
サズ(Saz)は、イラン・トルコ・バルカン半島諸国で一般的な、長いネックを持つリュート属の撥弦楽器である。ブズーキと同様に古代ギリシアのパンドゥーラの子孫の1つで、主にトルコ国民音楽で用いられる。同族の楽器にブルガリアのタンブーラ、クロアチアのタンブリッツァがある。
伝説では馬の頭蓋骨にタテガミが絡みついて風に鳴っていたことから考案された楽器とされ、その胴は馬の頭蓋骨に似ている。ただ、弦は馬の毛ではなくスチール製のものが使用される。サウンドホールは、ギターのように胴体表面ではなく、下面(サズを立てたときに床に接する部分)にある。胴は、一本の木をくりぬいて作られるものと、板を張り合わせて作られるものがある。後者の方が一般的。
弦の数は6本ないし7本で、2本ずつ(一部3本)の複弦構成。ギター同様、構えたときに下にくる側に高音弦、顔に近い方に低音弦を張る。複弦を構成する2本(一部3本)を総称してコースと呼ぶ。つまり、サズは3コース6弦、あるいは 3コース7弦の弦楽器ということになる。3コース7弦のサズの場合、1コースのみ3弦で、2コース、3コースは2弦からなる。同一コースの弦は同じ音に調弦する。ただし、1コースと3コースの弦のうち、構えたときに上にくる側の1本は同一コースの他の弦よりオクターブ低くチューニングされ、巻弦が使われることが多い。
演奏にはプラスチック製のピックが使われる。ピックは長さ3cm程度の細長い形をしており、一般にギターで使われるものより柔らかい。
サズの音楽は通例トルコ国民音楽と呼びならわされるが、実質的にはトルコ民謡と考えてよい。ただ、その「民謡」はすでに成長を止めた音楽ではなく、高齢者だけの音楽でもなく、生活の中に身近に存在する音楽である。その意味で、沖縄民謡と三線に似ている。また、サズは古来アシュクと呼ばれる吟遊詩人によっても担われてきた。この点では琵琶と共通点がある。