間違いだらけ~メーカー概論…Fujigen編 | Honolulu Music Society byなかじー

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出自は日本生まれの日本育ち。
米国籍を取得してハワイに在住する音楽家であり実業家。3児の父。

今までの日本人には発想出来なかった独自の視点と解釈を元に展開されるちょっとだけ凄いブログ。
更新不定期。

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およそエレキギターを弾く人間、


またはギタービジネスに携わる人間で、


Fujigenの事をして『高く評価はしないよ』という人は極めて少ないでしょう。


むしろ『コレはFujigen製だからいいギター』と(弾いたこともないのに)手放しで褒める声さえ上がる。


そう、ある意味に於いて日本の『エレキギターメーカー』としての最高の地位と名誉を実力(?)で獲得している唯一のエレキメーカー(製造業社)がFujigenであるのかもしれません。


Fujigenの栄光の歴史というのは既にどこかで誰かがイヤと言う程に語ってくれていると思いますので、僕から敢えてここでそれらを被せてお伝えしなければならない事は無いと思います。
(それだけ一般的な評価がかなり高いと、いう証ではあるんですけどね。)

では、数多のギターメーカーがありながら、ほぼ独り勝ちをするかのようにFujigenが数々の名声を勝ち得ているのは何故なのでしょう?

そしてかくも評価の高いFujigenのこれからとは一体どうなっていくのでしょうか?

これらを読み解く上で敢えて不遜な言い方をするのであれば、

Fujigenがかくも高い評価を得ている事実の裏付けとなるのは、

やはり顧客(この場合はFender、Ibanezなどの製造を委託した側)の要求に対して極めて謙虚であったからではないでしょうか。

そう、誤解を恐れずに真実だけを選りすぐって言えば、Fujigenというのは昔は単なる下請けメーカーの1つでした。

ゆえにFujigenの直接的な顧客というのは、我々ギタリストやギター愛好家ではなかったわけです。

そう、フジゲンにとっての顧客とは神田商会を筆頭とする『ギター卸』の業者さんだったわけです。

ギター卸の業者さんというのは楽器店にギターを卸す業者さんのことで、彼らの顧客というのは楽器店さんという事になる。

つまり、楽器店さんが仕入れてくれる製品を企画してそれをメーカーに発注、出来上がって来た製品を楽器店が仕入れてくれれば卸の業者の売り上げが立つというのが業界の仕組み。

つまり楽器店にとっての顧客が一般のギター消費者であり、
ギター卸にとっての顧客が楽器店であり、
ギターメーカーにとっての顧客がギター卸という事になる。

つまりギターメーカーというのはそもそも消費者に向けて製品造りをしているわけではないという事実を見ないと我々はギターメーカーというものを正しく認識出来ないんですね。


60年代には僅かに自社ブランドを持ってはいたものの『フジゲン』という自社名を明確に打ち出したのは90年代に入って中頃になってからの事です。

要はエレキギター界の好事家の間で、

『◯◯年代のグレコは造りがいいよね、実はアレはフジゲンがやっていたらしいよ』などと喧伝され始めてから、Fujigenというメーカーブランドバリューが上がり、それによって90年代に入ってからようやく自社ブランドを冠した製品をリリースし始めたってだけで、メーカーとしての歴史の大半というのは純粋に下請けとしての歴史であるわけです。

折しも90年代とはFujigenにとっての大得意先である神田商会さんがグレコブランドの製品の製造先を大半を韓国に移転させた時でもあり、そこにあったのはおそらく『多少の品質低下は看過するからとにかく安く作れ』というミッションだっただろうと推測します。

当然の事ながらFujigenとてその頃には企業としてそれなりの成長もした中『Fujigen製品いいよね』という好評も得た頃のことゆえ、ギター卸の業者の求めるコストダウン(利益率の圧迫)には易々応ずる事は困難と見たはずです。

その頃にFujigen関係者は新たな自社ブランドの商品ラインナップを構築する必要に迫られたがゆえのHertfieldやAnboy Fujigenブランドの展開だったのだろうと思われます。

また、自社ブランド展開以前には他社ブランドの製品を下請けとして秘密裏に製造するミッションも受けていたはずで(YAMAHAのSG上位機種など)そうした下請けとはよくOEMと言われたりしていますが、その最低限の決まりごとというのは基本的にクライアントから与えられたオーダーに含まれる基本的な設計、細部のデザイン、使用材の指定や加工賃等々を指定された予算と納期の範囲で決められた数量を洩らさず納品する事です。

そうして数々のプロダクトに含まれる『オーダー』を誤魔化さずにやる。

この積み重ねを地道にやってきたという事以外にはFujigenという企業の価値は当時は無かったのでは、と思います。

ちなみに荒井貿易さんによるAria pro2ブランドに於いて、或いはアメリカのEpiphoneブランドに於いて一時期韓国製(Samick)の製品が出回りましたがカタログスペックとしてマホガニーネックと表記されているのに明らかにメイプルネックだったり、マホガニーボディと記されていても実態はアルダーが使用されているようなデタラメが罷り通った事があります。

そういうデタラメはフジゲンはやらなかったという印象です。


そうした『オーダー』の志が高ければ高いほど相対的に依頼された成果である商品の魅力は高まった事でしょう。

つまり、唐突に乱暴な言い方をすれば『運が良かっただけ』であるとも言えるのかも知れません。


なぜならば、

どのようなブランドの仕事を手掛けている時も、Fujigenは常に依頼主とそのオーダーの内容を選べない立場にあったはずだからなのです。

グレコにせよ、アイバニーズにせよ、フェンダージャパンにしろ、YAMAHAにしろ、

売れる商品を企画したり、開発したり、宣伝をしたり、販路を切り拓く能力の高いギター卸を筆頭とするクライアントからのオーダーと巡り会えたからこそ、その製品は売れた。

やがてはそこに携わったFujigenも神格化された。
そんなふうに運良く『売れたプロダクト』に関われたから良かったようなものの、

コレでロクに売れない企画しか出せないクライアントとばかり組んでいたらおそらく今のFujigenなど跡形も残っていなかったでしょう。

それは喩えて言うなら、

どんなに歌唱力のある歌手でも全く楽曲に恵まれなければ偉大な歌手にはなれないのと同じ、と言えるかもしれません。

しかしながら、そうした良きクライアントとの巡り合わせを手繰り寄せたのも、小さなひとつひとつの仕事を着実にこなして来たからでしょうし、

質の高いオーダーに巡り会える運というのもまた実力のうちとも言えなくはありません。


現在のFujigenは、Ibanezと自社オリジナル製品と大手楽器店Private Brand(以下、PB)を展開するのがその主な活躍の場となっています。

しかしながら、個人的には『それでいいんですか?』という見方をしています。

正直な話をすれば今後Fujigenが本当に生き残る為には幾つかの事柄に注意せねばなりません。

Fujigenという会社にどれだけ将来性があるのか?というのを冷静に見た時、『保って10年』となかじーは読んでいます。

ひとつには大手楽器店のPB製品は販路の確保と言う点では必要なのかも知れませんが、けしてそれによってFujigenのバリューが上がっているとは決して言えません。

むしろ楽器店側がFujigenのバリューを生かしてビジネスをしているだけに見えます。

なぜなら、

Fujigen製造による大手楽器店のPB製品が中古の楽器マーケットで安く叩き売られているのが現状だからです。

大手楽器店のPB製品をやるなら、あくまでプレミアムな価格帯のみのオリジナルデザインの製品に限定すべきしょう。

それと同時に一度は脱却したはずのコピー商法を再び幕引きする必要があるでしょう。

コピー商品は確かに日本ではなんの努力もなくリスクもなく売れる商材なのかもしれません。

しかし、コピー商品というのは麻薬と同じという事に早く気づかなくてはダメです。

日本国内のマーケットに固執すれば確かにコピー商品は売れるでしょうし、そこに依存するぼど、いずれFujigenの輝きは喪われるだろうと僕は確信しています。

やはり日本というのは、ことエレキギターという物を重用するロックの世界を見てもわかるように、真似っこ文化しか育っていないわけです。

真似っこ文化が良いか悪いかをこの場で語るのは別として、

少なくともオリジナリティが尊重されない社会では偉大なオリジナルが産まれようがないのが史実なわけです。

未だにコピー商品をやめないメーカーの中には、もしかしたらエレキギターという商品が既にある程度完成された物なのだという諦めに近い認識が支配的かもしれません。

しかし実際は全くそんな事はありません。海外のマイナーなギターメーカーなどを細かく探ってみると、恐ろしく個性的な製品造りをしているところがゴマンとあります。

そして、そうしたメーカーがあるのはアメリカなんですよ。

イギリスに、フランスに、ドイツに、ギターメーカーがいくつありますか?

真似っこ文化しかない日本と比較しても殆ど無いに等しいです。

つまり、Fujigenが生き残るのはアメリカなんですよ。

ギターという楽器をエレクトリックにしたのもソリッドボディにしたのも全てはアメリカなんです。

アメリカでは今でも続々とGibsonやFenderとは全く違う文脈で個性的なギターが産まれています。

そしてそれらを受け入れるマーケットがアメリカにはあります。

アメリカではコンビニにだってスーパーマーケットにだってギター雑誌があります。

スーパーマーケットって事で言えば、

アメリカで有名なスーパーマーケットのターゲットにはおもちゃではない本物の子供用のエレキギターもアコースティックギターもドラムセットやPAすらも売ってるんですよ。


エレキギターもロックもアメリカの発明ですからそんなのは当たり前なんですよ。

コピー商品ばかりありがたがる日本とは音楽における文化水準が全く違うんです。


Fujigenさんはもっとアメリカに目を向けてください。

出来たらアメリカに現地法人を構えてみるのも良いと思います。

アメリカで通用する人材の確保、育成が鍵です。

ただし、

サークル状にフレットを打てるなんてのは発想的にはガラパコスでしかありません。

フレットというのは明確に消耗品ですよ。

本気で毎日弾き込んだらものの1〜2年で擦り減って来る。

よく、フレットが減るまで弾くような人は居ないという意見もあります。

しかしながら、フレット1つ減らないようなギターの弾き方しかしていないとしたら、その人は何年経とうが決して上手くなんかならない。

もしもFujigenさんが『うちの製品を買う人はそこまでギターを弾き込まない』と思っているなら、それは『うちの製品を買う人は上手くなる気なんかないよ』と認識しているのに限りなく等しいかもしれません。

普通に毎日ギターを引いているとしたら5年も弾き込んだらいつも押弦しているポジションのフレットはガタガタですよ。

それが普通です。

それを擦り合わせるにも、打ち替えるにも、その際に指板がささくれないように、あるいはバインディングに余計な傷をつけないように作業するには多額の工賃が発生するのは目に見えています。

修理を依頼される側だって特別な工具や治具を必要としますし、時間や手間がかかる作業ならそのリペアマンの時給換算分の作業コストだって上乗せしないと商売にならない。

ましてや失敗したら取り返しがつかないからやりたがらないのが当たり前です。

つまりサークルフレッティングが施されたギターは長く使われる事にはならない。

中古で格安で売り払われるのが席の山になるだろうという事です。

クルマなんかでも同じなんですが、

中古のマーケットで安値で叩き売られる製品しか作れないメーカーは新車もまた売れないんです。

なぜか。

リセールバリューが低いとせっかく新品で買う時に大枚はたいても売るときに二束三文なら買うのを躊躇するのが普通の感覚だからです。

もっと切実な喩えをすると、

中古のクルマでタイミングベルトを交換していなくて、走行距離が9万キロ以上のクルマが安く買い叩かれるのと同じです。

普通に使うだけなのに先々メンテナンスに余計なお金と時間がかかるモノは誰も欲しがらない、という事です。

そうした理屈で中古品の相場が値崩れすれば新品だって高くは売れない。

サークルフレットの付いたギターの価値が高騰するような未来はまず来ないと断言します。

もっと画期的なフレッティングのシステムはいずれやがて必ずアメリカから出てくるでしょうし、なんなら楽器としての良し悪しにサークルフレットは無関係にシーンは進むはずです。

何故なら、サークルフレットの採用されたエレキギターで今までに世紀の名曲たる作品は生み出されていないからです。

ギターというのは楽曲を成立させる為にこそあるし、楽曲に活かされて始めて価値を見出して貰えるモノです。

その事実だけが楽器としての価値を産むのであって、サークルフレットが楽器としての価値を産んだり高めてくれるわけじゃない。

日本でしか通用しないノウハウに固執しては世界では負けてしまうわけで、いつまでもサークルフレッティングなんかに固執しては駄目なんだとフジゲンさんはそろそろ気づかなくてはダメでしょう。

Fujigenさんが作っているのは楽器です。 

ギターの形をしたコスプレグッズではないわけですよね?(かつてはそうだったにせよ)

であるなら、この先20年、30年先まできちんと適価でどんな国や環境下でも充分なメンテナンスが行き届くようなものを作らないと、ダメです。

『Fujigenクオリティ』とやらを掲げてモノ造りをする以前、に最低限の問題としてメンテナンスに余計な金と手間が掛かるようなものは作ってはダメです。

日本企業でトヨタ自動車が世界中で信頼されるのは、何かに特化した技術にこだわるのではなくて、壊れにくくて修理が容易だからです。

それが判るような体制が今のFujigenにあるか?

それは甚だ疑問です。

まぁ、それがわかっていたらサークルフレッティングなんかサッサとやめているでしょう。

頑張っていただきたいものです。