韓流時代小説 王を導く娘~迫り来る別離の予感ー殿下、どうか私の事は忘れて聖君におなり下さい。 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

韓流時代小説 王を導く娘~観相師~

本作は「復讐から始まる恋は哀しく」の姉妹編。
前作で淑媛ユン氏を一途に慕った幼い王子燕海君が見目麗しい美青年に成長して再登場します。
今回は、この燕海君が主人公です。

廃妃ユン氏の悲劇から14年後、新たな復讐劇の幕が上がるー。
哀しみの王宮に、再び血の嵐が吹き荒れるのか?

 

 登場人物 崔明華(恒娥)チェ・ミョンファ。またの名をハンア。町の観相師、15歳。あらゆる相談に乗る

         が恋愛相談だけは大の苦手なので、断っている。理由は、まだ自分自身が恋をしたことも

         なく、奥手だから。

 

        燕海君  21歳の国王。後宮女官たちの憧れの的だが、既に16人もの妃がいる。

        前王成祖の甥(異母妹の息子)。廃妃ユン氏(ユン・ソファ)を幼時から一途に慕い、大王大      

        妃(前作では大妃)を憎んでいる。臣下たちからは「女好きの馬鹿王」とひそかに呼ばれる。    

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☆本作には観相が登場しますが、すべてはフィクションであり、観相学とは関係のないものです。

本当の観相学とはすべて無関係ですので、ご理解お願いします。

 あれから四ヶ月、明華には随分と時間が経ったように思える。それもそのはずで、真冬のただ中であった季節は三月半ばとなり、そろそろ都に桜便りが聞こえる春が近づいている。
 季節のうつろいを物語るかのように、かつてユン氏が暮らしていた殿舎の庭には紅梅が匂いやかに咲いている。
 純白の椿もまだわずかに花をつけているものの、今は紅梅が盛りだ。連なるように枝についた真紅の梅がかすかな香りを振りまいている。
 ヨンは両手を背後で組み、熱心に紅梅を見上げていた。あの広い背中を見ることももうないのだと思うと、不覚にも涙がこぼれそうになる。
 こんな弱気で、これから彼の顔を見ないで生きてゆけるのかと心配だ。
 足音が聞こえたのか、ヨンが振り向いた。今日も白皙の美貌に紅い王衣が心憎いほど似合っている。
 実際に彼の顔を見るまでは心配していた。ヨンは十日前、かなりの量の猛毒を盛られている。詳細までは判らないが、彼のあのときの苦しみ様から察するに、恐らくは致死量の毒だったのではないか。
 だが、今日、彼の表情は至って晴れやかで、顔色は健康そうに輝いている。心配していた毒の後遺症は何一つ感じられなかった。
「来たか」
 ヨンの顔が心なしか歓びに光ったような気がするのは、私が自惚れているから?
 明華がつられるように微笑むと、ヨンの頬がうっすらと染まった。
 何故か眩しいものでも見るかのように明華を見つめ、彼女の不思議そうな視線に気づくと、ウォッホンとわざとらしい咳払いをする。
「殿下、風邪でも引かれたのですか?」
 心配になって問うと、彼はますます紅くなった。
「いや、これは、そなたの可愛い顔に見蕩れていたからーで。あ、いや、そうではなく、見事な梅に見惚れていたからだ!」
 早口でましくたて、ヨンはふと表情を引きしめた。
「今日、呼んだのは相談したいことがあったからなんだ」
「何でしょうか」
 明華の視線にまたかすかに頬を染め、ヨンは視線を梅に戻した。
「大王大妃が逢いにきた。腕利きの観相師がいるゆえ、是非にも一度、未来を観て貰えと勧められた」
「ー」
 言葉もない明華に、ヨンがやや鋭さの増した声で言う。
「その観相師というのは、言わずもがな、明華のことだな?」
「多分」
 消え入りそうな返事だ。ヨンが眉をつり上げた。 
「何ゆえ、大王大妃がそなたの存在を知っている?」
 明華は腹を括った。彼の前から去ろうとしている今、隠し事はしたくない。
「大王大妃さまには何度かお逢いしました」
「どうして、そなたが大王大妃に逢う必要がある?」
「それはーお話しできません」
 明華はうつむいたまま言った。ヨンが静かな声音で言った。
「私が知りたいと申してもか」
「はい」
 明華の声にいつにない頑なさを感じ取ったのか、ヨンは嘆息した。
「では、質問を変えるとしよう。大王大妃がここ数日、別人と入れ替わったのかと思うほど変わったという評判を聞いたか?」
 これには応えなかった。ヨンが溜息をついて続ける。
「昨日は、章興君を弟夫婦の許に返したそうだ。かと思えば、今度は私の許をいきなり訪ねてきて、にこやかに腕利きの観相師の話をする。まるで、二十一年間の対立など帳消しになったかのような友好的な態度だ。最初は私もどんな下心があるのかと警戒した。さりながら、どうも大王大妃は本当に変わったらしい」
 ヨンはしばらく口を噤み、また話し出した。
「おかしいと思わないか? 見ていて、私も本当に別人としか思えない。若く見えるが、大王大妃も歳だ。ついにぼけたか、はたまた、本当に改心したのか」
 明華はもう顔を上げられなかった。
「そなたが観相師として一流なのは、私自身、身をもって知っている。何しろ、猛毒にあたった私を瀕死の床より救ってくれたのだからな」
 明華、と、深い声で呼ばれ、明華は知らず彼の顔を見上げた。
「いつぞや、そなたは私の運命を変えるとか言っていたな」
 刹那、ヨンと彼女の視線がぶつかる。
ー駄目、瞳の底を覗き込まれたら、もう真実は隠せない。
 眼を伏せたときは遅かった。ヨンが近寄り、細い肩を掴む。
「まさか」
 ヨンは小さく首を振った。
「私を死の淵から生還させたときも、そなたは術を使ったことを隠していた。まだ、私に隠していることがあるのではないか?」
 それでも、明華は応えない。
「一体、何をした?」
 ヨンの指が明華のやわらかな肌に食い込む。かすかな痛みに、明華は顔をしかめる。
 彼女の表情にハッとし、ヨンは手を離した。
「頼む、明華。強情を張らずに教えて欲しい」
 こんなにも必死な面持ちをしたひとに、どうして隠し事ができるだろう?
 明華は大きく長い息をついた。
「私がなしたことは殿下の運命の流れを少し変えただけですよ。たいしたことはしていません」
 ヨンが唸った。
「やはり、そなたが大王大妃に何らかの術を使ったのだな」
 ヨンは溜息交じりに言った。
「私には観相のことはまるで判らぬ。されど、下町で出会った日、そなたが観た私の未来は、けして良いものではなかった。傷ついた龍が観えると風燈祭の日、そなたは言った」
 明華がかすかに頷くのを見、ヨンは続けた。
「そなたは、その悪しき未来を変えるのだと言った。されど、それは観相師にとっては禁忌ではないのか」
「殿下」
 そんなことはないと否定しようとしたのだが、ヨンが目顔で遮った。
「黙って聞いてくれ。確かに私は観相に関しては素人ではあるが、まったくの馬鹿ではない。常識がある者であれば、天意に背くのが禁忌であり、どれほど怖ろしいしっぺ返しを喰らうかは想像がつく」