タケルは河に飛び込んだ気がするが、気がついたら国道沿いを歩いていた。松木はぼーっと歩くタケルを見つけて保護した と、マクドナルドで朝マックを食べながら口裏を合わせた。タケルはパンケーキのジャムの入れ物をペロッと舐めながら コクっと頷いた。子供だけれど自分の置かれた状況を良く理解している。マルシチのこともじっと観察していて、「ロボット?」と聞いていた。マルシチは『アンドロイド!』とちょっと怒ったように答えていたが、タケルは「スマホなの?」とマルシチをからかう迄に状況に順応していた。賢い子だ。
マルシチは松木から 気付かれないようにタケルを守れと言われて『がってんしょうち!』と嬉しそうだった。今はすでに川口署の隣のNTTビルの屋上にある電波塔の上に待機している。
松木は割とすんなり住所氏名を聞かれただけで解放された。聞くところではタケルには父方にも母方にも親戚はいるらしいが、誰からも捜索願いも出ていなかったらしい。とりあえず父方の祖父母が身柄を引き取りに来るらしい。 署を出た松木は電波塔に目を凝らすと、マルシチが手を上げた。
夕方近く西日がマルシチを照らしあげる頃 川口署から祖父母と共にタケルが出てきた。駐車場まで祖母に手を引かれて歩いている。白いセダンが都内へ向けて走り出した。マルシチも人と車の僅かな死角をとらえ路地側の植え込みの中に屋上から飛び降りた。最近軽量化が進んたとはいえ150kgあるマルシチが地上4階の屋上から飛び降りても音一つしなかった。植え込みから立ち上がったマルシチはジョギングおじさんのごとくパーカーのフードを被って走り出した。焦ってはいない防犯ブザーのGPSをたどれば良いだけだから。
練馬の閑静な住宅地まではさほど時間も掛からなかった。危惧していたが、家の周りにはマスコミらしき人間はいなかった。