【妄想小説】あいのは(完結) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「今ね、大きな虹が出てて、」

お昼休みから帰ってくる途中で
きれいな虹が見えたから。

なんだかちょっと嬉しくて、
隣の席の新入社員ちゃんに
声を掛けたけど。

「みんなインスタ上げてますよねー」

スマホを見ながら
なんでもない返事が返ってくる。

そ、そっか、そうだよね…

自分の頭の上だけに
虹があるなんて
思ってなかったけど、でも。

嬉しかった気持ちが一瞬で
しゅんとなる。

今虹が見えたの
すっごく大きくて
すっごくキレイだったよ

上手には撮れなかったけど
ビルの谷間に見えてる
七色の写真をLINEする。

雅紀の住む街は、
晴れかな、雨かな。

雅紀:すごい!ちょうきれい!

雅紀:ラッキーだね(^^)

嬉しかったこと、
一緒に喜んでくれる雅紀が。

わたしが感じた特別を
もっともっと特別にしてくれる雅紀が。

大好きだなってあらためて、
胸がじんわり熱くなる。

雅紀:虹ってことはもう雨あがった?

まだ降ったり止んだりだよ

雅紀:明日は晴れますように!

うん、って思わず頷いちゃう。

明日は晴れたらいいな。
今日は特別、そう思う。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

平日なのにすごい人!

乗り入れ路線の多い駅は
ものすごい混雑の上に
あまりの蒸し暑さに倒れそう。

待ち合わせ場所にした時計の下で
きょろきょろしてたら、iPhoneが震える。

雅紀かな。

櫻井:彦星に会えた?

ドヤ顔で文字を打つ

翔くんの顔を想像して、
思わず笑っちゃう。

とりあえず、
ウサギが敬礼してるスタンプで返信。

櫻井:よい七夕をお過ごしください

相変わらず謎すぎるスタンプと
翔くんらしい文章に
目線を引っ張られてたら、

「ごめんお待たせ!」

目の前に現れた、大好きな人。
久しぶりに会えた、大好きな雅紀。

久しぶりの笑顔に…
ドキッとしてキュンと胸が高鳴る。

「お疲れさま。今ね翔くんから」

ドキドキをごまかしたくて、

思わずさっと目を伏せて。


これ、ってスマホの画面を見せる。

「あ、それオレにも来てる。ほら。笑」

櫻井:織姫に会えた?

もう絶対面白がってるでしょ…
すごくすごく恥ずかしい。

「翔ちゃんに電話してみよ。

もしもーし。翔ちゃん?」

翔くんと話しながら、するっと自然に
雅紀がわたしの手を握るから、
ますますドキドキしちゃうよ。

「うん、今ねー改札出て会えたとこ。
そうそう。織姫織姫。笑」


ちょっと何言ってるのって
繋がってる手をぐってひっぱる。

にやにや楽しそうな雅紀。

「雨降んなくてよかったよ」

きれいな晴れ、
とはいかなかったけど。

七夕の夜に遠い街から、
わざわざ会いに来てくれた雅紀。

ちょっと会わない間に
ますますカッコよくなってる気がして
電話してる顔、まじまじと見ちゃう。

「結局今日は最終で帰んなきゃで。
時間ないけど…うん、うん…」


久しぶりに会えた嬉しさでいっぱいなのに、
たった数時間のために
無理させちゃった気がして苦しい。

「わかってる!
だいじょうぶ!わかってるよ!笑
じゃあね!」


何話してるのかな。

はにかんだ笑顔の雅紀が
かっこよすぎてキュンとして…

もういつの間にこんなに、
かっこよくなっちゃったの?

「よしっ。…行こっか!」

 

人波の中を、

雅紀と手をつないで歩く。

 

七夕の夜に、
雅紀と一緒に、歩いてる。
 

「新幹線混んでた?」

 

「んーん。大丈夫大丈夫。

品川で降りんのもすっかり慣れたよ!」

 

ビ~アンビシャ~ス♪

 

車内チャイムのメロディを、

鼻歌で歌ってる雅紀がかわいい。

 

「エキナカにもさ、

けっこう新しい店できてるよね?

今度ゆっくり見てみようよ」

 

「そうだね」

 

「今日はなに食べよっか。

なんか食べたいのある?」

 

「んーなにがいいかなあ…」

 

なにげない会話をしてる今が

すごくすごく嬉しくて、

なんだかちょっと泣きそうで。

大きな手、

思わずぎゅっと握ったら。

 

「…………」

こっちを見てふわっと笑った雅紀が、
しっかりと握り返してくれるから。

嬉しい気持ちごと
ひゅーんと夜空に飛んでくみたい。

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

「すっげー混んでたねー」

大通りに出てはみたものの、
七夕祭りのあまりの人の多さに
早々にへこたれて。

先にごはんごはん!
おなかすいたからごはんにしよって
小さな定食屋さんに入る。

「すいててよかったね」

「穴場だねここ」

路地裏にある小さなお店は静か。
ようやくほっとひと息。

「ごはん食べ終わったらもう一回、
短冊書くのチャレンジしに行く?」


「でも待ち時間すごかったよ?」

願いが叶うって
テレビで取り上げられて
話題になったらしいお祭りだから。

「短冊は別に、書かなくてもいいかな」

「そう?」

「うん」

願い事ならもう、叶えてもらってる。

今目の前にいてくれる雅紀に
そう思う。

そう思ってたのに。

ちらっ

雅紀が一瞬、

腕時計を確認するから、
つい言葉が出てしまう。

「やっぱりあった」

「ん?」

「天の川にお願いしたいこと」

なに?
って優しい顔。

「たまには時間気にしないで、
一緒にいられたらなーって」

お茶の入った
手もとの湯呑みをじっと見ながら、
素直な気持ちが口をついて出たけど、

「………」

「あっ、ごめん!!」

無言の雅紀にハッとする。

時間がない平日の夜に

新幹線に乗って来てくれたのに。
わざわざ会いに来てくれたのに。


こんなこと、今言うんじゃなかった。

「ごめんごめん。忘れて」

「………」

困ったみたいな
伏し目がちな雅紀の表情に焦って、
話題を変える。

「昨日虹の写真送ったでしょ、
あの写真撮るときね、」

「ねえ」

真剣な雅紀の顔。

「結婚しよ」

「……え?」

「ほんとはちゃんと、
今日、ちゃんとしたとこで
言うつもりだったんだけど」


言いながら、
ポケットをごそごそする雅紀の
真剣な顔。

ぎゅっと握った

大きな手のひらから出てきたのは
シンプルな銀の指輪。

「……………」

ポケットに指輪…
今日ずっと入れてたの?

 

胸がどくんどくん強く鳴って、
言葉が出ない。

向かい側から、
雅紀の手が迷いなく伸びてくる。

すっと持ち上げられた
わたしの左手、薬指に通される

きれいな銀の指輪。

キラキラのリングが光ってる

自分の薬指が、現実とは思えないよ。

「オレと結婚してください」

ぎゅっと
雅紀の両手に包まれる、
わたしの左手。

手から伝わってくる、
雅紀の熱い体温。

まっすぐ真剣な目に、
まっすぐなその言葉に
心が震えてどうにかなっちゃいそう。

「はい」

ドキドキしすぎて、

小さな声になっちゃったけど
ちゃんと届いたわたしの返事に。

 

「あー…良かった」


心底ほっとしたような、

大好きな雅紀の笑顔。

どうしよう。
信じられない。

 

柔らかくて優しい表情の雅紀は、

わたしの左手をまた、

両手でぎゅっと包みこむ。

 

いつかの車の中みたいに、

雅紀の親指が、わたしの手の甲を

少しだけ撫でるから…

思わず思いがこみあげて。

じんわりと目が、潤んでくる。

 

”オレと結婚してください”

 

”はい”

 

プロポーズ、

してもらっちゃったんだな…

 

「あーーー。

すっげー緊張した。笑」

「ありがとう…
よろしくお願いします」

嬉しくて恥ずかしくて、
かしこまってぺこっと頭を下げる。

「ほんとはちゃんと、考えてたんだよ」

バツの悪そうな雅紀。

「翔ちゃんとプロポーズ、
いろいろ考えてて、」


「え??」

翔ちゃんと??

「ロマンチックな場所とか

すごいいろいろ、考えてたんだけど」

さっき翔くんと電話してたときの
はにかんだ雅紀の顔を思い出す。

織姫と彦星のこと、
いつも心配してくれる
優しい翔くんのことを思い出す。

「でも今言いたくて。
絶対今、言わなきゃって」


こうと決めた雅紀の顔は
すごく男らしくて、胸がいっぱいだよ。

 

「はーい唐揚げ定食ふたつねー
お待たせしましたー」


じんわりと浸ってたら、

すぐそばで店員さんの声が聞こえて、


びっくりして一瞬でばっ!と

ふたりとも手を離す。

そうだここ定食屋さん…!

なんだか急に、恥ずかしい。

 

「ふふふふふっ…笑」

 

「はははっ。笑」


ちょっとだけ恥ずかしいけど、
でもそれ以上に、
すごくすごくすごく、嬉しくて。

目の前には唐揚げ定食。

 

「あーすっげーおいしそう!」

 

「ね。いい匂い~」


ふふふってまた、

ふたりで笑いあう。

 

これからはこんな日常が

待ってるのかな…

 

雨の日も晴れの日も、
虹が見えるような特別な日も。

ふたりで笑ったり、
泣いたりしてる未来。


「これからずっと、一緒にいたい。
ずっと一緒にいよ?」


「…うん」

 

毎日となりにいてくれる
雅紀の姿が浮かんできて、

 

毎日となりで笑ってる

大好きな雅紀の笑顔を思って、

嬉しくて思わず、
ぽろんて一粒、

幸せな涙がこぼれた。


(初出:2016.7.6)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あいのは」これにて完結です。

 

読んでいただき、

ありがとうございました(^^)/
 

遠距離恋愛のふたりのお話だから、

七夕のラストにしたいなあと思って書いた

最終話でした。

 

初出バージョンは読み直したら

わりとあっさりめかなーと思ったんで

少し加筆修正してます。

 

使った写真は

実際に品川駅にある時計です(^^)

 

お蔵出しも含めて、

Rebornできてとっても嬉しかったー!

 

最後までどうもありがとう、感謝です。