韓流時代小説 罠wana* 最後のキスは熱く燃えてー位階を与えるゆえ、正式な側室となれ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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連載206回 韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫

君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~ 

第二部 第二話「落下賦」 

☆私が力の限り、世子さまをお守り致します!「裸足の花嫁」シリーズ第四話・王宮編。

ー「陽宗反正」。漢陽で起きた凄惨かつ痛ましい政変で、ジアンの父王や弟である世子は廃され、暗殺されてしまう。更に、外戚として専横を極めていた羅氏はことごとく粛正され、チュソンの祖父や両親は惨殺された。
奇しくも、前王、羅氏、それぞれの血を引く最後の生き残りとなったチュソンとジアンだったが。ー

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 一方のポン尚宮は流石にハン女官のように取り乱すことはなかった。
「我が罪は私一人のものにて、良人や既に嫁いだ娘には関係なきことにございます」
 既に覚悟していると見え、一切の弁解はしなかった。
 二人の身柄は義禁府に移され、更に詳しい尋問が行われることになった。それにより明らかになったのは、仁嬪による綿密な世子暗殺未遂計画に他ならなかった。
 また、仁嬪の手先となってハン女官との連絡役を務めていたソン内官は、人知れず脱走しようとしていたところを捕らえられ、同様に義禁府の牢に収容された。
 ハン女官は厳しい責め苦を与える間でも無く、すらすらと自白した。ポン尚宮はなかなか口を割ろうとしなかったが、厳しい責め苦の連続に、ついに事件の詳細を白状したのであった。

 ジアンが王から呼び出しを受けたのは、数日後である。王命は東宮殿を取り仕切る保母尚宮から伝えられた。
 ジアンは指定された刻限に、秘苑の四阿へ向かった。この辺りは王宮庭園でも最奥部になる。ジアンは蓮池へと至る小道を急いだ。
 四阿には、既に上背のある後ろ姿が見える。ジアンはチマの裾をつまみ、四阿へ向かう足を速めた。
「殿下、お呼びでしょうか?」
 手前で呼びかけると、長身の王が振り返る。何も言わず、手振りで差し招かれた。
 ジアンは少し躊躇った後、言われたように四阿に入った。
「そなたのお陰で、息子を失わずに済んだ。心から礼を言う」
 唐突に発せられた言葉に眼を見開いたが、緩くかぶりを振る。
「世子さまがご無事でよろしうございました」
 一緒に過ごす時間が多いせいか、ジアンは幼い世子に対して他人とは思えない情を感じていた。あの幼い可愛い子が仁嬪の怖ろしい毒牙にかかって亡くなるなど考えたくもない。
 それに、いつだって応えは同じだ。
「私は人として当然のことをしたまでです」
 たとえ世子が国王の御子でなくとも、その日暮らしの民の子であったとしても、多分、自分は全力で救おうとしただろう。
 人の生命に軽重はないのだから。だが、今更、ここで、この人と議論することに意味はないように思える。
 反正後の粛正で大勢の生命が失われた。前政権下、中枢にいた人々が誅されるのはともかく、罪無き赤児まで殺すことはなかったはずだ。でも、王は最終的にそれを容認した。
 王位をなげうってまで、臣下たちを止めようとはしなかったのだ。人の価値は身分や立場では決まらないと、ジアンが幾ら主張したとしても、彼がその不条理を正すために動くとは思えなかった。
 王はしばらく蓮池を無言で眺めていた。十月もそろそろ終わりに近づいた今、巨大な池には枯れ蓮の残骸が残っているだけだ。
 こうして見ると、夏にはここが大輪の蓮花で埋め尽くされるのが信じられないようでもある。
「こ度のそなたの功績は大きい。何か礼をしたいと思うのだが」
 ジアンは黒曜石の瞳を王に向けた。
「そのようなものは必要ありません」
 王がフと笑う。
「側室たちなら、ここぞとばかりにあれが欲しいこれが欲しいとねだるところだがな」
 ジアンは控えめに言った。
「もしお願いできるなら、一つだけ望みがあります」
 王が頷いた。
「申してみよ」
 ジアンは即座に言った。
「私にお暇を下さいませ」
「ーっ」
 王が息を呑んだ。ジアンは軽く頭を下げた体勢で続けた。
「世子さまの暗殺騒動もひと段落つきました。私のお役目も終わったと存じます」
 王が呟く。
「世子はそなたに懐いている。そなたがいなくなれば、哀しむだろう」
 ややあって、王が力ない声で笑った。
「いや、それは違うな。幼い息子のせいにしては、あまりに卑怯だ」
 王が小さく息を吸い込んだ。
「正直に言おう、世子ではなく俺がそなたを行かせたくないと思っている」
 ジアンは静かな声音で応えた。
「殿下の花園には、たくさんの美しい花が咲いています。私のいる場所はありません」
「それで? そなたの居場所はどこにある?」
 ジアンは黙って王を見上げた。王が淡く笑んだ。淋しげなー眼前にひろがる秋の蓮池のような笑みだ。
「そなたの帰りを待つ男の許か」
「はい」
 ジアンが頷くや、王が手を伸ばして引き寄せた。
「帰したくない。俺に仕えてはくれぬか、もちろん、女官としてではない。位階を与えるゆえ、正式な側室となって欲しい」
 骨が軋むほど強く抱きしめられる。王がジアンの小さな顔を両手で挟んだ。仰のけられた先に、端正な面が迫っている。互いの呼吸すら聞こえてきそうな危うい距離だ。
「村で待つ男の許に帰るのか?」
 ジアンは応えない。ジアンの背に回った王の手にいっそう力がこもった。
「帰さぬ」
 ジアンはただ無心に王を見上げていた。その瞬間、王はジアンの美しい瞳に映る我が姿を見た。時ここに及んで、未練がましく女を追いかける虚しさを知ったのだ。
「せめて、これくらい許してくれ」
 彼は気まずげに視線を逸らし、躊躇った後、ジアンの額に唇を落とした。
 鳥の羽が掠めるかのような、一瞬の口づけはすぐに終わった。
「《朕》も最後に一つ、頼みがある」