小説 優しい嘘~6月の花嫁~妊娠八ヶ月での挙式、今日から彼の隣が私の居場所になるー | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

小説 優しい嘘~奪われた6月の花嫁~

 

☆―本当なんだ、俺は今まで男しか愛せないと自分では思ってたんだ。君に逢うまでは―
ゲイの青年が女と偽りメール交換していた女性と出逢い、〝男〟として目覚めていく。
 

~彼との出逢いは、私が書いたブログに彼がコメントしたことから始まった。
名前も顔さえ知らないメル友がいつしか私の大切な存在になっていたのだ。
たが、その時、私はまだ【彼女】の重大な秘密を知らなかった。

やがて、彼から私に向けられた言葉は―。

〝お願いだ、見合いなんかしないで。俺はあなたにとってまだ八

つも年下の頼りない子どもかもしれないけど、俺を男として見て欲しい。他の男にあなたが抱かれていると想像しただけで、その男を殺したいと思うほどなんだ。絶対に他の男のものになんかならないで〟~



山本紗理奈は27歳。
短大を卒業して七年目、家電メーカーに勤務するベテランOLだ。
そんな彼女は五年越しの関係にある柿沼英悟がいるが、
社内恋愛といえば聞こえは良いものの、柿沼には妻がいる―いわゆる
不倫であった。

 

最初は順調であった英悟との関係も最近は

惰性で続いているような気がしてきている。

良い加減で見切りを付けた方が良いのかどうか、
紗理奈は悩んでいた。

そんなある日、紗理奈は夢を見た。
その夢のことをブログ記事に書いたところ、たまたまコメントが来る。
それがまさか紗理奈の運命を変える出逢いの始まりになるとは予想もしなかった。
*****************

私は続けた。

―でも、行けなかった。赤ちゃんとさよならするつもりでいたのに、できなかったの、私。
―もしかして、中絶しなかったのか?
 勢い込んだ彼に、私は頷いた。
―良かった、良かったよ。間に合ったんだな。
 彼は今度こそ声を出して泣いていた。
―籍を入れよう。子どもが生まれるまでにちゃんと式を挙げて、紗理奈の広島のご両親にも俺が挨拶に行くよ。
―でも、香君の夢はどうするの?
―人生に回り道は付きものだよ。学校はしばらく休学して、何か別の仕事を探す。紗理奈と子どものために稼がなくちゃな。出産したら、当分は紗理奈も仕事ができなるだろ?
 彼の意思は固かった。しかし、現実はそう甘いものではなかった。彼は言葉どおり、広島に挨拶に来てくれたが、事情を知った父は激怒し、彼を二度殴った挙げ句、家にも入れずに叩き出したのだ。
―親のすねかじりの分際で他人の娘に手を付けて身籠もらせるとは、男として恥を知れ。
 その傍で、母はすすり泣いていた。まさに、お粗末なホームドラマを地でいくような展開だった。
 当然、父は中絶を希望したけれど、既にお腹の子が五ヶ月にまで入っていることを知ると何も言わなくなった。
 私はY市に戻り今までどおり通勤を続けた。これからどうなろうと、出産すると決めたからには子どもが生まれてから後のことを考える必要があった。働ける間は働いてお金を貯めておこうと考えたのである。
 しかし、その私の決意をあざ笑うように、ある日、私は仕事場のトイレで倒れた。多少の出血もあり、近くの総合病院に緊急搬送された結果、ついたのは〝切迫流産〟の診断だった。
 最早、勤務は無理で絶対安静を言い渡されてしまい、私は広島に帰るしかなくなった。七年間勤務した会社を辞め、広島に戻ってすぐに実家近くの小さな産婦人科に入院することになった。そこで二十四時間の点滴を打ちながら療養を続け、二ヶ月の入院生活を経て妊娠七ヶ月後半になってやっと退院許可が下りた。
 そして、私は今、こうして結婚式に臨むことができた。お腹の子もつつがなく成長し、八ヶ月に入った。普通、妊娠していてもまだお腹の目立たない時期に挙式するものだ。でも、私の場合、色々な事情があって伸び伸びになってしまった。
 八ヶ月のお腹はとても大きくて、これではドレスを着ていても一目で妊婦だと判ってしまう。どうせなら子どもが生まれてから挙式しようと提案しても、これは彼がゆずらなかった。
―せめて、式だけはきちんと挙げてやりたいんだ、紗理奈のためにも子どものためにも。
 お腹の子どもが一時は危ないと言われたことで、私の父の態度も軟化した。父は香君との結婚を渋々ながら承諾し、彼が学校を卒業するまで、私と生まれた子どもの身柄を実家で預かると申し出てくれたのだ。
 そして彼が無事卒業し、念願のトリマーとして就職できるはずの一年後、私は赤ちゃんを連れて再び彼の許に行く予定だ。
 ただし、そのためには私たちは法律上は家族になっても、しばらくは離れて暮らさなければならない。それでも、たとえどんなに遠く離れていても、私と香君の心は繋がっていると私は胸を張って言える。
 私の体調のことを考え、式は広島の海の見える見晴らしの良い教会で行うことになった。昨夜は彼と父は差し向かいで酒を酌み交わし、遅くまで話し込んでいたようだ。
 式が終わって教会の扉が開く。私と香君が腕を組んで姿を現すと、集まってくれた人たちが次々と祝福の声をかけてくれる。一斉にライスシャワーが私たちに降りかかり、クラッカーの音が賑やかに鳴り響いた。
 参列者の中にはもちろん彼の気さくで優しいお母さんもいるし、広島の小学校時代からの女友達の姿も見える。
 式の前に香君からの手紙を受け取ったらしい父は今、手紙を読みながら眼を紅くしていた。何を書いたか、彼は最後まで私に教えてくれなかった。
 私は手にしていたラナンキュラスのブーケを空高く放り投げた。
 純白の花ばかりを集めたブーケが抜けるような澄んだ初夏の空に吸い込まれていった。
 まるで夢の続きを見ているくらい、今、この瞬間、私は幸せだ。幼い頃から憧れた紅いバージンロードを通って、今日、私は香君の妻になった。
 香君と出会ってから一年、私を憧れていた六月の花嫁に彼は約束どおりしてくれた。
―いつかラナンさんだけを見て愛してくれる誠実な男が必ず現れるよ。
 私は今も彼のその言葉を忘れない。まさか、あの言葉を聞いたときは、その誠実な私だけを見てくれる男というのが彼自身だとは想像もしなかったけれど。
 コッコとラナン。
 インターネットが当たり前になった今だからこそ実った恋かもしれない。たまたま彼が私のブログにコメントして、私がそれに返信した。それが私たちの始まりだったことを思えば、メールが取り持った不思議な縁だといえる。
 そして、私は今も思うのだ。彼と私を結びつけたそもそもの始まりとなった、あの不思議な夢―ホワイトヘブンビーチに似た海の彼方から私を呼び続けていた人は誰だったのだろうかと。
                 (了)

  
ラナンキュラス
   花言葉―あなたはとても魅力的。