
「なっ、何を言うかと思えば、手前らは俺一人に罪を着せて自分らは知らぬ存ぜぬを通すつもりかい。使道さま、あいつらの言うことを信じなさっちゃいけやせんぜ。仰せの通りです、儂らは計画して、村にたまたま来た令嬢を誘拐した上、洞窟に隠しました。すべてはそこの村長の命令で、俺は村長に言われるままに従っただけです」
 ここまで来て仲間割れとは、最早、呆れすぎて言葉にもならない。できれば雪鈴をこんな場には出したくなかったけれど、やはり彼女の出番が必要なようだ。
 コンが頷いて見せると、罪人どもの側に控えていた刑房が一旦姿を消し、雪鈴を伴って戻ってきた。こんなこともあろうかと、彼女は控え室で待機させておいたのだ。
 雪鈴の登場に、村長の不敵な面にさざ波ほどの動揺が走る。わずかな変化を、コンは見逃さなかった。
 雪鈴は罪人たちから距離を取った場所に佇み、真っすぐに県監を見上げた。
「ソリョン嬢にお訊きする。あなたを攫って洞窟に連れ込んだのは、そこなる罪人どもで間違いないであろうか」
 県監の質問に、雪鈴は臆する風もなく応えた。
「間違いありません。河のほとりで気絶させられた私が次に意識を取り戻したのは洞窟の中でした。その場にいたのは一人だけではなく、村長、助役二人、つまり今、ここにいる三人です」
 淀みのない応えに、痩せた男がまた憐れっぽく訴えた。
「俺は端から反対だったんだ。今の時代に龍神だの人柱だの、それこそ頭がイカレてるとしか思えねえ。俺はやりたくなかったのに、村長に睨まれて仕方なくやらされたんだ」
 村長が痩せた男を鋭く睨み、呟いた。
「どこまでも情けないヤツだ」
 髭男は今にも飛びかかりそうな憤怒の形相で痩せた男を見ている。
「畜生、ペラペラと訊かれもしねえのに余計なことを喋りやがって、殺してやる」
 時ここに至り、内輪揉めをする三人に県監も呆れたようである。罪人たちを見つめる彼のまなざしがひときわ冷たく厳しさを帯びた。
 県監が頷くと、吏房がやって来て雪鈴は彼と共にまた退場した。刑房は引き続き罪人たちの側に控える。
 県監が静謐な声音で断じた。
「これで、ソリョン嬢誘拐の罪は確定した。最早、言い逃れはきかぬ。更に今一つ、そなたらに問いたいことがある」
 県監に促され、片隅に座っていた老婆が立ち上がった。
 県監の声音が心もち柔らかくなった。
「そなたの孫が亡くなったときのことを話しなさい」
 はい、と、老婆は頷き、十五年前の悲劇を淡々と語り始める。
 十五年前のある朝、隣町に行くと元気で家を出た孫が行方知れずになり、二ヶ月後、龍穴で木杭に括り付けられた無残な骸となって発見されるまでの経緯だった。
 すべてを語り終え、老婆がまた座ると、県監が後を引き取った。
「そなたらは、攫ったソリョン嬢をまたしても人柱に立てるつもりであったのだろう」
 その指摘に、村長が眉を跳ね上げた。
「お言葉ですが、使道さま、今のおっしゃり様では、まるで儂らがその婆さんの孫を攫って殺したようではありませんか」
 県監がわずかに首を傾けた。
「はて、そのようなつもりはなく申したのだが。さりながら、村長。では、何故、ソリョン嬢を誘拐したのだ。町の妓楼に売り飛ばすつもりなら、わざわざ洞窟に隠したりはせぬだろう。お前たちは見ず知らずの娘を村の娘の身代わりとして人柱に立てるつもりではなかったのか」
 と、老婆がよろよろと立ち上がり、叫んだ。
「使道さま、うちの孫も殺されたんです。まるで人柱みたいに磔にされて、龍神さまの住処だといわれている洞窟に置き去りにされていました。きっと誰かが孫を人身御供にしたに違いねえんです」
 髭男が聞くに堪えない罵詈雑言を飛ばした。
「なにデタラメ言ってやがる、糞婆ァ。もうろくしたか。あれは猟奇趣味のある他所者の変態野郎の仕業で、深エ意味はないと十五年前のお取り調べで明らかになったはずだ」