船でお出かけしたことある?
▼本日限定!ブログスタンプ
裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~ 著者 : 東めぐみ 発売日 : |
ー彼女はその時、言った。
「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 官吏としての出世も何もかもをなげうって王女の降嫁を望んだ一人の青年。しかし、妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
朝鮮王朝時代、とある王の御世。
王室の外戚にして領議政の孫、兵曹判書の嫡子ナ・チュソンは幼いときから「神童」と謳われる天才だった。
わずか十七歳にして科挙に初挑戦で壮元及第(首席合格)を見事に果たす。
そんな彼が八歳の日、都の下町で出逢った正義感の強い美少女パク・ジアン。
ジアンとの出逢いは、チュソンに鮮烈な想い出となって残る。彼女を忘れられないチュソンは、その後もずっと初恋の少女を捜し回ったのだが、ジアンを見つけることは叶わなかった。
やがて吏曹の正郎として任官したチュソンは、王宮で美しき王女を見初めるがー。
2021年秋、新シリーズ始動。
「向日葵の姫君」に続く「王女の結婚シリーズ」第二弾にして、新連載スタート。
**********(本文から抜粋)
回廊に佇めば、今を盛りと満開の白藤が一望に見渡せる。清(さや)かな月明かりが藤棚をズラリと飾る白藤を淡い闇に浮かび上がらせている。純白の花が夜闇の中、ほのかに発光しているようで、なかなかの眺めだ。
ややあって、人の気配がした。王女が後ろに立っているのが判る。
チュソンは振り返らず、正面を見たままで言った。
「何かー不思議な心持ちです」
王女の細い声が聞こえた。
「何が不思議なのでしょう? 夜に見る藤が不思議なのですか」
チュソンの顔にごく自然に微笑が浮かんだ。
「うーん。難しい問いですね。あなたの言うように夜の藤は真昼に見る清楚な姿とはまた違って、妖艶だ。確かに不思議といえば不思議ではありますが、私としては、こうして今、あなたと一緒に藤を見ていることそのものが不思議に思えてなりません」
互いに八歳の時、下町で出逢った忘れられない少女。あの娘と今、夫婦となって彼女の大好きな白藤を眺めている。あまりにも幸福すぎて、これは夢なのではないかと思ってしまいそうだ。
「私は朝鮮一、幸せな男でしょうね。あなたが側にいるのは紛れもない現実なのに、これは目覚めれば覚める夢ではないかと疑ってみたくなります」
何気なく口にした言葉だった。しかし、刹那、王女がヒュッと息を呑むのが判った。
夜風に紛れるような、か細い声音が呟いた。
「真にすべてが夢なのやもしれませんよ」
チュソンは訝しみながらも、自らの頬をつねった。
「しかし、こうすると痛みを感じますから、やはり夢ではないのでしょう」