【妄想小説】ルビー(17) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

(side翔)
 
 
「ありがとうございましたー」
 
最後の1組が帰ったら、
店内の客はもう
いつもの席に座るオレだけ。
 
さっきまで作ってた企画書、
資料をパタパタと閉じてたら、
クローズの札をかけたニノが
カウンターの中に戻ってくる。
 
「お待たせ翔ちゃん」
 
「うん」
 
”さくらさんとなんかあったでしょ”
 
店に入って早々、
すぐにそう言ったニノ。
 
そんなにオレは顔に出んのかな。
 
まあニノは特別、
感情を読み取るのが上手いからな…
ひとり勝手に納得しつつ、
それなりに言葉を選びつつ、
 
ぽつりぽつりと、
さくらさんとのことを話す。
 
「…という感じで、
旦那である社長との関係性を
偶然にも知ってしまって、」
 
「翔ちゃんはさくらさんに
好きって告白しちゃった、と」
 
「………」
 
「そしてさくらさんも、
翔ちゃんのことが好きだと。
そういうことでしょ?」
 
「………まあ」
 
認めていいのかどうか
逡巡してるオレに対して
ニノは普通に、冷静な顔。
 
「しょうがないんじゃない?」
 
「え?」
 
「しょうがないでしょ、もう。
好きな気持ちは、それは」
 
世間的には
許されないことだけど。
 
ニノがそう言ってくれただけで
心が少し、ラクになる。
「た~ての糸はあ~なた~♪」
 
「よ~この糸はわ~たし~♪
って、歌っちゃったじゃねーか。笑」
 
いいじゃん歌っても。
赤い糸が繋がったんだから」
 
 
赤い糸か…
そうだったらいいなと思う。
 
 
「ニノはさ、」
 
「んー?」
 
「なんで前の会社辞めたの?」
 
 
カウンターの中から
じっと見つめる薄茶色の瞳。
 
「………」
 
オレが言いたいことを
瞬時に理解したんだろう。
 
まっすぐな声で
逆に問いかけられる。
 
 
「なに翔ちゃん。会社辞めんの」
 
「………」
 
「翔ちゃんも
会社辞めたいってこと?」
 
「…辞めたいっていうか、」
 
「さくらさんのために会社辞めて、
さくらさんと一緒になって。
ふたりでアオゾラ経営するって、
そういうこと?」
 
「…可能性のひとつっていうか、」
 
「ないよ」
 
ニノらしい、
きっぱりとした言い方。
 
「その考え方は
アクロバティックすぎるよ。
らしくないよ翔ちゃん。笑」
 
わかってる。
わかってる。
 
ほんとは自分が
いちばんよくわかってる。
 
「アオゾラのために会社辞めるなんて、
なによりまずさくらさんが
絶対許さないと思うけど」
 
「………」
 
「翔ちゃんが今、
すげーがんばってること、
さくらさんが一番よくわかってるでしょ」
 
脇に寄せた企画書の束。
浮かんでくるさくらさんの笑顔。
 
”がんばって。応援してる!”
 
「翔ちゃんは今の仕事が
いちばんやりたい事でしょ?
いちばん好きな事でしょ?」
 
「………うん」
 
「そりゃ今は社内では
しんどい立場かもしんないけど」
 
「そうやって地道に、
今も企画書書いてんじゃん」
 
「書いても書いても会議にすら
上がらない状況だけどね。笑」
 
それでもあきらめず、
もがき続けてるのは。
 
 
”いちばん好きな事でしょ?”
 
 
ニノの言う通りだよな…
 
 
八方塞がりに陥ってた思考が
少しスッキリしてくる。
 
 
「なんかいろいろ…
焦ってんのかな、オレ」
 
 
仕事での未来が
ひとつも見えないこと。
 
アオゾラについて、
なんの力にもなれてないこと。
 
さくらさんへの想いは…
どこに辿り着ける?
 
 
「先が見えないってことは
希望があるってことだよ」
 
「ニノ、」
 
「希望だと思い込もうよ」
 
 
「思い込んでるうちに
本当に希望になるかもしんないよ?」
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
 
さくらさんはいつも
どんな想いで
家まで来てくれてるんだろう。
 
不安を掻き消すように
華奢な体を抱きしめる。
 
せわしなく外してく
ワンピースのボタン。
 
するりと袖を落として、
なめらかな肌に
赤い痕はつけないように。
 
気を付けながら
たくさんのキスを落とす。
 
肩に、鎖骨に、
きれいな背中に。
 
「ん…翔くん、」
 
密やかな逢瀬を重ねるだけの
オレとさくらさんの今の関係。
 
”ごめんね”
 
はじめての夜に
彼女がつぶやいた言葉。
 
さくらさんにはきっと
葛藤があるに違いないのに。
 
なんとか都合をつけて
会うことができた夜は
とにかくただただ、嬉しくて。
 
 
会えば結局…抱いてしまう。
 
 
オレを求めてくれる
腕の中の彼女に安心して、
 
気持ちを伝えあう時間は
ただただ幸せで。
 
深く深く繋がりながら、
甘く甘くくちづける。
 
求めるということが。
求められるということが。
 
こんなに幸せで、
こんなに怖いことなんて。
 
「ん…あ…っ、はっ…ああっ…」
 
乱れる声を、こぼれる涙を、
あなたの全部を、オレだけに。
 
「オレだけに、全部…見せて」
 
柔らかい体を
きつく抱きしめながら
執拗に追い詰める。
 
壊してしまいそうなほど、激しく。
溶けてしまいそうなほど、熱く。
 
優しく愛したいのに
強く揺さぶることを止められない。
 
ぐっと腕の中に閉じ込めて。
 
 
全てなくなるほど
ひとつになりたい。
 
何も考えられなくなるまで
ひとつになれればいい…
 
 
不安定さを、胸の痛みを
全部全部掻き消すように、
 
重なる音を、響かせる。
 
「……っ、」
 
首すじに顔を埋めて、
彼女の香りを感じて…
 
甘い匂い、ぬくもりに包まれて、
 
上がった息のまま…
そっと目を閉じる。
 
 
(初出:2019.10.7)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
【小ネタメモ】
 
「先が見えないってことは
希望があるってことだよ」
 
すごくすごく好きなセリフです。
自分に言い聞かせてた言葉だな、
これを書いてた時期は特に。
 
前に最後まで読んでくださった方には
ああなるほど、と思っていただけるかもですが
「ルビー」は赤い糸の物語でして。
 
赤は翔くんの色だから、
いつか”赤”がキーワードになるお話を
翔くん主演で描けたらなあと思って、
考えたお話でありました。
 
ちなみにのちなみに。

雅紀・潤・マコト(潤の彼女)と同期で
普通に会社員として働いてたニノ、
なんで会社辞めたの?の理由も
ちゃんと考えてまして(^^)

上司の不正に半沢直樹ばりにカミつき、
上司を辞めさせたあと
混乱の責任を取って自分も辞めた。
しかしそもそも株で大儲けしていて
辞めた時は既にお金に困っていなかった。
お店経営はただの趣味と税金対策。
大学時代に好きだった彼女のことを
なんだかんだずっと忘れられないでいる。
 
みたいな裏設定を作ってました。笑
 
長々読んでいただき
ありがとうございます。
 
次回は18話、
またどうぞよろしくお願いします(^^)/