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日々

とくになし

いつの頃からか雨が降る前はとにかくダルい。

 

気だるい奥さんどころではなく、ハウルの動く城に出てくる

荒地の魔女のように半分溶けたような感じに

たら~んとなってしまう。

 

空気中の水分量が多く感じるからだろうか?など思っていたが

気圧の変化によるものらしい。

 

こりゃもう仕方ないと、たら~ん&眩暈(めまい)グルグル&

溶けた仏頂面で「今日はいつもよりダメ人間」と一日を過ごすワケだ。

 

家の極悪チワワ・ソフィも私と体調がシンクロする事が多い。

 

考えてみればソフィも高齢。

チワワは長生きといわれてはいるが、今現在おそらく14歳以上なので

かなりのババアなのだ。(お嬢が連れてきた犬なので正確な年齢は不明)

 

 

そういうワケで、どんよりした天気の昨日の昼間は

ババア犬と人間ババアは加齢臭を室内に振りまいていた。

陰気なムードにソフィの機嫌の悪い唸り声…

ヤクザみたいな犬だよアンタは…

 

『アタシらに出来る事といえば座るか寝そべるかでしょうが…』

とソフィが言っているように感じる。

 

「そう、そうなのよ…もう座ってるだけで精一杯なのよぅ…」

と私は答えつつ、6個めのミカンを食べる。

胃は活発なのだ。

 

 

そんな退廃的な我が家のドアベルが鳴った。

極悪チワワが『精一杯やらせてもらいます!』的に吠えまくる。

 

ミカンの皮をディスポーザーにねじ込み、ノロノロと立ち上がり

『去っていてくれ』と願いつつ、ドア スコープをのぞく。

 

チッ!くそっ!

ドアにくだらねぇリースなんか飾っているせいで

模造葉っぱがかぶさってて 何 も 見 え ね ぇ !

 

ここはアメリカ。

急な訪問者に不用意にドアを開け放つなど危険なのだ。

わかっているさ。

わかっちゃいるが、私はドアをすぐに全開にするクセがある。

 

 

「はーい、こんにちはー」と日本語でドアを開け放ったら

ジョン(仮名)が、緊張した顔で立っていた。

 

ジョン(仮名)とは、この周辺だか地域だかの管轄の警察官だ。

数年前、御近所の旦那がしょっちゅう家庭内でもめていて

週一くらいの割合でパトカーが来ていた。

 

で、私は毎回のように外に飛び出ては「何事?」と

警官達に聞き「 言 え ま せ ん 」と答えられ

「守秘義務ってヤツね」と腕組みをしつつ眉間にしわをよせていた。

 

当時のジョンはまだ新人で、ボケーっと突っ立っていたりした。

何となく人の好さそうな気の弱そうな背の高い白人青年で

野次馬や子供達に「またねー」と去り際に手を振ったりするので、

つ け こ み や す く 

「コッチを見ないで答えてちょうだい。またあの旦那が騒いだのね?」と

独自に聞き込みをする私に

「うん、そうなんだよ、困ったね」と答えてくれる気楽さがあった。

 

そんなジョンが昨日「奥さん、お久しぶりです」と我が家に来たのだ。

私の中のいかりや長介・和久さん湾岸署がクワッと目を見開き身構えた。

 

「ジョン!久しぶり!さぁ何でも聞いてちょうだい!」と

鼻を膨らませた私に、少し恰幅の良くなったジョンは笑顔で

「ウフフ…ゲストパーキングにとまってるシボレー、乗ってる人知ってる?」

と聞いてきた。

 

「知らんな」と即答だ。

「シボレーがどの車なのかもわからないよ」と伝えたら

「あのダークグレーの…」と通りの向かいを指をさした。

 

「知らんな。でも今日から私のホークアイ(鷹の目)で見張るわよ」

とやる気満々で答え「あの車がどうしたの?」と聞くと

「あれねー、通報があったの。誰か動かしたら連絡して」

と言うじゃないか。

通報…?チケットかレッカーでいいんじゃないの?

 

多くは語ってくれなかったが、どうやらその車は何か理由があって

レッカーは出来ないらしい。

そして「危険だから、絶対に運転手に話しかけたりしないでね」と…。

 

危険…キケンですって!?

 

ジョンは私の目がギラついたのに気付いたのか何度も

「絶対に 家 の 中 か ら 通 報 するだけにしてね」

と言っていた。

私だって捕まえようとする程のチャレンジャーじゃないわよ、ジョン…

 

その後、ジョンの薬指に光る結婚指輪を見つけ

「あら!アンタ!おめでとう!」と言ったら

「あ、見つけちゃった?イヒヒ…これ妻と新人」などと

嬉しそうに携帯を取り出し、

加 藤 鷹 な み の 高速フィンガーさばきで写真を

見せてくれるジョン。

 

新人と呼ばれている赤ん坊は女の子で、子猫のような

深いグレーブルーの瞳。すごく可愛い。

 

「何て可愛いの!」「うん可愛いんだ~うんこまで可愛い」と

話し込んでいたら、もう一人の警察官が

やってきて「どうだった?」とジョンに声をかけ

愛想よく私にも挨拶をし、パトカーに乗り込んだ。

 

相方さんらしき人も来たし、ジョンも忙しいだろうと私も

「あ~もう行かなきゃだよね。気を付けてね、またね」とお辞儀。

 

もしかしたらジョンは聞き込みのふりをして

車を誰が動かすのか待ち伏せていたのだろうか…いや、違うな。

 

ジョンは「ではまたね!」と、長い手足を振り回すようにして

去って行った。

 

警察官で「またね」と言う人って少ないらしい。

ちょっと考えれば、なるほどね…と理由はわかるけれど

ジョンの「またね」は相変わらず感じが良い。

 

危険な仕事だけれど、ジョンの毎日が何事もなく無事に可愛い家族との

時間をずっと続けていけますように、と願いつつ

今日も私は窓の外を眺め続けている。

 

ホシに動きはない…つーか何なんだあの車。

張り込みは続く…あんぱんと牛乳が必要だが、ないので

さっき冷凍のタコ焼きを食べた。

今は朝の5時。ホークアイのはずの目がかすんでいる。

が、私はこれからエアフライヤーで焼き芋を焼くつもりだ。

夫の朝食は焼き芋と冷凍のタコ焼きにする。