錦木~父へ、今、娘からの手紙~ フォトダイアリー☆ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

「錦木」

 

秋も終わりに近づくと
庭の片隅が燃えるような色に彩られる
ふだんは控えめな錦木がその存在を主張するのは
この季節だけだろう
まるで 私はここにいますとでも精一杯訴えかけるように

 

 

父の葬儀の日
錦木が真っ赤に紅葉していたと
母は老いた今もなお時々思い出したように語る
そのとき私は十八歳
庭の錦木の記憶は一切なく
ただ父の棺が幾人かの人たちによって静かに運び出されるのを
黙って見ているしかなかった
既に物言わぬ変わり果てた姿となった父はこの世の人ではないと
残酷すぎる事実を嫌になるほど知りつつも
父の肉体がこの世から本当に消えてしまうのだと思った瞬間
涙が堰を切ったように溢れ出した
棺にしがみついて
行かないで欲しいと懇願したくてもできなかった

 

 

葬儀の翌日
親友が言った
―あなたが物凄く泣いているのを見て、私、どうして良いか判らなかった。
彼女は個人的に私の友人として父の最後に立ち合ってくれたのだ
錦木の記憶はないが
あの日 自分が大泣きに泣いたのだけは不思議と今でも憶えている

 

 

今年もまた錦木が紅くれないに染まった
確かに哀しいほど見事としか良いようのないつややかな色合いだ
冬も近い晩秋の澄み渡った大気の中で
眩しいほどの赤色が際立っている
今日 廊下に佇み しばし彼かの樹を眺めた
父を見送った日もこんな風だったのだろうか
紅蓮の炎のごとく庭を飾る錦木を見つめながら考える
ピィー
百舌の声が頭上高く秋の大気に響き渡った
炎の色を宿した樹がふっと涙の幕に滲んだ
―お父さん、私は今年、あなたが逝ったときと同じ歳になりました。

 

☆画像はイメージです。作者の撮影したものではありません。フリー画像。