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少年の名前は佐山タケル
10歳小学5年。
マルシチはこれを聞いただけでほぼ全てを理解した。
父親の名前は佐山信行。これを聞いた時点で松木もほぼ全てを理解した。
佐山信行は現副総理の第2秘書。史上最高金額の横領疑惑の末自ら命を断った。政界の裏金の流れをすべて呑み込んでいたかのように議員たちは己が叩かれるとみな佐山の名を挙げた。当然のように妻である洋子にもマスコミの報道陣が押し掛け信行の後を追うように死を選んだ。この二人の事はここ数日連日トップニュースで報道されている。だから松木も父親の名を聞いたっきりイスに持たれて宙に煙草の煙を吹き上げている。
マルシチはタケルの隣に座り黙ってタケルの頭をダキヨセタ。
しばらく宙を仰いていた松木は座ったままイスをキャラキャラと転がしてタケルたちの傍らまで来ると、
明日警察いこうか と静かにつぶやいた。
『なんで!』珍しくマルシチが声を荒げた。
マスコミの連中や警察はいずれここも割り出す。タケルにも親戚が居るだろ 心配しているかもしれん。
タケルは不安そうに松木を見上げた。 松木は続けた。もしも親戚連中がお前をけむたがったり、マスコミや政府の人間に何か嫌なことを言われても、俺等はお前の味方になってやる。どうしても我慢ならない事があったらこれを押せ。 松木はタケルに水色の防犯ブザーを渡した。 これを押せば、 松木が説明を続けようとしたときタケルはボタンを押した。ピヨ!ピヨ!ピヨ!ピヨ!ピヨピヨ!ーーーっ マルシチの頭の中で防犯ブザーの爆音がこだました。びっくりしたマルシチはソファーベッドごと後ろにひっくり返り、飛び上がったタケルはマルシチの腹の上に落ちた。マルシチの耳からはまだピヨピヨピヨピヨピヨピヨ!とブザーの音が漏れ出している。何が起こったかわからなかったタケルも大口を開けて目をしろくろさせているマルシチを見て初めてケタケタと笑った。