【妄想小説】ルビー(2) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「お、さくらさん。いらっしゃい」
 
「こんにちは」
 
”さくらさん”
 
ニノくんにそう呼ばれること、
最初は不思議な感じがしたけど
今はちょっと、嬉しいなと思う。
 
『インスタのアカウント名に、
sakuraって入ってるでしょ?
だからさくらさんでいいよね』
 
”さくら”は名前なわけじゃなくて
桜の花が好きだから
IDに入れただけなんだよって
最初に説明したけど、
いつもアカウント名のままの呼び名で
わたしを呼ぶニノくん。
 
”さくらさん”なんて
最初は恥ずかしかったけど。
 
でも今はもうわざわざ、
本当の名前を言う必要も
ないかなって思う。
 
別の名前で呼ばれるのは
普段とは違う自分みたいで
気が楽な部分あるし。
 
ニノくんのお店にいる時間は
特別に大切な、癒しの時間だし…
 
「今習い事の帰り?
この時間珍しいよね、
いつもより遅くない?」
 
カウンターの中から
ぐっと体を伸ばして
壁掛け時計を確認する
ニノくんのきれいな横顔。
 
「今日は午後からだったの。
あ、ランチまだ大丈夫?」
 
「全然大丈夫♡」
 
ぱちっとかわいいウインクが
わざとらしく飛んでくるから
思わず笑っちゃう。
 
「じゃあオムライスお願いします」
 
「西畑ーオムライス入りましたー」
 
「はーーい」
 
厨房の奥から
アルバイトくんのいい返事。
 
ランチタイムを外れた
午後の時間帯はのんびりで。
お客さんもまばらな店内。
 
ついいつものクセで
キョロキョロしながら
スーツ姿の彼を探す。
 
…この時間はもう、いないか。
 
いつもとにかく
おいしそうにランチを食べる
ニノくんと仲がいい常連さん。
 
ほっぺいっぱいにして
もぐもぐごはんを頬張る姿、
遠目から見るのを
実は密かに楽しみにしてるから、
今日は会えなくて、ちょっと残念。
 
ニノくんと話してるところ、
何度か見かけたことあるけど、
絶対モテるだろうなという感じの
さわやかさと、カッコ良さ。
 
あのルックスで、
あの雰囲気ならもう絶対、
女子がほっとかないだろうなー…
 
「はーいお待たせー。
特製オムライスでーーす」
 
「ありがとう。
うわーおいしそう!」
 
とろとろの卵、
黄色がふわっふわ。
 
「さくらさん写真撮って!
美味しそうなとこ写真撮って!
そしてインスタにあげて!」
 
「待って待って、今撮る」
 
かばんの中に手を入れて、
スマホを探してる時だった。
 
「あれ?ない」
 
「え?」
 
「忘れてきちゃったかな、」
 
さっきまでいたお教室に
記憶が引っ張られてたから
扉が開く音にも気がつかなかった。
 
「となり、いいですか?」
 
きれいな低めの声が聞こえて、
びっくりしてぱっと顔を上げたら、
 
「………、」
 
さっきまで
頭の中に浮かべてた彼が…
 
すぐ真横に、立っていた。
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
(side翔)
 
「となり、いいですか?」
 
なんでわざわざ、
いつもの席に座ろうと思ったのか。
 
遅いランチタイム、
ほとんどの席があいていたのに。
 
いつもの席じゃなきゃダメな理由は
なにもなかったのに。
 
「………、」
 
ビックリした顔で
まっすぐオレを見上げてる
目の前の彼女の真顔に、
あ、やべって急に我に返る。
 
「あ、いや、あの、」
 
そりゃそうだよな、
こんなに席あいてんのに、
いきなりとなりに座ろうとするとか
どう考えてもヤバイ奴…
 
っつーかオレ、
なんでわざわざ、
 
「ちょっと翔ちゃん?
なに?ナンパしてんの?笑」
 
「ち、違っ…!!」
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
 
「あはははは…ダメ、
もう笑いが止まんない…笑」
 
「さくらさん笑いすぎ」
 
「だってルビーの指環って。笑」
 
断じて、
ナンパではないということを
説明するために。
 
ニノがこの席を、
オレの専用席にすると、
 
ザ・ベストテンにおける
ルビーの指環12週連続第1位記念、
その椅子と同じく、
オレ専用の赤い椅子にすると、
 
ニノとそんな話をしてたからつい、
ここは自分の席だと思いこんで、
つい座ろうとしてしまったんだと。
 
早口で説明し終えたら、
さっきまで固まってた彼女が
目を細めて大笑い。
 
「ルビーの指環って、
すごい昔のヒット曲だよ?
ニノくんたち知ってるの?」
 
「知ってるよ名曲だもん。
リアルタイムじゃないけど」
 
「こないだ調べたら
81年リリースだったから
オレもニノもギリ生まれてはないね」
 
「ギリ生まれてない?」
 
「オレ83年生まれ」
 
「僕は82年の早生まれです」
 
「そっかあ…2人とも若いなー!笑」
 
「そんな変わんなくない?
さくらさんいくつよ?」
 
「それ言わなきゃダメ?笑」
 
「ちょっと上くらいでしょ?
え、意外とすげー上なの?」
 
「ちょっとっていうよりは上だよ。
81年当時は…4歳だもん」
 
「ってことは、よんじゅう、」
 
「もうそれ以上は言わないで。笑」
 
さくらさん。
 
ニノがそう呼ぶ彼女は。
すっと伸びた背筋がキレイで。
きゅっとまとめた髪がキレイで。
 
あはは、と楽しそうに笑う顔は
つられて笑いそうになるような
明るい力があって。
 
笑顔が、声が、雰囲気が、
すげーかわいいな、なんて。
 
年上の女性に、
かわいいなんて言葉、
失礼なのかもしれないけど。
 
「…あの、」
 
なんで、わざわざ。
 
なんでわざわざオレは、
そんなことを言ったのか。
 
「さくらさん僕と結婚したら
”櫻井さくら”になりますね」
 
「…………え?」
 
「僕、櫻井なんです。名前。櫻井翔」
 
「ああ…、名前、」
 
別に普通に、
自己紹介すりゃあよかったのに。
なんでオレはわざわざ、
”結婚”なんて口走ったのか。
 
「ふふ…残念」
 
小さく笑った、
彼女のくちびるが動く。
 
 
「わたしもう結婚してました。笑」
 
 
彼女がひらひらと左手を見せる。
薬指に光る結婚指輪。
 
 
彼女は既婚者だからと
この時のオレは
どこか安心していた。
 
 
彼女を好きになることは
絶対にないと。
 
彼女がオレを…
好きになるなんてことは
絶対にないと。
 
絶対なんて。
 
 
絶対に…なかったのに。
 
 
(初出:2019.8.8)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 
【小ネタメモ】
 
えええっ、えっえっえっ
さくらさん結婚してるんですかっっ
そういうお話なんですかっっ
翔くんどうなっちゃうんですかっっ!!
 
というメッセージを
当時いろいろいただいて
うふうふ楽しかったなーー♡
(いやらしい作者)
 
出会いの第2話でした。

いけたら金曜日、第3話アップします。
またどうぞよろしくお願いします。

今日も読んでくれて
ありがとうでしたー(^^)