韓流時代小説 復讐から始まる恋~この朝鮮に〝王と呼ばれる男〟は二人存在する。国家機密を知った私は | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 復讐から始まる恋は哀しく

 ~謎めいた王と憂いの妃~

 ☆ 最初から最後まで、私には復讐しかなかった。あなたに出会うまではー「廃妃ユン氏」と呼ばれた少女の生涯☆

 

ー運命に導かれるようにして出逢った二人。
二人は互いの身分を知らずに、烈しい恋に落ちる。

ソファの運命を激変させた一夜ー、そのために彼女はすべてを失った。優しい両親、可愛い弟。
その夜、国王の唯一の忠臣といわれるユン・ソユンの屋敷に義禁府の兵が押し入り、ソユンとその妻、更には使用人すべてが問答無用で誅殺された。
後にソファが知った父の罪は「大逆罪」。謀反を企んだ罪により、父は王命で生命を奪われたのだ。

そのときから、ソファの復讐が始まった。*************************************************************************

「元々、後宮の女官は私のものなのだ! なのに、あやつが我が儘ばかり言うせいで、私は後宮の女ではなく、商売女を抱く羽目になっているのだぞ。たまに女官を抱けるかと思えば、あやつが抱いたお古で、私はまるで、おこぼれを待つ犬と同じだ! そなたにこの口惜しさが判るか」
 王は何を言っているのだろう?
 怖い、怖くて堪らない。大好きな男のはずなのに、確かに顔はソファがよく知る王と同じなのに、今夜の彼は物言いも纏う空気もまったく違う。
 怖い顔に嫌らしい眼でソファを睨めつけ、意味不明のことばかり言っては苛立ちを募らせているようだ。
「殿下、何を仰っているのですか」
 ソファが懸命に言うと、王がふいに笑い出した。何がおかしいのか、腹を抱えて涙眼になるまで笑っている。
 気が触れたように高笑いする王を、ソファは気味が悪いもののように見つめた。
 ふと、彼の整った面から笑みがかき消えた。ソファは咄嗟に眼をまたたかせた。見慣れた彼の顔が一瞬、別人に見えたのだ。が、眼を閉じて少しく後、開いてみても、やはり見慣れた王の顔だった。
 男らしい眉も、綺麗に弧を描く瞳も、記憶にあるままだ。なのに、何故か違和感を感じてしまうのは何故なのか。
 王がズイと身を乗り出し、迫ってくる。ソファはあまりの威圧感に気圧され、眼を伏せた。
ー怖い、助けて、殿下。
 自分まで頭がおかしくなったのかもしれない。王はソファがよく知る人と同じ人物なのに、今、まるで違う男のように感じている。今、ここにいるその人を怖がって、ソファがよく知る《王》に助けを求めるなんて。
 本来の王に戻って欲しかった。いつものように穏やかに笑って、
ーもう大丈夫だ、ソファ。
 と髪を優しく撫でて欲しかった。
 王が手を伸ばし、ソファの漆黒の髪を撫でた。確かに険しい口調とは裏腹に優しい手つきではあるが、やはり以前とは微妙に違うと思うのは、自分の気のせい?
「そう怖がるでない。私は、そちが気に入った。あやつが眼をつけたにしては、極上の女だ。意外にあやつも女を見る眼があるのやもしれん」
 また高笑いし、更に顔を近づける。唇が重なった瞬間、ソファは絶叫し顔を背けていた。
「いやーっ」
 意図していたわけではない。口づけられたその時、無意識にやってしまったのだ。
「こいつめ」
 王が激怒し、ソファの頭を手で固定し、更に唇を重ねてきた。
「いや」
 ソファは泣きながら必死で抗った。
「そなたは王の女であろうが。何故、抗うのだ。あやつには大人しく抱かれたのであろう」
 王はそれこそ憤怒の形相で迫ってくる。ソファは渾身の力で抵抗するも、か弱い娘と大の男の力では比べものにならない。
 とはいえ、ここでもソファはかすかな引っかかりを感じずにはいられなかった。触れた王の体躯が六日前に抱かれた男の身体とは違っていたからだ。
 恥ずかしい話だが、彼の一糸まとわぬ姿を目の当たりにし、抱かれたのだ。どんな身体をしていたのかは感覚というか、ソファの肌が憶えている。今夜、自分を力尽くで犯そうとするこの男は、胸板も薄く、筋肉などおよそ付いていない貧相な身体をしている。
ー本当に、このひとが殿下なの?
 ソファの中で抜けない棘のように刺さっていた疑念が、はっきりと形となった。
ー次に王に寝所に召されたら、素直に受けて寝所に伺候しても、気分が悪いとでも言って夜伽は辞退するのだ。
 ふいに王の言葉が耳奥ではっきりと蘇った。ソファは額を抑え、小さく呻いた。
「殿下、頭が痛くなりました」 
 果たして、この状況でどれだけ自分が上手く仮病を使えているかは知れない。けれど、とりあえず王に言われた通りにしてみようと考えた。
 と、王の動きがピタリと止まった。
「どうした?」
「頭が痛いのです」
 到底、眼を開いて相手の顔を見ながら、嘘をつく勇気はなかった。眼を閉じたまま小さな声で言うと、途端にソファにのしかかっていた男の身体の重みが取れた。
「なに、頭が痛いとな」
 王が真偽を見定めるように癇性そうに眉を寄せている様が想像できるようだ。ソファは恐怖のあまり眼を開けられず、息を詰めていた。
 肌がそそけ立つような静寂の後、王が呟いた。
「具合が悪い女を抱くのも興醒めだ。愉しむものも愉しめん。今夜はそなたを気が狂うまで喘がせて、あやつと私とどちらが愉しませたかを訊ねようと思うていたのだ」
 ゾッとするようなことを愉しげに言う男に、またも鳥肌が立った。
「さりながら」
 また王が近づく気配がし、ソファは身体中が凍り付いた。またしても唇を奪われた。
 延々と続く獰猛な口づけは、呼吸さえ奪い尽くすようだ。息苦しさに喘げば、ヌルリと肉厚の舌が滑り込んできて、あまりの気持ち悪さに本気で吐きそうになる。
 逃げ惑う舌を無理に絡められ、性交を思わせる深い口づけは執拗だった。今ここで烈しく嘔吐しそうだ。それでも、王を怒らせまいとソファは必死でこみ上げてくる嘔吐感を堪えた。
 王が満足げに言った。興奮しているせいかどうか、随分と甲高い声である。
「口づけは悪くない。次にそなたを抱くのが愉しみだ」
 後はもうソファに興味を失ったかのようにゴロリと横たわると、背を向けて眠ってしまった。直に軽い鼾が聞こえてきて、ソファは安堵の息を吐いた。
 とはいえ、まだ王が本当に眠ったのか心配で、そっと様子を確かめずにはいられなかった。それほど陰険な執念深い男のように思えたからである。
 ソファはできるだけ広い寝台で王から距離を取って横になった。
 まだ心は混乱しきっている。それでも、できる限り思考力を働かせて今夜の一部始終を分析してみた。
 もしかしたら、〝王〟は二人いるのかもしれない。ソファがよく知る彼と、今夜、ソファを強姦紛いに抱こうとした王は確かに似ている。いや、顔は似ているという程度ではなく、完全にうり二つだ。
 だが。その他はむしろ真逆と言って良いほど、対照的である。座り方、夜着の着方。纏う雰囲気。そして、片や若い男性らしい健康な体躯と、片やいかにも脆弱そうな肉付きの薄い腺病質の身体。
 そこで、ソファはハッとした。
「声」
 口に出してしまい、慌てて両手で口許を押さえる。王の鼾が一瞬止まったような気がして振り返った。
 だが、また鼾が始まり、身体中の力を抜く。
 最大の相違は、姿形ではなかった。そう、体格の差などは衣服の着方で幾らでもごまかせる。顔が愕くほどよく似ていれば、背丈が同じなら体型は厚着をしたり、詰め物をすることで何とかなるはずだ。
 ただ、一つだけ変えられないものがある。それが今宵、ソファが感じた最大の相違点であった。
 今夜の王の声は、ソファの大好きな暖かみのあるものではなかった。聞いただけで安らげるような穏やかさとは縁遠い、キンキンと響く金属質な声は、男性にしてはかなり高い部類だろう。
 ソファの恋い慕う男の声は、男性の中でも低い、天鵞絨(ビロード)のようななめらかさを持っている。《二人の王》の声は、まったく異質のものだ。
 この時点で、ソファは確信していた。
 この朝鮮に〝王と呼ばれる男〟は確実に二人存在する。