【妄想小説】Summer Soldier(1) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「終わったぁ…!!」

 

ノースリーブから伸びる白い腕、

細くて長い腕を

うーん!と伸ばしたリョウ先輩が

心底幸せそうな声を出す。

 

「ほんとにお疲れー。

ニノもほんっとに!

手伝ってくれてありがとね。

助かったよー!」

 

リョウ先輩が

ニノの頭をわー!って

ワンコにするみたいに撫でるから、

 

「やめろやっ」

 

ニノの耳、赤くなってる。笑

 

ちょっと動揺してるニノが

そのままでいるはずもなく、

すかさず反撃。

 

「リョウちゃんもここまで毎日、

よくがんばりましたねー?」

 

小首をかしげたニノが

ぐっと顔を近づけて

”リョウちゃん”呼びするから

今度は先輩の耳が少し赤くなる。

 

「だからちゃん付けで呼ぶのやめて。

わたし先輩だからね?」

 

「あれ?

リョウちゃん赤くなってる?

かわいいかわいいー笑」

 

「バカ!ニノのバカ!やめて」

 

小競り合ってる二人を見ながら

ふふふと笑みが漏れる。

 

〆切ギリギリの仕事、

無事片づけた安堵感で、

わたしもうーん!と伸び。

 

ああ…

日焼け止め塗ってるはずなのに

腕、通勤焼けしちゃってる。

 

凹むなぁ。

 

リョウ先輩、

色白くてうらやましい…

 

「毎日寝不足だったけど、

先輩から貰ったパックのおかげで、

お肌ツルツルです」

 

「でしょー?あのパック、

すごい効くでしょ」

 

「え?

お前パックなんてすんの?」

 

失礼なニノの

失礼なツッコミ。

無視無視。

 

「でも全然、

色は白くならないです。

リョウ先輩白くてうらやましい」

 

「体質なんだよね。

なんか赤くなっちゃうだけで、

全然焼けなくて」

 

体質…

ますますうらやましい…

 

「でも美白は継続よ継続ー。

また新たしいパック、二人で試そ?」

 

ふふふ、と

笑う顔がかわいくて。

 

パック、二人で試そうって

言ってもらえたのも嬉しくて。

 

仕事でもリョウ先輩の

役に立てたの嬉しくて、

 

疲れてはいるけど、

気分はスッキリ。

 

そんなわたしとは対照的に。

 

「マジで疲れたー」

 

でろーんとなってるニノ。

 

「私たち3人で、

5人分は働いたよね?」

 

「5人分どころじゃねーわ。

7人分はあったわ」

 

「7人分もあった?笑」

 

「あったよあったよ。

部長なんでもかんでも

リョウちゃんに振りすぎ。

そしてリョウちゃん引き受けすぎ」

 

「んーごめん!」

 

わかってる。

 

ほんとは

わたしもニノもわかってる。

 

リョウ先輩は

うちの部署のエースだから。

ご指名で受ける仕事も多いこと。

 

わたしも早くちゃんと

一人前にならないとな…

 

「今日は3人で、

おいしいもの食べにいこ?

そして飲み倒そ?おごるおごるー!」

 

リョウ先輩が

大きな目をくるくるさせて

わたしの顔をのぞき込む。

 

きれいな笑顔に

まじまじと見つめられると緊張。

先輩ってばほんとに美人…

 

「リョウちゃんの

”飲み倒そう”マジで怖えーよ。

マジで倒される」

 

「飲みに行くのひさびさだね?

楽しみー!」

 

はつらつとした笑顔。

キレイなリョウ先輩の、

キレイな笑顔は、

明るい声は。

 

わたしの憧れ。

わたしの理想。

 

リョウ先輩みたいになれたらな…

 

いつもいつも、

そう思って。

 

特別に仲よくしてもらえるのも

すごくすごく、嬉しくて。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

すでに人であふれてる

社員食堂でニノと向かい合う。

 

「いただきまーす」

 

今日のランチは

生姜焼き定食。おいしそう。

 

「お前飯食えんの?

すげーな。笑」

 

コーヒーの入った

紙カップだけを持ったニノの

真っ白い顔。

 

「オレもう朝から気持ち悪くて」

 

「ははは。

ニノ二日酔い?笑」

 

「お前もリョウちゃんも酒強すぎ。

ぜんっぜん可愛げがねーよ」

 

ふーふーしながら

コーヒーを飲むニノの

憎たらしい顔が

憎たらしい言葉を続ける。

 

「まあリョウちゃんは

かわいいけど」

 

「なにそれー。笑」

 

「今朝もすげー美人だったけど」

 

いつものニノの軽口を聞きながら、

生姜焼きを一枚、ぱくっ。

 

「ねえ、ニノって、」


「なに」

 

「ニノって、」

 

ずっとずっと、

聞いてみたかったこと。

 

「もしかして、

リョウ先輩のこと好き?」

 

思い切って聞いてみたわたしの顔、

まっすぐ見てる薄茶色の瞳。

 

きっとはぐらかすだろうな、

そう思ってたのに。

 

「好きだけど?」

 

「…うーわーっ」

 

「なによ、うーわーって」

 

”好き”なんて言葉

正面切って言われて

なんだか照れくさくなったのに

ニノは全然、余裕の表情。

 

そっか。

やっぱりニノは好きなんだ。

 

「でも、」

 

でも、リョウ先輩には。

 

 

「リョウ先輩、彼氏いるよ?」

 

 

残酷かな、と思いつつ、

事実を告げるわたしに、

表情ひとつかわらない

ニノの薄いくちびるが動く。

 

「知ってる」

 

「え?知ってるの?」

 

「知ってるよ。当たり前でしょ。

お前より長いんだから」

 

まあ、そうか。

春に異動してきたわたしとニノでは

1年の差があるから当然か…

 

「そういう話…

リョウ先輩とするの?」

 

「そういう話?

彼氏の話ってこと?」

 

こくん、と頷くわたしに

ちょっと真剣な表情のニノ。

 

「直接はしたことない。

リョウちゃん自分からは

絶対言わないし」

 

「だよねー。

わたしも詳しく聞いたことないもん」

 

リョウ先輩は

いろんな話、してくれるけど。

すごく仲良くしてくれるけど。

 

彼氏の話になると

いつも曖昧に話をそらしちゃう

キレイな横顔を思い出す。

 

お味噌汁をひと口。

ああ、あったかくておいしい。

沁みる…

 

「どんな人なんだろうね、彼氏」

 

「後ろ姿なら見たことあるよ」

 

「え?そうなの?」

 

「1回会社のエントランスまで

迎えに来たことあって、そん時」

 

「リョウちゃん人気あるからさ、

”彼氏ってどんな奴だ”ってみんな、

すげー興味津々で、」

 

「どんな人?どんな人?」

 

わたしも完全に

興味津々で聞いちゃってから、

 

あ、無神経だったかなって

思ったけど。

たいして気にしてない風のニノに

安心する。

 

「どんな人…まあ、普通」

 

「普通、」

 

「普通に、カッコイイ感じの」

 

「そっか。そうだよねー。

リョウ先輩の彼氏だもん」

 

言ってからまた、

これも無神経だったかなと思いつつ、

チラッとみたニノの表情は

さっきと全然変わらないから。

安心して白いごはんを、ぱくっ。

 

ぱくっと食べたついでに、

やっぱり思ってることが

口をついて出る。

 

「彼氏いるの知ってるのに、

ずっと好きなの?」

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

ざわついてる食堂の声に紛れて

つい興味が止まらない。

 

「好きだよ?」

 

当然でしょとでも言いたげな

ニノの顔。

 

「ふーん…」

 

「こいつ不毛だなーとか

思ってんだろ」

 

「え?」

 

「叶わないのに不毛だなって

思ってんだろ?笑」

 

なんでわかるの、って

顔しちゃってたと思う。

 

わたしの感情を

見透かしたみたいなニノが

ふは、と渇いた笑い。

 

ゆっくりとまばたきをひとつ。

 

その横顔は、その瞳は。

 

すごくすごく儚いのに。

 

どこか強くて。

一瞬ドキンとする。

 

「彼氏がいても、

不毛でもなんでも、」

 

「好きなもんは好き」

 

憂いを帯びた横顔だけど。

 

はっきりと、

しっかりとした声。

 

「しょうがないでしょ。

すげー好きなんだから」
 
そっかそんなに
リョウ先輩のこと…
 
不毛だなんて思ったこと、
申し訳ない気持ちになる。
 
「いいな」
 
「は?」
 
「ニノがうらやましい」
 
「なんだよそれ。笑」
 
「わたしも恋したーい」
 
「…ふっ。笑」
 
ガヤガヤしてる社員食堂、
わたしとニノの発する言葉が
浮かんで、消えてく。

 
「夏が来るねー…」
 
恋がしたいな、なんて
ふわふわした気持ち。
 
いつかわたしも、
胸を焦がすような、
恋がしてみたいなって。
 
この時のわたしはただただ。
ただただそう…思ってたんだ。
 
 
(初出:2017.8.1)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
m(_ _ )m
 
読んでいただき、
ありがとうございました。
 
今回はこんな感じです。
大丈夫ですかね??
 
いろいろ不穏な雰囲気ですが、
最終的にはちゃんと…
ってまだ肝心の主役が!
出てきてない!笑
 
翔さん出てこないままはなんなんで、
早々に第2話更新します。
出来れば明日には。
 
お付き合いいただけましたら、
どうぞよろしくお願いしまっす。
 
【20210117小ネタメモ】
 
全9話、
翔くんで書いた初めての連載です。
ここから、毎年夏は翔くんの連載を書く、
っていう自分ルールが始まったのでした。
思いっきり夏のお話ですが、
楽しんでいただけたらこれ幸いですm(__)m