さてさて今回もとっても甘い着香煙草の紹介である。
かなり前から見る銘柄なので、固定ファンが付いているのだろう。これもまた独特の風味を持っているので他に代えが利かない。常喫している人には無くなって欲しくない煙草なのだろう。
10年以上前に一度だけ買い、今回は2度目の購入になる。前回の印象としてはベタベタの着香で煙草としての味わいに欠け、あまり高級感はない印象だった。今回改めて吸ってみようと思ったのは、1500円前後のパウチものとしてある種の郷愁に似た感傷に浸れるのではないか?と、最近は少しパイプ煙草というものを嗜み始めた20代前半に、脳がシフトしているせいなのかも知れない。
メシャムのファルコン・ボウルにたっぷり詰めてみる。
黒い葉が目立つがパッケージの記述にはブラック・キャベンディッシュの記述はない。明るめのリボンカットがヴァージニアだろうか?いずれにせよ、無着香では味わえない葉だという事だ。
ティン・ノートは強烈な着香系で、記述にはエキゾチック・フルーツとフレンチ・バニラとあるが、これはそう、明治屋のいちごシロップ。かき氷にたっぷりかける、あの人工的なベッタリとした駄菓子屋っぽい甘い香り。
着火後は何とも味気ない。ルーム・ノートは概ね甘ったるいベリー系の香りだが、軽快さはなく、重たい。確かにブラキャベのようなキャラメルの苦味はなく、ニコチンの度合いも低い感じだ。ただ、不思議なことに妙にヤニ臭い。葉巻っぽいと言った方が正しいかも知れない。
この製造元であるスカンジナビアン・タバコはボルクム・リーフやキャプテン・ブラック、オルスボ、ラールセンなどが代表的だが、デンマークの伝統的着香と言えるのは凡そラールセンだけで、芳醇なブラック・キャベンディッシュを期待してこのメロウ・ブリーズを買うのは間違いだろう。
とは言え、この明治屋のいちごシロップはなかなかに癖になる。他に類を見ないという点に於いてのみ言えば、廃盤になってしまうのは惜しいと考えるパイプ・スモーカーも居るに違いない。
そういうパイプ・スモーカーはどんな人物だろうか?ヴァージニアやラタキアには馴染めず、アメリカン・オールド・スクールにも興味はない。1960年代から70年代にかけてデニッシュ・ハンドメイドの洗礼を受けるが馴染めず、日常にあるのはブッショカンのビリヤード。飛鳥より桃山よりプロムナードというタイプか?
とにかく、パイプ・スモーカーは色々である。
今やこのメロウ・ブリーズを旨いというパイプ・スモーカーは些か視野が狭いと言えるだろう。世界には未だ知らぬ芳しき煙草がいくらでもあるのだ。
にも関わらず、この煙草には昭和的な懐かしさがある。どんなに様々なパイプ煙草が輸入されるようになっても、ハーフ&ハーフしか吸わないという人もいる。アンフォーラさえあれば良いという人がいる。
この煙草についても実存的存在意義がある。
「メロウ・ブリーズさえあればそれで良い」
ここに、真実のパイプ・スモーカーたる在り方を見る。
そんな早春の午後であった。