韓流時代小説 王を導く娘~男と女が体を重ねても、子を作らない方法があるそうですー彼女の鋭い指摘に | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 夜に微睡む蓮~王を導く娘~

 (第三話)

本作は、「復讐から始まる恋は哀しく」の姉妹編。
前作で淑媛ユン氏を一途に慕った幼い王子燕海君が見目麗しい美青年に成長して再登場します。
今回は、この燕海君が主人公です。

廃妃ユン氏の悲劇から14年後、新たな復讐劇の幕が上がるー。
哀しみの王宮に、再び血の嵐が吹き荒れるのか?

 

 登場人物 崔明華(恒娥)チェ・ミョンファ。またの名をハンア。町の観相師、15歳。あらゆる相談に乗る

         が恋愛相談だけは大の苦手なので、断っている。理由は、まだ自分自身が恋をしたことも

         なく、奥手だから。

 

        燕海君  21歳の国王。後宮女官たちの憧れの的だが、既に16人もの妃がいる。

        前王成祖の甥(異母妹の息子)。廃妃ユン氏(ユン・ソファ)を幼時から一途に慕い、大王大      

        妃(前作では大妃)を憎んでいる。臣下たちからは「女好きの馬鹿王」とひそかに呼ばれる。    

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☆本作には観相が登場しますが、すべてはフィクションであり、観相学とは関係のないものです。本当の観相学とはすべて無関係ですので、ご理解お願いします。

 けれどー。医官の診立てからすれば、子が生まれる予定日は今年の終わり、つまりは十二月だ。十二月に出産予定となれば、身籠もったのは三月辺りだろう。既にその頃、明華は王にとって唯一無二の存在になっていた。 現実として、彼は二月から誰も妃を寝所に召さなくなっている。明華の存在が心の中で大きくなるにつれ、ごく自然に他の女との拘わりを絶っていた。
 明らかさまにいえば、二月以降、彼はキム淑儀を抱いていない。なのに、彼女が懐妊した。その事実から導き出される応えはー。
 燕海君はかすかに首を振る。
 考えたくはないことではあるが、彼女が良人である自分以外の男と肌を重ねたと思うしかない。だが、この女に限って、よもや他(あだ) し男と通ずるとは想像だにできない。
 よほどの事情があるのか。いやと、彼はつい気弱になりがちな心を叱咤する。たとえ一時はお気に入りであり、寵愛していたとしても、規律は規律だ。ここでキム淑儀一人に甘く対処しては、後宮の風紀は乱れてしまうだろう。
 王朝の歴史は長く、側室であっても、一般の女官であったとしても、王以外の男と姦通した者は存在する。しかし、女官は建前は〝王の女〟と呼ばれ、国王の所有に帰する。後宮の女は国王以外に肌を許すことはできない。
 万が一、姦通がバレた場合、女官も相手の男も厳罰に処せられる。最悪は極刑をもって臨まれる。不義を働いた罪で生命を失った女官の末路は〝死〟でしかない。
 ましてや、キム淑儀はただの女官ではなく、王の側妃である。王の配偶者でありながら良人を裏切り、あまつさえ不義の子をその身に宿した。これが公になれば、キム淑儀が極刑になるのは当然だ。
 もし彼がキム淑儀だけを特別に扱えば、今後も第二、第三の姦通者が出る恐れがある。
 それだけは絶対に避けなければならない事態だ。かといって、床を共にしなくなったといえども、彼女はまだ彼の妻だ。
 キム淑儀が入内したのは、三年前だった。当時、彼女は十六歳、王より二歳年下であった。他の側室のように、あからさまに彼に秋波を送ったり、気を引こうとしたりせず、いつも慎ましく面を伏せていた。
 彼女が新鮮に思え、初めて寝所に召して以来、割と頻繁に夜伽をさせた。彼女はいつも無口で、そんなところも彼には好都合だった。
 今まで自分は彼女がただ寡黙なだけだと思っていたが、真実はどうだったのか? いつもおどおどと彼と眼を合わせないようにしていたのは、国王にその存在を認められるのを避けているようでもあった。他の妃たちとまるで違っていたのは、慎ましいだけではなく、ただ王の寵愛を受けたくなかったからではないか。
 王の眼に止まり、寝所に呼ばれるのを忌避していたのだとしたら? 
 だが、彼女の意に反して、彼は大人しいキム淑儀が気に入り、何度も彼女を召し出した。それが二月以降、ふっつりと夜のお召しがなくなった。他の大半の妃たちが
ーあれほど女人なしで夜が過ごせなかった殿下が何故、急に夜伽を命じなくなったのか?
 疑心暗鬼で理由を探ろうとしている中、キム淑儀だけは淡々としていたように見えた。
 中には、
ー殿下はどこぞにお目に止められたおなごができたのでは?
 と、後宮中の若く見目良い女官を詰問した妃もいた。しかし、後宮にお手つきの女がいないと知れるや、彼女たちは
ーそれでは、殿下はご寵愛の女を宮外に棲まわせているのではなかろうか。
 と、また〝愛人〟の存在を何とか突き止めようとしているらしい。
 ご苦労なことだと、どこか冷めた気持ちで妻たちを見ている王だが、妃たちの危惧はある意味では当たっている。
 確かに、王には意中の娘がいるし、想い人は後宮ではなく宮外にいる。他ならぬ観相師、崔明華だ。
 もっとも、これまで女には手が早かった彼が明華にだけはいまだに手を出せていない。明華自身が潔癖で守り(ガード)が硬いのもあるけれど、やはり特別な女には簡単に手が出せない。
 明華を奪いたい、やわらかな身体に溺れたいという欲望はむろんある。が、明華はいまだ彼の求婚を真の意味で受け入れてくれてはいないのだ。自惚れているかもしれないが、明華が自分に恋情を抱いているのは確信できるが、伴侶としてずっと側にいたいと願うほどには至っていない。
 哀しいかな、それが現実だ。中途半端なまままに明華を抱けば、彼女は一生涯彼を許してくれないだろう。彼は成人した男だから、力でいえば明華を容易く組み伏せることはできる。けれど、強引に想いを遂げたとしても、彼が手に入れられるものは明華の身体だけだ。
 それどころか、彼は永遠に明華の心を失ってしまう。明華とは、そういう娘だ。だからこそ、彼はなおいっそう惹かれるのかもしれない。
 女好きだった王が夜伽をさせないどころか、後宮に渡る回数もめっきり減った。他の妃たちがここのところの王の激変ぶりに不満と不信感を募らせている一方で、憂いどころか、かえって憑きものが落ちたように晴れ晴れとしていたキム淑儀。
 王にはそれが好ましいと見えていたものの、肝心の妃の思惑はどうだったのだろう?
 あつまさえ、ここに来ての懐妊騒動だ。燕海君にはもう、彼女に良人以外の男がいたのだと思わざるを得なかった。
 彼女にとっては、王が見向きもしなくなったのはむしろ好都合だった。夜伽をしなくなってから、彼女とその男が逢瀬を重ねたとしたらー。健康な男女が肌を合わせれば、懐妊するのは何一つ不思議ではない。
 王は改めて明華に指摘されたときのことを思い出した。
ー詳しいことは知りませんが、殿方は女人と交わる時、子を作らないようにするすべがあるといいます。今の殿下は多くのお妃さま方との間に、本気で御子をお作りになる気がないとお察しします。
 あの科白には度肝を抜かれた。まだ未通の男女のことなど何も知らない初(うぶ)な娘が澄ました表情で言い切った。
 そう、燕海君は十六人もの妃を侍らせながら、子を作るつもりは毛頭なかったのだ。その気持ちを明華にまんまと言い当てられたのだ。
 彼とて、国王の存在意義は理解しているから、いずれ世子たる王子を儲けるつもりではいた。