韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫 妻に触れた時の違和感ー若い女性の柔らかさが無い | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

第一話・後編

連載58回 君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~

 **白藤の花言葉~決して離れない~** 

ーその美しき微笑は甘美な罠か?

どこから見ても美少女のジアンには、秘密があったー。  

 

附馬とは国王の娘を妻に迎えた男性を指す。

いわゆる王の娘婿である。難関とされる科挙に

最年少で首席合格を果たしたナ・チュソン。

将来を期待されながらも、ひとめ惚れした美しき王女の降嫁をひたすら希う。

約束された出世も何もかも捨てて、王の娘を妻として迎えたにも拘わらず、夫婦関係はよそよそしかった。

妻への報われぬ恋に身を灼く一人の青年の愛と苦悩を描く。ー彼女はその時、言った。
 「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
*******************************************************

 実際、漢陽の下町では、ここの山で採れたという薬草が高値で取引されている。まさか王女が欲得尽くで薬草を採ろうとは考えもしなかった。
ーそなたは薬草にも興味があるのか?
 チュソンが問えば、王女は少し恥ずかしげに頬を染めて頷いた。はにかんだ様が抱きしめたいほど可愛いーとは、もちろん彼女を警戒させるだけなので、口にはしなかった。
 いっぱしの儒学者でも難解とする〝中道政要〟なる清国渡りの漢籍を読もうとするほどの才媛だ。薬草の知識があったとしても、何の不思議もない。
 若い女性にしてはいささか型破りであるのは間違いないけれど、チュソンは、そういった妻の意外性をも含めて丸ごと愛していた。
 それに、央明には化粧(メーク)術が巧みで、化粧師になりたいという女性らしい願いもある。次々に明らかになる妻の新たな一面はチュソンをより彼女に夢中にさせこそすれ、興醒めになることはなかった。
 妻の願いを入れ、滞在三日めは朝から山に登った。寺の厨房で握り飯とキムチだけの簡素な弁当を二人分拵えて貰い、チュソンは央明と山に分け入ったのだ。
 だが、生憎と一刻ほど進んだところで央明が小石に足を取られて転び、脚を挫いた。更には天気が崩れ始めるという二重の不幸に見舞われてしまった。
 チュソンが御寺に着いてからのあれこれを思い出している間にも、空はますますどす黒く染まり、遠方からはゴロゴロとかすかに不穏な雷鳴さえ聞こえてきた。
 まずいと思うまもなく、冷たいものが頬に触れ、チュソンは思わず頭上を振り仰ぐ。薄墨を溶き流したような空からポツリポツリと雨雫が落ちてきていた。
「どうやら、降り出したようだな」
 チュソンは呟き、また背後を振り返った。
「央明、少し急ぎたいのだが、大丈夫か?」
 こんな時、無理だと弱音を吐くような女人ではない。妻は気丈にも即答した。
「大丈夫です」
 しかし、走ろうとした傍から、央明は小さく呻いてしゃがみ込んだ。
「央明!」
 チュソンは急ぎ妻の傍に寄った。やはり無理をさせるべきではなかったと後悔しても遅い。央明は右足の甲を抑え、うずくまっている。顔色がいつになく悪いのは、周囲が薄闇に包まれているからだけではないだろう。
「大丈夫?」
 央明は何も言わず、脚を押さえたまま俯いている。チュソンは自分もしゃがみ込み、妻に背を向けた。
「私がおぶってゆこう」
「ー」
 央明が息を呑んでいる。美しい面には逡巡が判りすぎるくらいはっきりと浮かんでいた。
 チュソンはやや強い口調になった。
「躊躇(ためら)っている時間はない。直に強い雨になるだろう。とにかく一時の雨宿りができる場所を探さねば」
 央明はけして愚かではなく、聡明な娘だ。彼女はチュソンを強い瞳で見返し、頷いた。
 それでもまだ実際に負われるときは迷っているように見えた。が、すぐに思い直したように彼の背中に身を預けてくる。
 チュソンは柔らかな重みを背中に感じつつ、妻を負うて必死に先を急いだ。一時の雨宿りができる場所をとは言ったけれど、この山奥にそんなものが都合良く見つかるとは思えない。
 見渡したところ、周囲は自分たちが進む細い道が辛うじて見分けられる程度で、小道の両側には樹木が生い茂っている。秋たけなわとて、どの樹も紅や黄色に色づいている。これが晴天であれば、なかなかに風情ある眺めなのかもしれない。
 こんな場所では洞窟も見つけられない。あるとすれば、猟師が狩りの途中で休憩のために使う狩猟小屋か炭焼き小屋か。
 大木の洞(うろ)を探すという手もあるにはあったけれど、短時間ならともかく、万が一、今夜ひと夜を明かすとなれば無理があろう。一晩を明かすには、火を焚く必要があるからだ。
「重くはありませんか?」
 吐息混じりに、王女のか細い声が聞こえた。チュソンは前方だけを見据えて進みながら応える。
「何の、これしき、たいしたことはありません」
 強がったわけではないし、格好付けたつもりもない。
「そなたは羽根のように軽いから」
 実のところ、子どもの頃はともかく、本を読むのが何より好きな今、自分に体力があるとは思えなかった。正直言えば、自信はない方だ。けれども、そんな彼にも王女は随分と軽く、しかも相変わらず肉付きは薄く感じられた。
 女人と付き合った経験は一切なかった。そのため、女人の身体に関しても、正直なところ、知識は皆無だ。だが、普通、年頃の女性の身体はもう少し丸みを帯びているものではないか。例えば胸や臀部は女性ならではの曲線があるはずだ。
 以前にも感じたかすかな違和感がまたしても頭をもたげた。だが、ここで雨脚が急に強くなり、チュソンの思考は中断した。
 彼は余計な物想いを振り払い、王女に囁いた。
「走りますから、落ちないように私にしっかりとしがみついていて」
 言い終わらない中に、全速力で走り始めた。どれだけ走ったのか。実際にはたいした時間ではなかったはずだ。雨で視界がよくきかない中、前方にぼんやりと何かが見えた。
ーもしや、建物か? 
 チュソンは夢中で走る速度を速めた。ほどなく雨に煙る物憂い風景の中、小さな小屋が現れた。