巾木一両の書き垂れ劇場 -8ページ目

巾木一両の書き垂れ劇場

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菊地彦達が出雲大社に到着時には 日は高くなっていた


参道近くの駐車場に入ろうと 車を走らせていると 参道入り口に 人だかりが出来ている


男「菊地彦様?」


菊地彦「車を止めろ」


男に命令し 黒山の側で車を停車させると
菊地彦は 人波をかき分け 集団の最前列に到達する そこには 見覚えのある車が 参道の両側にそびえる 石柱の1つに 原型を留めぬ程に ぐしゃぐしゃに潰れていた 菊地彦は思わず 車内に目を凝らす が… かろうじて見えてるのは 運転席に突っ伏した 男の影だけだ 菊地彦は警察が来る前に確かめなければならない事があった …と 対面にいる 女性が悲鳴を上げる 遠巻きに見ていた 人々の輪が 一瞬氷付く中 菊地彦の足は車へと 近付く


菊地彦「…緒方」


運転席に突っ伏した男は 燈九郎を出雲へと案内していた 菊地一族の1人 緒方だった 菊地彦は緒方の異様な頭部を見ている
女性の悲鳴の原因となったそれは… 襟足から頭頂部にかけて 何者かに切り取られていたのだ 菊地彦は 無表情に その傷痕を覗き込む


菊地彦「これは…」


切り取られたと思った その傷痕の切り口には 歪(いびつ)な形が連続している 後頭部に残った それは 明らかに 巨大な何かが 噛み千切った後だった
菊地彦は 車内を見渡す しかし燈九郎も あの竹内と云う老人も消えている 辺りの見物人に 片っ端から 聞いてみるが 2人を見た者はいなかった


菊地彦「くそ!何処に行ったんだ!?」


遠くからサイレンの音が近づいていた


【妖師探偵外伝・誕生篇】其の六 完


その七に続く…
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時間を遡る(さかのぼ)事…燈九郎達が 甲賀三郎の人穴を出て 出雲に向かおうとしていた頃
鳥取砂丘に1人の男が立っていた 彼は 冬の夜空を見上げている その瞳には オリオン座が見えていた 男の年齢は25~6才 何処か異彩を放つオーラをまとい 華奢(きゃしゃ)ではないが その細身の身体には 確実な威厳が備わっている
彼の背後に 一台の黒いセダンが近付くと ライトを消さずドアが開く デップリと太った腹を揺すりながら 車から出て来る


男「菊地彦様!!」


空を見上げていた男は ゆっくりと振り向き ヘッドライトの照らす方へ 歩き出す


男「奴等の車が 間もなく ここを通ります」


菊地彦「そうか…では 出発しよう」


男「はい」


菊地彦「出雲に向かうぞ」

そう言うと 男が開けた 後部座席に滑り込む


菊地彦「これ以上 好き勝手はさせるものか」


菊地彦の 大きく見開かれた瞳には 青白い炎が燃えていた


菊地彦「急げ」


菊地彦の言葉に 運転席の男は畏まり(かしこ)ながら アクセルを踏み込んだ


暫くすると 燈九郎達を乗せた車に追い付く しかし
突然 前の車が忽然(こつぜん)と 菊地彦達の目の前から消えたのだ


男「菊地彦様!?」


菊地彦「くそ!オオナムチだ オオナムチが奴を呼んだんだ!!」


男「…如何致しましょう」

菊地彦「かまわん 出雲大社に直行しろ!! 必ず 奴を捕まえる!急げ」


菊地彦の只ならぬ表情に 男は 思わずスピードを上げ 一路 出雲へと向かうのだった


【妖師探偵外伝・誕生篇】其の五

完 其の六へ続く
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竹内「出雲神話を知っているかね」


辺りはまだ暗い…
島根に向かう車内で 竹内は燈九郎に尋ねた 大神美羽とは 蓼科で別れたが 彼女の計らいで 緒形と云う 菊池一族の1人を 運転手として燈九郎達に同行させた おそらく 彼等のお目付け役と云った処だろう 無駄口を叩く訳でもなく 竹内の指示通りに 黙々と運転している 何となく車内に 重苦しい空気が流れ出した時 竹内が口を開いたのだった


燈九郎「少しはな」


竹内「大国主(オオクニヌシ)の国譲り(クニユズリ) つまり出雲が大和朝廷に征服された物語だ」


燈九郎「ああ…大国主の息子 タケミナカタは 敵将 タケミカズチと力比べをする話だろう タケミカズチは 草を引きちぎる様に タケミナカタの腕を引っこ抜いてしまうって話だろ」


竹内「タケミナカタは出雲から諏訪迄 敗走し ついには降伏し その地に鎮められる そのタケミナカタを祀ったのが 諏訪大社だ」


燈九郎「甲賀三郎の人穴にいたアレは 両腕がなかった!?」


竹内「その通り タケミナカタを崇める者達も 一緒に追われて 諏訪盆地に住み着いた…その末路が あの白骨なのだろう」


燈九郎「鎖に繋がれた神か…」


竹内「神話に登場する神々は決して ありがたいものでは 無かったんだよ 祟りをなし 破壊と死をもたらす 厄神でもある 今 向かっている 出雲大社のオオナムチもまた 例外ではない」


燈九郎「オオナムチは確か…大国主の事だったな」


竹内「タケミナカタやオオナムチが 一体何なのか 何処から現れたのか 何も解明されていない だからこそ古代人は 神と崇め 魔と恐れたのだな…」


蓼科を出発してから今まで 一言も言葉を発しなかった緒形が 声を震わせている


緒形「もう島根に入っているはずなんだが」


ルームミラー越しに見える緒形の眉間辺りには 怯えの表情が はっきりと見て取れた 竹内は時計を見ている


竹内「5時か…そろそろ夜が明けるな」


緒形「そんな事じゃない!! 周りを見てみろ!」


燈九郎「何だ これは!?」


緒形「ライトの明かりが届かない ここは道なのか!?」


燈九郎「緒形さん 車を止めるんだ!!」


緒形「やってるよ!さっきからブレーキを踏んでるのに止まらないんだ!!」


竹内「エンジンを切れ!!」

緒形「駄目だ!!凄い力で 吸い込まれてる!」


竹内「そうか!オオナムチだ オオナムチが君を引き寄せているんだ!!」