作品は誰のものか? | meaw222のブログ

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映画・ドラマの部屋

 

「セクシー田中さん」を巡る論争は、日を増すごとに広範囲に広がっています。

そして、最近では、脚本家対原作者の対立といった方向で語られることが多くなっています。

 

たしかに、一つの事でも見方を変えると全く違う解釈がされてしまうのは、仕方のない事であると思いますし、当然の事であると理解しています。

 

しかし、この問題の本質は、突き詰めていくとメディアミックスにおける「作品」は誰の為に存在しているのかという事であると思います。

 

それを考える前に、このメディアミックス成功例について書きたいと思います。

 

 重版出来(じゅうはんしゅったい)

メディアミックスの成功例とし、まず思いつくのが漫画家・松田奈緒子さんによる「重版出来(じゅうはんしゅったい)」です。

 

この漫画は、小学館の『月刊!スピリッツ』にて2012年11月号から2023年8月号まで連載され、コミックスでは全20巻が販売されています。

 

この漫画を原作として生み出されたのが、テレビドラマ「重版出来!」です。

このドラマは、2016年4月12日から6月14日まで毎週火曜日22時台のTBS系火曜ドラマ枠にて放送されています。

主演は、このドラマが初主演の黒木華さん、副編集長役としてオダギリジョーさん、そして、ムロツヨシさんが第1話に出演してます。

 

(Huluで視聴可能となっています。)

 

漫画を原作としたドラマの多くが登場人物の設定などに改変が加えられて別作品と化すことが多い中、本作は原作のストーリーを比較的忠実に再現されています。

 

幼いころから柔道一筋でオリンピック日本代表の呼び声も高かったが、怪我がもとで選手生命を絶たれた主人公・黒沢心。柔道を諦め就職を決意します。かつて自分がそうであったように、読者が“何か”を得るような「漫画」を作りたいと熱意を語り、出版社に採用されます。

そして「週刊バイブス」の新人編集者として、黒沢心が味わう漫画リアル奮戦記が繰り広げらます。編集者から書店員までのチームで漫画を仕掛ける戦略、矜持、涙、興奮…。

 

この漫画「重版出来!」の中心的なテーマが、柔道の創始者である嘉納治五郎の「精力善用、自他共栄」でした。この言葉は、漫画幾度となく形を変えて描かれており、漫画という作品は、漫画家だけでなくその周りにいる編集者等など作品を世に出す人の善意の協力が必要であること、そして、編集者とは?漫画の存在理由?が中心となって描かれています。

 

これは、ドラマの中でも、芯としてちゃんと描かれています。

 

 脚本家 野木亜紀子

 

この漫画「重版出来!」をテレビドラマ化するために脚本を書いたのが、脚本家の野木 亜紀子(のぎ あきこ)さんです。

 

野木さんは、学生時代から演劇を目指しますが、自分の演技の能力に限界を感じて、映画監督を目指して日本映画学校に進学し、その後ドキュメンタリー制作会社に就職し、取材やインタビューを手がけていたそうです。

 

しかし、現場での仕事が自分に向いていことを自覚し、映像関連業界に関わる最後の目標として脚本家を目指します。

 

フジテレビヤングシナリオ大賞に6年にわたって応募を続け、36歳の時に『さよならロビンソンクルーソー』で2010年第22回同賞大賞を受賞、そのドラマ化作品で脚本家デビューを果たします。

 

その後、野木さんは、実写版映画『図書館戦争』シリーズ、映画『俺物語!!』(2015年)、『アイアムアヒーロー』(2016年)やテレビドラマ『空飛ぶ広報室』(2013年)、『掟上今日子の備忘録』(2015年)、『重版出来!』(2016年)、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年・2021年)など、漫画・小説を原作とする実写映像化作品の脚本を多く手掛けます。

 

また、『重版出来!』で演出を担当した土井裕泰さんの強い薦めでオリジナル作品に挑戦するようになり、以降2018年には『アンナチュラル』、『フェイクニュース』『コタキ兄弟と四苦八苦』、『MIU404』といったオリジナル脚本作品を執筆し好評を得ます。

 

野木さんは、原作ファンの批判の対象となりがちな漫画・小説の実写映像化において、原作オリジナルのエピソードに独自のエピソードも適切に加えつつ原作の魅力を損なうことなく実写映像化作品としてまとめ上げる手腕が高いと評価を得ています。

 

 アンナチュラル

 

(Huluで視聴可能となっています。)

 

その野木さんのオリジナル脚本作品として有名なのがドラマ「アンナチュラル」で、石原さとみさん演じる法医学者である主人公『三澄ミコト』が、UDIラボ(不自然死究明研究所)で、不自然な死の裏に隠された真実を解剖を通して追及していく法医学ミステリードラマとなっています。

 

この「アンナチュラル」の魅力は、何といっても登場人物とそれを演じる役者です。役者と登場人物の双方の魅力が合わさり、相乗効果でこのドラマを素晴らしいものにしています。石原さとみさん演ずるミコトは、良い意味でこれまでの石原さんのイメージを覆し、役者石原さとみを更に高みへと押し上げています。また、「クソが!」と悪態をつく中堂役の井浦新さんは、今までの温厚で理性的なイメージとは別人です。市川実日子さん演じる東海林は、そんな強烈な個性をもつ主人公たちを上手く結びつける接着剤の役目を果たしています。

 

そして、このドラマは、法医学ミステリードラマでありながら、社会の問題に鋭く切り込み、ドラマの中で、登場人物に語らせるセリフはどれも絶品です。毎回、心に刺さる内容となっています。結果、脚本よし、役者よし、演出よしの十年に一度の割合でしか見ることの出来ない「神ドラマ」となっています。

 

オリジナル脚本でもこれだけの能力を持っているからこそ、原作のあるドラマでも、原作の魅力を損なわずに原作に忠実でありながら、脚本家・野木 亜紀子さんの存在感もあるドラマを作り上げことができるのだと思います。

 

この様に、野木さんは、原作を尊重せずに脚本家自身の都合で改悪する「原作クラッシャー」とは「対」をなす存在です。

そして、「セクシー田中さん」の事件以来、「原作クラッシャー」が語ってきた言い訳が、能力不足によるただの泣き言でしかないことを証明しています。(オリジナル脚本が採用されないので、原作に自分のスタイルを当てはめてクリエーターとしての矜持を示した等々)

 

やはり、この様に原作を尊重するには、原作者と向き合う必要があり、原作者と脚本家が対立するのではなく、お互いの信頼関係でドラマは作られるべきです。

 

今回の悲しい結末についても、野木さんは心を痛めておりXで次の様に言っています。

 

 

この他にも、野木さんがXで言っている通りに、最大の問題は、制作者側と原作者との関係が、プロデューサー一人が担っていること、そしてシステムとしてこのような立場の違いを解消する場が設けられていないことだと思います。

 

最後に、「作品は誰のものか?」ですが、これは、「重版出来!」の中でも語られていますが、作品は「読者、ファン、視聴者」の為のものです。

 

この事を、すべての関係者が共有していれば、今回の悲劇を防止することが出来たのではと思われます。

裏を返せば、今回の悲劇は、これが共有されずに原作者が、自分の読者の為に、一人で組織と戦い、漫画の連載の締め切りに追われ精神的にも追い詰められた先の結果であったと思います。

 

つまり、今回の事は、ただ単に担当プロデューサーや担当脚本家だけの責任ではなく、ドラマを制作した日本テレビが、営利会社として広告スポンサーやドラマ関係者、関係芸能事務所などのステークホルダーばかりに関心がいくことにより、根本であるドラマの存在理由である「作品は誰のものか」を忘れてしまったことであることは明白であると思います。

 

脚本家と原作者の言い争いはもう聞きたくもなく、いち早く、関係放送局並びに関係出版社の、ドラマや出版物の真の持ち主に対して、真摯な説明がなされることを願います。

 

因みに、この漫画「重版出来」は、韓国でリメイク(題名:今日のウェブトーン)されており、設定等は2022年当時のものに置き換えられ、若干の登場人物の改変は在りますが、原作の芯となる部分は残されており、主人公に「社内お見合い」のキム・セジュン他、チェ・ダニエル、ナム・ユンスが出演しており、面白いドラマへと生まれ変わっています。

 

 

一方、「アンナチュラル」も韓国でリメイクされるとの噂がありますが、こちらはまだ、実現していない様です。