【妄想小説】ルビー(1) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

(side翔)

 

懐かしい、なんて

穏やかに思い出すことが

いつかできるんだろうか。

 

懐かしい、なんて

記憶を奥に閉じ込めることが

いつかできるんだろうか。

 

この夏と、彼女のことを。

 

全てなくなるほど

ひとつになれればいいと…

ひたすらに願い

抱きしめた彼女のことを。

 

彼女に刻みつけた

紅く赤い跡の記憶を、

熱く暑いこの夏の、

彼女とのすべてのことを―

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

今日も今日とて、

ニノの店の、いつもと同じ席で。

 

カウンターの向こう側のニノと

ビールジョッキを傾けながら

他愛ない話をする。

 

この時間が

最近の唯一の楽しみで。

閉店間際の、静かな時間。

 

「翔ちゃん。

もうお客さん誰もいないから

そんな端っこじゃなくて

真ん中来て座ったら?笑」

 

「いやなんか…

いつもの席が落ち着くんだよ」

 

「翔ちゃんがいいなら

別にいいんだけどさ」

 

ニノの位置から見たら

ちょっとヘンなんだろう。

 

広い店の小さなカウンター、

隅っこにぽつんと座ってるオレ。

 

「もうそこ櫻井翔専用にする?

椅子の色赤に変えようか?」

 

「ふはっ。なんで赤?」

 

「ザ・ベストテンの、

ルビーの指環だよ!

あれ赤い椅子だったでしょ」

 

「ベストテン!?

あー!!懐かしーな。笑」

 

「あの椅子って、

連続1位記念とかだっけ」

 

「ちょっと待って調べる」

 

「オッケーショウ!

ルビーの指環を調べて」

 

「オッケーグーグル、

みたいにゆーな。笑」

 

”ルビーの指環 椅子” で検索。

 

「お、出た出た。

へー。12週連続第1位記念で

作られた椅子なんだって」

 

「12週連続?すげーな」

 

「ほんとほんと」

 

「じゃあうちは…

連続来店ぶっちぎり第1位記念

櫻井翔専用席って書いとこっか」

 

「ふははは。やめろやめろ」

 

真剣な顔のニノに若干怯える。

 

ニノの場合、

マジでやりかねないからな…

 

連続来店ぶっちぎり第1位。

 

確かに今は、

昼も夜もほぼ毎日、

ここでメシを食ってるオレ。

 

ピロン!

 

「あ、潤くんからだ」

 

LINEを確認してる白い頬が

画面の光でさらに白く見える。

 

「福島みやげ明日持ってくけど

翔さん来るかな、だって」

 

「…来るよ大丈夫、っと」

 

「え?オレに確認する前に

もう返信してんの?」

 

「だって翔ちゃん絶対来るじゃん」

 

「いやまあ…

おっしゃる通りだけど。笑」

 

連続来店ぶっちぎり第1位は

なんかちょっとバツが悪くて、

思わずグッと、ビールを煽る。

「別れたのいつだっけ?」

 

「今年の1月」

 

「1月?そんでもう今、

別の人と結婚したってこと?

すげーな、その元カノ」

 

深い時間になって、

突っ込んだ話になる。

 

約半年前に別れた、

2年付き合った元カノの話。

共通の知人のSNSで知った

最近結婚したという報せ。

 

「結局さ、その元カノは、

”翔ちゃんとの結婚”じゃなくて

”結婚”がしたかったんだろうな」


「まあ年齢とかキャリアとか…

いろいろ考えてたみたいだから」

 

遠い昔のことのように

懐かしく思い出す。

寒かった冬の日の、

あっさりとした別れ話。

 

「そういえばあの日だった」

 

「?」

 

「別れた日。松本くんたちと

ここで初めてあった日だったわ」

 

「カウンターにぎゅうぎゅうで

並んで座った、あの日?」

 

「そうそうそう。笑」

 

「へー!あの夜だったの。笑」

 

人生いろいろですなー、

なんて言いながらにやにや笑う

ニノの楽しそうな顔。

 

「オレの隣に座った子のこと、

すげー大事そうにしてた彼いたよね」

 

「相葉さんね。笑

今もうラブラブよ、あの2人。

そっかあん時は、

潤くんとマコさんもまだ

付き合ってなかったんだな」

 

懐かしいなー、なんて

ニノが目を細めて笑う。

 

「”結局なにがどうなっても、

あいつを好きって気持ちは

絶対変わらないから”」

 

「あ!潤くんの名言!!

オレも翔ちゃんも、

キュンとしちゃったやつ。笑」

 

いちいち説明しなくても

すぐに理解してくれるニノが

ありがたい。

 

なんでだろう。ニノの前では。

 

いつも心の内側を

そのまま話すことが出来るから。

 

ずっと思ってた気持ちを、

そっと口に出す。

 

「オレ元カノに対して

全然思えなかったんだよ」

 

「なにがどうなっても好きなんて

そんなこと全く思えなかった」

 

そういうオレを、

元カノはずっと見透かしてた、

たぶんきっと。

 

彼女が自分の人生設計に

オレを組み込もうとすることに

嫌気すらさしてたことを。

 

たぶんずっと、

見透かしてた気がする。

 

「上司変わったばっかで、

仕事も転換期のこの時期に

彼女のことなんて、」

 

ましてや結婚なんて。

付き合ってたはずなのに。

 

別れて半年で

別の人と結婚した元カノに

おめでとうの気持ちはあれど

なんの負の感情も沸かないなんて、

 

「オレ、ただのひでーヤツ。笑」

 

「そんなことないよ」

 

カウンターの向こう側のニノは

しっかりと強いまなざし。

 

「そのままでいんだよ。

翔ちゃんはそのままで最高だよ」

 

「ニノ、」

 

「連続来店ぶっちぎり第1位!

彼女と別れてくれたおかげで

翔ちゃん毎日店に来てくれるから

オレは最高だよ?」

 

「ふはは!なんだよ。

そういうことかよ。笑」

 

「オレやうちのバイトくんを

このまま養ってね♡

そのままでいんだよ、

金さえ落としてくれれば」

 

「ふはははは!笑」

 

「ちゃんと専用の椅子

用意しておくから。名前入りで」

 

「やめろ。それはやめてくれ」

 

”結局なにがどうなっても、

好きって気持ちは

絶対変わらないから”

 

そんな感情になること、

オレこの先あんのかな…

 

とりあえずは

深く考えないようにして今夜も、

大笑いしながら、ビールを飲む。

 

 

(初出:2019.8.7)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

【小ネタメモ】

 

翔くん主演のお話、

これまで書いてきた連載とはちょっと違う

ドラマチックな大人のラブストーリー、

そんな感じを目指してスタートしました。

翔くん×年上女性のお話です。

 

はじめて翔くんサイドに挑戦して、

ニノ×翔のやり取りを書くのが

すごく楽しかった思い出(^^)

 

このあとは翔サイドと彼女サイド、

交互の視点で進んでいきます。

 

別れてすぐ

別の人とあっさり結婚した元カノに

おめでとうの気持ちはあれど

なんの負の感情も沸かない…

 

なんとなく翔くんて

そんな感じありそうよなー、

そこはあっさりしてて欲しいなーって、

わたしの願望。笑

 

全24話です。

9月中には終われるかな。

すきま時間でまたどうぞ、

お付き合いよろしくお願いします(^^)