


かつてあった「東京」という名の町。少年身毒丸は、幼い頃に死んだ母を恋しく思い、その姿を求めて今日も町を彷徨っていた。父親は家とは父、母、子供があってはじめて成り立つものだという理念に則り、母を売る店で新しい母を買うことにする。その店にはかつて旅芸人をしていた撫子という女がいた。身毒丸と撫子の目が合った瞬間、父が彼女を母に選んだ。
「家」という容れ物ができて、その中に家族が入り理想の「家」が出来上がる。しかし身毒丸は撫子のことを母とは認められず反抗的な態度をとる。撫子は、子供に馴染んでもらえないうえ、夫には自分を女性としてではなく、家を構成する母という役割でしか見てもらえないため、自分の身の置き所に苦しんでいた。
撫子が家に来て半年が過ぎたが、身毒丸の撫子に対する反抗は留まることを知らない。追いつめられた撫子はついに、身毒丸を折檻する。堪らず逃げ出した身毒丸は、奇妙な仮面売りに出会う。彼のもっていた不思議な穴を使って、亡き母のいる地下世界へ向かう。
地獄を彷徨って、やっと出会えたと思った母は、撫子だった。そして、更に2年が経過したが、身毒丸の気持ちは変わらず、父をも苛立たせる。身毒丸と、自分がひとつの家にいると家は地獄になる身毒丸の視線を恐れた撫子は身毒丸の目を潰す。身毒丸は行方不明になる。
父、撫子、連れ子のせんさくという3人による家が成立した頃、盲目となった身毒丸が突如かえってきてせんさくを汚す。家は崩壊し、父は狂う。廃墟となった家で、身毒丸と撫子はついに、男と女として互いを認め合い、未知なる地平の道行きとなる。
