【妄想小説】シルエット | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

Case M

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

時刻表を見て絶句。

 

駅前通りも寂れてきたなと思っていたけど、

実家方面へ向かう唯一の路線バスが、

2時間に1本になってるなんて…

半年前はまだ1時間に1本あったのに!

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「どうしよう…」

 

駅を背に、とりあえず歩いてみる。

タクシーも走ってない広い道に

夕陽がきらきらしていて、

そのひかりを見ていたら…

 

思わず、記憶がよみがえる。

 

”今帰り?じゃあ一緒に帰ろ”

 

きらきらのひかりのような、先輩の笑顔。

 

”ちゃんとつかまって”

 

自転車にまたがる先輩の長い脚。

わたしを後ろに乗せて、

ひかりの中を走るスピードを、思い出す。

 

シャーーーーッ

 

「わっ…」

 

思い出してた自転車が

わたしの横を颯爽と走り抜けたから、

思わず立ち止まったら。

 

キキーーーーッ

 

「えっ?」

 

目の前で、急に止まった、自転車は。

 

びっくりした顔で振り返って、

わたしを見つめてるその人は。

 

「先輩…?」

 

「うわ!ひさしぶりーー!!」

 

今まさに思い出していた、

相葉先輩、だった。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

カラカラカラカラカラ

 

自転車を押しながら歩く先輩、

そのとなりを歩くわたし。

 

ドキドキドキドキドキ

 

「オレが卒業してから…会うのはじめてだよね」

 

「そうですね」

 

卒業後、先輩が実家のお店を継いだことは

風のうわさで知っていた。

 

帰ってくるたびに、

先輩のことは思い出してたし、

いつか会えたらなとは思っていたけど、

ほんとに会えてしまうと、

どうしていいかわからない。

 

「…………」

「…………」

 

元気だった?とか

今何してるの?とか

ひととおりの会話が終わってしまうと

なにを話したらいいのか…

 

「…思い出すよね」

 

「え?」

 

「こうやってさあ…

ときどきふたりで帰ったこと」

 

さっきまさにわたしも思い出してた風景が

先輩の中にもちゃんと残ってると知って…

胸が締め付けられる。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

”3年の相葉雅紀先輩”

 

入学した時からその名前はとても有名で。

3年生はもちろん2年生も1年生も、

彼の名前を知らない人はいなかった。

 

男女問わずものすごい人気があって、

かっこよくて優しくて、

いつも明るい輪の中心にいた人。

 

最初のきっかけは…

 

『ああっオレのジャムロールーっ…』

 

購買で、最後の1個だった

ジャムロールが買えなくて

落ち込んでた先輩に、

 

『この子ふたつ買いましたからっ』

『ひとつ差し上げますっ』

 

なんて同じクラスの女子たちが

ワーワーキャーキャー言って、

話をするようになったんだっけ。

 

かっこいい3年生の先輩に憧れる、

たくさんの後輩の中のひとりだったわたし。

 

ただの憧れ、だけだったのか。

ほんとうに好き、だったのか。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「靴箱のとこで偶然会えたら、

オレすげーうれしくてさ」

 

ドキドキドキドキドキ

ドキドキドキドキドキ

 

「一緒に帰れるかなって、いっつも密かに、

会えるの待ってたんだ…実は。笑」

 

先輩の気持ちを初めて聞いて、

つぶれそうなくらい胸が痛くなる。


ただの憧れ、だけじゃない。

わたしもちゃんと…好きだったのに。

 

「でもなんかそのうち…

ぜんぜん会えなくなっちゃったからさ」

 

「…相葉先輩、」

 

「あーオレ嫌われたかーーって。笑」

 

「違います。違うんです。

好きでした、わたしも…先輩のこと」

 

「え?…ほんとに??」

 

あの頃と変わらない、

先輩のまっすぐな瞳。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

『あんた1年でしょ?どういうつもり?』

 

校舎裏への呼び出しなんて

マンガの世界だけだと思ってた。

まさか自分がそんな状況になるなんて。

 

『相葉くんに近づかないでよ』

『1年のくせに生意気』

『雅紀の自転車に2人乗りとか信じらんない』

 

先輩と同じクラスの人たちに囲まれて、

そんなようなことを言われたと思う。

2つしか違わないのに、

女の先輩は大人っぽくて怖くて。

 

”すみません”

 

小さな小さな声で、

そう言うのが精一杯だった。

 

でもそんなことくわしく、

今さら先輩に話すのもな…

 

「相葉先輩、人気者だったので。

みんなのアイドル、だったので」

 

「ええ?アイドル?笑」

 

「クギを…さされたっていうか、

そういうことが、あって」

 

「…………そっかあ」

 

たぶん先輩には伝わったと思う。

さみしそうな横顔を、夕陽が照らす。

 

「そうだったんだ…うん…そっかあ」

 

「わたしもいつも、うれしかったです」

 

「え?」

 

「相葉先輩に偶然会って、

自転車乗せてもらうの…すごくうれしくて」

 

「…………」

 

数にしたらたぶん、数回。

期間でいえば、ほんの数ヶ月。

たったそれだけの思い出だけど。

でもわたしにとってそれは、

特別な時間だった。特別に大切な…

 

「…よしっ」

 

相葉先輩がおもむろに自転車にまたがる。

 

「うしろ、乗って?」

 

「……、」

 

「ほら、早く早く。笑」

 

少し戸惑いながら、

そっとうしろに腰かける。

あの日と同じように。

 

「”ちゃんとつかまって”」

 

さっき思い出してた、

そのとおりの言葉を言う先輩に、

思わず胸がきゅんと高鳴る。

 

「ほらほらちゃんと!手はここ」

 

ぐっと振り向いた先輩が

わたしの腕をとって自分の腰に回す。

 

長い腕が、強制的にわたしの手をとって、

ぎゅううっと細い体に巻きつける。

しがみつくかたちに、ドキドキドキ。

 

「OK?」

 

「…オッケー、です」

 

「よしっ。じゃあ行くよっ」

 

長い脚がぐっとペダルを踏みこんだら、

あっという間にスピードが出る。

 

わたしを後ろに乗せて走る、

相葉先輩のひろい背中。

 

腕には先輩の腰のあたりの感触、

頬に感じる、優しい体温。

 

ガタンガタンガタン

 

「わっ…」

 

「ごめんごめん、大丈夫?」

 

砂利だらけのがたがたの道、あの頃も…

こうやって後ろのわたしを

いつも気にかけてくれたっけ。

 

「2人乗りちょうひさしぶりだよ!」

 

「わたしもあの日以来です!」

 

「ほんと?じゃあオレ以外の、

誰の自転車にも乗ってないってこと?」

 

「はい。笑」

 

カラカラと小石が

ホイールに当たる音も懐かしい。

 

歩く速度とも、車の速さとも違う

自転車のスピード。

頬を撫でる風が心地良い。

 

「好きだったって、聞けて良かった」

 

わたしも。

伝えられて良かった。

また会えて、嬉しかったです。

 

嬉しいのに切なくて、涙が出そうで。

少しうつむいたら、

わたしと先輩の影が目に入る。

 

風の中を駆け抜ける自転車、

ハンドルを握る先輩と、

後ろに乗るわたしの、シルエット。

 

瞬間、あの日に戻ったような。

瞬間、タイムスリップしたような…

 

わたしを後ろに乗せて、ひかりの中を。

 

あたたかい夕陽の中で。

思わず、記憶がよみがえる。

 

”今帰り?じゃあ一緒に帰ろ”

 

先輩の笑顔。

変わらない笑顔は、

あの頃からずっとずっと、

特別で大切な…わたしのひかり。

 

 

(終わり)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

読んでいただき

ありがとうございます(^^)/

 

再会シリーズその2、

相葉さんバージョンでした。

近日中にアップします、と宣言したおかげで

今日書けたよーやったやった♪

気分転換に楽しんでもらえてたらうれしいです。

 

みんなのアイドル相葉先輩との

両想いだったけど実らなかった恋。

なんかありそうじゃない?こういうの!

 

ぜんぜん違いますやん、

と言われるかもだけど(^^;)

KANAーBOONの「シルエット」という曲から

イメージを膨らませて書きました。

めちゃめちゃ大好きな曲なので、

書けてうれしかったです。

 

次は二宮くんなんだけど、二宮くんのも

KANAーBOONの曲から作ってます、

なんとなくにのあいで揃えたく…笑

またそのうちアップするので

どうぞよろしくお願いいたします♡