【妄想小説】そして春の風(10) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

第10話

Sugar

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ニノの店:閉店後のカウンター

 

「明日行く旅館。ここなんだけど」

 

(潤、スマホの画面を見せる)

 

「うわ、すげーいいとこじゃん!

これはマコちゃん喜んじゃうね♪」

 

「高そーな部屋だなー」

 

「正直安くはない。笑

まあでもホワイトデーだし、

旅行ひさびさだし。ちょっと特別に」

 

「これ部屋に露天風呂ついてんの?」

 

「そうそうそう」

 

「わーまつじゅんやーらしー♪」

 

「まつじゅんやーらしー♪」

 

「は?なんだよ。いいだろ別に!笑」

 

「部屋に露天…」

 

おーちゃんも興味あんの?

ハニーと行っちゃう?」

 

「…………」

 

「ニヤついてんねー。笑」

 

「なんか想像してそう。笑

休みの日に予約しちゃえば?」

 

「それがさあ。向こう忙しそうで、

いつ誘ったらいいのか正直わかんなくて」

 

「彼女、フリーのライターだっけ」

 

「そう。なんか知んないけど

とにかくいっつも仕事してんの。

休みあんの?って思う」

 

「オレの知り合いにも

フリーでやってるデザイナーいるけど、

自覚的にちゃんと意識しないと

休みはとれないって言ってたな」

 

「大野さんちょっと、

聞きたかったんだけどさあ」

 

「?」

 

「ほんとにちゃんと、

あいつとつきあってんの?」

 

「ええ?なに急に」

 

「あいつ昨日、

”彼氏いない”って言ってたけど」

 

「えっ」

 

「ん?」

 

「なにそれなにそれ」

 

「えっどういうこと…?ええ?」

 

(智、眉間にしわ)

 

「つきあってるつもりなの、

大野さんだけなんじゃないの?」

 

「や、それはない」

 

「なんで言い切れんの」

 

「だって、」

 

「やることやってるから?」

 

「相葉さん言い方。笑」

 

「でもあいつ、

大野さんとつきあってる自覚、

全くないみたいだったけど」

 

「………」

 

「しかも昨日、

元カレから電話かかってきて、

会う約束してたし」

 

「えっ?…ええっ、なんで?」

 

「なんで今さら元カレと

わざわざ会う約束すんだろ」

 

「さあ?ヨリでも戻すんじゃねーの」

 

「ヨリ戻す…」

 

「ちょっと待ってちょっと待って。

おーちゃんはさ、”つきあおう”って

ちゃんと言ったんだよね?」

 

「言った。ちゃんと言った。

向こうも”うん”って返事したもん」

 

「それはシラフの時?」

 

(智を見つめる雅紀ニノ潤)

 

「お互いの言ってることを

ちゃんと理解できる時に、

”つきあおう”って言ったんだね?」

 

「……や、」

 

「酔ってる時に言ったんだな。笑」

 

「え!?酔ってる時なの?」

 

「大野さんまさか、

イチャついてる時ではないよね?」

 

(酔ってる時だったし、

イチャついてる時だった…の智の表情)

 

(瞬時に全てを悟る雅紀ニノ潤)

 

「でもさでもさ、始まり方はともかく、

普段から”好き”って

ちゃんと伝えてればいい話だよね?

”好き”って言ってる?おーちゃん」

 

「…や、言う?

そんなん普段から、言う?」

 

「好きだって?」

 

(うんうん頷く智)

 

「言う言う」

 

「言うよもちろん」

 

「普通は言うんじゃない?」

 

(言うんだ…の智の表情)

 

(瞬時に全てを悟る雅紀ニノ潤)

 

「言うっていうか、

意識しなくても出るよね。笑」

 

(松潤出ちゃうんだ…な智の表情)

 

「ハニーちゃん、

もう元カレと会ってんのかな」

 

「やばいよ。どうすんの大野さん」

 

「…………」

 

「今日の夜に会うって言ってたから

もしもこの時間まで一緒だったらもう…」

 

「…………」

 

ガタガタガタッ

 

(智、店を飛び出す)

 

「おっ早えー。笑」

 

「おーちゃんがんばって!!」

 

「ふっ…笑」

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

見慣れた部屋の見慣れた机、

あちこちに散乱してる紙。

 

2時間のインタビュー、

文字起こしの作業が終わって

構成の組み立てに入る。

 

『C&S』編集部在籍時に

ずっと担当してたバンドの記事、

久々のロングインタビューに、

声をかけてもらったことは

ライターとして純粋に嬉しかった。

 

恋人としては最低だったけど

その仕事ぶりは尊敬できるところが

実に厄介だった現・編集長。

 

心のどこかでいつもくすぶってた

厄介な存在の元カレだったけど。

 

”久しぶり”

 

今日会った瞬間、わかった。

 

恋愛感情はもう

きれいさっぱりなくなっていたことを。

 

薬指の指輪を見ても

気持ちはひとつも、揺れなかった。

 

”じゃあ頼むよ、インタビュー”

 

聡い彼はすぐに

わたしのココロに気がついて。

 

元恋人、としてではなく、

ひとりのライターに向かって、

仕事の話を進めてくれた。

 

すべての取材が終わって

編集部を出る時も。

 

”原稿よろしく。お疲れさん”

 

恋人同士になる前の、

ふたりの関係性に戻ってた。

 

「よしっ。やろう」

 

文字だらけの紙に向かって

ペンで囲みを入れてく。

 

こことここは残して、ここは…

 

♪Oh my sugar

好きになる理由なんていらない

 

今日インタビューした

昔なじみのバンドの、

いちばん新しい曲。

 

優しいメロディーが

ステレオからずっと流れてる。

 

♪Oh my sugar

そこにある思いを逃さないで

はかなくてもちっぽけでも

君だけのものばかり

 

「~♪」

 

タフで優しい、いい曲だな。

 

ほんのり漂うセンチメンタルが

妙に胸にグッと届いて

なんか涙が出ちゃいそう。

 

はかなくてもちっぽけでも、

思いを逃さないで、か…

 

ここにある思い。

 

大野さん。

 

大野さんに、会いたいな…

 

ピーーンポーーン

 

「誰?こんな時間に」

 

ピンポンピンポンピンポンピンポン

 

「え?なに?怖い」

 

急いで立ち上がって

玄関モニタを確認したら、

 

「…大野さん」

 

思い浮かべてた人が、

好きで好きでたまらない人が、

焦った表情で立っていて―

 

 

第10話

Sugar

 

(初出:2020.3.13)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

m(__)m

 

読んでいただき

ありがとうございます。

 

ニノのお店でのわちゃわちゃ、

書けてちょう楽しかったな(^^)


3/13金曜日のアップで、

ホワイトデーがちょうど土曜日だったので、

潤はマコちゃんと旅行に行く予定を立ててた、

という設定にしてました(^^)


次回ようやく、ふたりの誤解がとけます。

 

楽曲は、SCOOBIE DOというバンドが

2019年に出した「Sugar」という曲で。

image

はかなくてもちっぽけでも

君だけのものばかり

 

の歌詞の部分がなんか、

当時の心情にとても良く重なって

全然メジャーな曲ではないけど、

ここで使いたかったのでした。

 

残り2話です、

またどうぞよろしく願いします(^^)