韓流時代小説 国王の契約花嫁~涙のプロポーズー娘さんを俺に下さい。俺は雪の上に土下座したが、 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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小説 国王の契約花嫁 ~最初で最後の恋~

 

 

 

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ひとめ惚れから始まった「契約結婚」。この夫婦関係に未来はあるのか?

国王と「契約結婚」した少女か辿った運命とは?~ある日、町中の古書店で出逢った青年と両班の令嬢ファソン。その青年も上流両班の子息らしく、何と今、都でり大流行の小説「春香伝」の続編を書いているというが―。

「王妃の中の王妃」と後に讃えられた仁貞王后の少女時代。そして外伝最終話の主演は何と、この物語りの語り部として本編からずっと活躍してくれた古書店の主人チョ・ガンドク。

ヒロイン仁貞王后と賢宗大王、二人の出逢いの場となった「チョさんの本屋」。

科挙に首席で合格という伝説の天才の若き日を描く。

  

外伝最終話

  雪割草~運命の恋、見つけた~

 

 翌朝になった。
 ガンドクが店を開けたのは、いつもよりはゆうに一刻も遅い時間である。彼は閉(た)てていた表の板戸をすべて外し、店の前の細い道に出た。
 眩しげに空を仰ぐと、既に眩しい太陽が頭上高く輝いている。
 まったく、よく降ったものだ。昨夜ひと晩で、この冬中に降る雪が降り尽くしたのではないかと思うほどの豪雪だった。また雪かきをしなければと思ったのだが、意に反して、店の前は既に綺麗に雪かきが終わっていた。
 彼は、細い道の向こう側にうずたかく積み上げられた雪の山を見やった。恐らくは、この先に住む八百屋のチョソンの仕業に違いない。幼なじみは昨日、シヨンがここに来たことを知っている。更には、昨夜、二人の間に起こった出来事についても察しをつけているのだろう。
 つまりは、悪童時代からの親友が気を利かせてくれたという案配になる。
 ガンドクは淡い微笑を刷いて、しばらく雪の山を見つめていた。早くも屋根に積もった雪が朝の太陽に溶け始め、軒先から透明な水滴がしたたり落ちている。朝陽に燦めく水滴は、水晶のように美しかった。眼を細めてしばらく見つめ、ガンドクは奥に引っ込んだ。
 ひと間しかない居間には、既に朝食の支度が整えられていた。
 しかし、シヨンには愕かされることばかりだ。お嬢さま育ちだから、身の回りの世話も使用人にして貰うのに慣れているのかと思いきや、何でも自分でやるようにしつけられているらしい。
 今朝も、彼女はガンドクが目覚めたときには既に身仕舞いを済ませ、付属の小さな厨房の竈には火が赤々と燃えていた。竈にはこれまた一つしかない古びた大鍋がかかり、美味げな匂いが立ち上っていたのだ。
 シヨンはもちろん、昨日、ここに来たときは帰るつもりだった。だから、着替えなど用意しているはずもなく、昨夜と同じ衣服を着ている。ガンドクが脱がせたはずの服は昨夜はずっと夜具の側に乱れて散らばっていたはずだが、シヨンの纏う衣服にはシワ一つない。
 それに引き替え、彼自身はどうだろう。裸の上にだらしなく下着を引っかけただけの格好だ。到底、こんな姿を彼女には見せられないと思う一方、何も身につけていない生まれたままの彼女を、もう一度見ていたかったなどと不埒なことを考えるガンドクであった。
 彼は慌てて部屋に戻り、急いで服を着た。髪のほつれを適当に手で撫でつける。そういえば、シヨンの方は昨夜、ガンドク自身が彼女の編んでいた長い髪を解きはなったのだ。
 長い黒髪が薄い夜具にひろがっていた様は、思い出すだけで身体が熱くなりそうだ。何も身につけていない素肌を黒髪が覆い隠しているのがかえって淫猥に見え―。
 そこまで思い出し、彼は慌てて首を振って淫らな光景を意識外に追いやった。こんな妄想は朝の明るい陽射しの下でするものじゃない。
 シヨンは髪も相当に乱れたであろうに、きちんと結い直されている。きちんとした娘なのだなと、改めて思った。
 だが、閨の中での彼女は、なかなか奔放だった。もちろん、彼女が初めて受け入れた男が自分であるとは判っていたが、彼女は未通の処女(おとめ)なりに精一杯、彼の愛撫に応えてくれた。また顔がだらしなくゆるみそうになるのを堪え、ガンドクはわざとらしい渋面を作った。
 小さく咳払いすると、シヨンが振り向く。
「おはよう」
 さりげなく声をかければ、シヨンの白皙がうっすらと染まった。
「おはようございます」
 こういう時、普通は何と言えば良いのか、ガンドクにも判らない。まさか顔を見るなり、〝夕べは良かったよ〟などとは言えないだろう。シヨンは妓房の妓生ではないのだから。
 しかも、自分たちは祝言を挙げたというわけでもない。
「今、朝食をお持ちします」
 シヨンが消え入りそうな声で言った。
 ほどなく、二人は狭い室に向かい合って座った。間には小卓が置かれ、それぞれの前に湯気の立つ器が並んでいる。
「置いてあった野菜と鶏肉を適当に使わせて頂きましたが、良かったでしょうか」
 シヨンを惚けたように眺めていた彼は、ハッと我に返った。
「あ、ああ。別に構わないよ」
 鶏肉は一昨日、鶏肉屋で買ったものを吊していたはずだし、野菜は昨日、チョソンが余り物を持ってきてくれていた。この寒さだから、鶏肉も日保ちはする。
 いや、そんなことはどうだって良いんだ。ガンドクは恍惚りとシヨンを見た。
 やはり、昨日までと今朝の彼女はどこか違う。雰囲気だろうか。楚々とした佇まいの中にもそこはかとなき色香が滲み出ているようで、女が男を知るというのは、まさに、このようなことを言うのかもしれない。
 だとすれば、シヨンというまだ開かぬ固い花を開かせたのは俺なんだ。ガンドクはひとしきり妄(みだ)りがわしい妄想に耽り、また悦に入った。
「―どうですか?」
 シヨンが何か言っている。ガンドクは慌てて幸せな妄想から意識を現実に引き戻した。
「えっ」
 シヨンの可愛らしい面に訝しげな表情が浮かんでいる。
「味付けは、いかがですかと先ほどから繰り返しお訊きしているのですが」
 どこか恨めしげに言われ、彼は狼狽した。
「あっ、良かったよ。夕べの君は実に良かった、綺麗だった。君は服を着ていても綺麗だけど、着ていない方がもっと綺麗だ」
 科挙に首席合格した天才も恋をすれば、ただの愚かな男になるらしい。この問題発言の後、シヨンがいきなり泣き出し、ガンドクは彼女にひたすら謝り、宥める始末になってしまった。
 何とも気まずい沈黙の中で食事を終えようとしていたときだった。店の表で人声が聞こえ、ガンドクは立ち上がった。
「お客さんが来たようだ」
 ここ数日というもの、雪が降り続いて商売の方もあがったりだった。いそいそと表に出たガンドクの眼に映ったのは、仁王立ちになったチョン・ホギョムだった。ホギョムはけして長身ではなく、男としてはごく平均的な体躯のガンドクと同じほどである。
 しかし、角張った顔やいかつい身体つきをしており、今、その彼が腕組みをし道端に立つ姿はまさに迫力がありすぎるほどだ。こうして間近で見ると、通訳官というよりは市井の労働者といった方がよほど通りそうな風貌だ。
 何とも場違いなことを考えているガンドクを、ホギョムは睨めつけるように見据えている。
 彼の真後ろには、主人よりは更に一回りどころか二回りも逞しい身体をした下僕が控えていた。
 もとより腕力勝負なれば自信はからきしないけれど、ホギョムはともかく、あの下僕相手では勝負する前から、ガンドクの勝ち目はないだろう。
 ホギョムがぞんざいに顎をしゃくると、下僕が主人の意思を読んだかのようにさっと動いた。あっと思う間もなかった。下僕はガンドクの脇をすり抜け、店の奥に突き進む。ほどなく、奥からシヨンが下僕に引きずられるように連れてこられた。
「―っ」
 流石に彼ものんびりと静観はしていられなかった。
「ガンドクさまっ」
 シヨンは懸命にもがいているが、それでなくても華奢な彼女の抵抗など、鋼(はがね)でできているような下僕には赤児のようなものだ。
 シヨンが救いを求めるようにガンドクを見ている。ガンドクは道に走り出た。咄嗟にホギョムの前に跪き、膝を揃えて座った。雪がまだ残っている地面は殊の外冷たく、忽ち粗末なパジが濡れるのが判ったが、頓着しなかった。
「お嬢さんを俺に下さい」
 それが、彼の精一杯の台詞だった。言葉そのものは短かったけれど、懇願の響きは十分相手に伝わったはずだ。
 しかし、ホギョムは渋面で彼を睥睨しているだけである。
「娘さんを俺に下さい」
 似たようなものだが、もう一度、心から言った。
 ふいに、ガンドクの身体は宙に浮いた。シヨンを放した下僕がガンドクの首根っこを掴み上げたからだ。ガンドクはけして優男というわけではないのに、この悪魔のような下僕にかかれば、まるで子猫のように首根っこを掴まれ易々と持ち上げられている。
 次の瞬間、彼の身体は今度は鞠のように地面に転がっていた。下僕がふいに首根っこを摑んでいた手を放したからだ。勢い余って地面にたたきつけられ、ガンドクの身体はそれこそ鞠のように地面を転がった。
 シヨンの悲鳴が聞こえたような気がしたけれど、頭をしこたま打ち、意識が朦朧としていた。
 更に、横腹をかなりの力で蹴り上げられ、ガンドクは呻いた。またも下僕にやられたのかと思ったが、すぐ側にホギョムが立っていた。
「賤しい身分の癖に、私の娘を誑かすとは。身の程を知れ」
―くそう、この親父、歳食ってる癖に、滅法力が強いな。
 ガンドクは腹を押さえて呻きながらも、何とか立ち上がった。