--------------------
一行は蓼科山の山奥にいた 甲賀三郎伝説が色濃く残る この山一帯は 様々な遺跡や集落跡 出土品が出て来る為 未だに開発を逃れている 数少ない場所である 麓周辺は 観光地になってはいるが 霊山として信仰対象になっているこの山に深く足を踏み入れると 今も太古の風が吹き通るかの様な深緑に 圧倒される
竹内 美羽 燈九郎は登山道を外れ 常緑樹の生い茂る 道なき道を 竹内を先頭に掻き分けながら歩いて行く …と… いきなり緑葉が切れると そこには かなり広い草地が広がっていた
竹内「燈九郎君 この場所を憶えているかね?」
美羽「…ここなんだ」
燈九郎の脳裏に あの日の事が 靄(もや)に掛かって蘇ってくる 父親はこの草地で俯せに倒れ 腰の辺りから 夥(おびただ)しい血が流れていた そして肩の激痛に堪えきれず 泣いている燈九郎自身…
そして…燈九郎の後ろに立っている黒い影 それが父親を殺したのか 余りの肩の痛さに見た幻覚なのか また 肩の傷はどうして付いたのか… 記憶のベールは まだ真実を写し出してはくれない 追憶の中にいた燈九郎に 美羽の声が響き 現実に帰る
美羽「先を急ぐわよ…竹内さん 後 どれくらい歩くの?」
竹内「この草地を抜ければ直ぐだよ」
竹内はどう贔屓目にみても70後半だと思われる しかし燈九郎や美羽の顎が上がる程の山道を この老人は涼しい顔で歩いている とにかく謎な老人だ 美羽との関係も気になるが 何故 自分の名前を知っているのか…とにかく用心に越した事はない 燈九郎は美羽を挟んで 一番後ろを歩いていた 程なく歩いた処に 八体の石仏が並んでいる 竹内はその前で立ち止まると一番右端を指さした
竹内「ここだよ」
美羽「えっ!?」
竹内「その端の石仏を動かしてごらん 燈九郎君 君も手伝ってくれ」
美羽は背負っていたリュックから 折り畳み式のスコップを取り出し 石仏の下を掘り起こし始める 石仏の廻りの土は 掘り始めは固かったが 物の数分で柔らかくなった 70cm程掘ると 土に埋まっていた石仏の全てが現れた
竹内「石仏を退(ど)かすんだ」
言われるまま 石仏に力を込めると グラグラと動き出し 石仏は数秒で倒れた すると そこにはポッカリと小さな穴が空いている
美羽「ここなの?」
竹内「ああ 後は私達が入れるくらい 掘り広げてくれればいい 頼む」
美羽は燈九郎にスコップを渡すと お願いっと云った目線を送る 渋々 穴の廻りを丁寧に広げて行くと 簡単に大きな穴が空いた
美羽「考えたわね 流石に石仏に手を掛ける様な罰当たりは いないから」
竹内「さあ 入ろうか」
リュックから懐中電灯を取り出す 美羽と燈九郎 大きく口を空けた穴の中は なだらかな坂になっていて 容易に中に入って行けた 進むに連れて 穴の中は広大に広がって行く
美羽「何で ここまで知っているのに わざわざ私達を連れて来たの?」
美羽の質問は的を得ている 燈九郎も同じ疑問が口から出そうになっていたからだ しかし竹内は答えない
痺れを切らした美羽は 竹内を押し退けて 先を急ぎ始める
竹内「あまり慌てると 転んで怪我するぞ」
美羽の足元から パキッと云う 何かを踏み壊した音がした 立ち止まった美羽が懐中電灯で先を照らす 一瞬の静けさは 美羽の悲鳴で終わりを告げた 駆け寄った燈九郎に 美羽は明かりを向けている方向を指差したまま動かない 燈九郎が光の先に目を凝らして見てみると
そこには 夥しい人骨が ずっと奥迄 続いていた
燈九郎「何だこれは!?」
竹内「只の白骨だよ 大神の姫さん 恐ろしいかね 心配いらんよ 噛み付きゃせんから」
美羽「誰が怖いもんですか!!」
そう言うと 人骨の中をバキバキと踏み付けながら 先を歩いて行く美羽
竹内「なんとまあ 単純なものだ」
燈九郎「これが本当に 甲賀三郎の人穴なのか?」
竹内「そうだよ 【神道集】によると 三郎は 維縵国(ゆいまんこく)と云う 巨大な地底にあった国に 辿り着いたとある 甲賀三郎の伝説は中世頃の話だが この穴はずっと前から 人が移り住んでいたんだろう ほら これを見てご覧」
竹内が指差した場所には 縄文土器が 人骨の間からのぞいている
竹内「この土器の形状からするに 紀元前5千年はくだらないだろう この穴の果ては浅間山の風穴とも繋がっているからな それと この白骨は 何かが原因で 一度に滅んだのだろう これだけの数の人間が 一瞬でな」
燈九郎「あんたは どう考えているだ?」
竹内「さあ そこまでは…戦争 疫病 天変地異 何れも想像の域を出んよ」
先を行っていた美羽の懐中電灯の光が こちらを照らすと 美羽の苛立った声が聞こえて来る
美羽「竹内さん まさか私を騙したんじゃないわよね!?骨ばっかりの こんな薄気味悪い処に アレが本当にあるの!?それとも ここじゃないの!?」
竹内は燈九郎の懐中電灯を取り上げると 光を上部に当てた その光に浮かび上がったのは 石の玉座に座り 右手には剣を持ったまま 白骨化した死体があった 何故かその白骨の頭部の半分が無くなっている
竹内「他の白骨に比べると 新しいな 持ち物から見て 甲賀三郎だろう」
美羽「何 この頭の傷!?これ 牙の後じゃない!?」
竹内「この聖域に踏み行った報いを受けたのかもな」
美羽「そんな事 どうだって良いわよ!!ここに 私が探している物はあるの!?」
竹内「ここに そんな物があるなんて 一言も言った憶えはないよ」
美羽「何ですって!?」
竹内「慌てなさんな 別に無いとも言ってない 手掛かりでも探してごらん」
燈九郎は甲賀三郎であろう人骨を見ていた すると 人骨が座っている玉座の後ろから 微かに空気の流れを感じる 燈九郎は玉座に上り 人骨を退かそうとすると ボロボロと崩れ落ちてしまった 壊してしまった人骨に手を合わせ 改めて玉座を動かしてみると 玉座の後ろに扉を見つけた
燈九郎「おい!奥があるぞ!!明かりをくれ」
美羽「そこにあるのかも ねぇ!その奥で 水の気配 感じない!?」
竹内「慌てるなと 言ってるだろう!燈九郎君 気を付けて探ってくれ」
竹内が燈九郎に懐中電灯を渡すと 注意深く奥に進んで行く…と 何か金属の擦れるガチャガチャと云う音と共に 何者かの気配が感じられた
何かいる…
気を取り直し 音のする方へ歩みを進めていると 急に右肩の傷が痛み出し 激痛へと変化した 思わず懐中電灯を持った手を 肩口に回そうとした時 目の前に 異様な姿が映し出されていた
それは 両足を大きな鎖に繋がれている 鎖には梵字の様なものが びっしりと書き詰めてある 身体には 遮光式土器等に見られる 渦巻き紋様が 入れ墨の様にくっきりと見て取れる 両腕は 引きちぎられた様に 歪(いびつ)な形で 両肩から無くなっている そこから伸びている 長い首は まるで ひっくり返った亀が甲良から 全部の首を出して 仰け反る時の様に剥き出しになり ヌラヌラと粘着性の水分がまとわり付いている そして先端に付いている顔は竜の様だ その顔の半分を占める 口には 不規則に並んだ無数の歯が鋸(のこぎり)状になっている あの甲賀三郎の頭蓋骨は 間違いなく この得体の知れない生き物の仕業だと 簡単に答えが導き出された 生き物は燈九郎から視線を外さず 様子を伺っていたが 咄嗟(とっさ)に長い首を伸ばし 燈九郎の肩口に 歯を立てた 間一髪 燈九郎は反応し 紙一重で 服を食い破られるだ
けで済んだのだが 燈九郎の肩に残る古傷が 顕(あらわ)になる… まるで 蛇が鎌首をもたげた様に見える その傷が 一層激しく痛み出す 追い付いた竹内が 物凄い力で 燈九郎を抱き抱え 出口へと走る
竹内「大丈夫か!?」
燈九郎「…あれは何なんだ」
竹内「タケミナカタだ」
竹内の言葉を聞かぬ内に
燈九郎の意識は遠退いて行った
竹内は 入り口迄来ると 燈九郎を下ろし 玉座を元の場所に戻した
美羽「どうしたの!?」
竹内「心配ない 気を失っているだけだ…それは?」
美羽の手には 変わった形の土偶が握られていた
美羽「あの扉近くに転がってたの 縄文初期の作りみたい」
その土偶の全身には 数匹の蛇が取り巻いている不気味な土偶である 竹内は土偶の胸に目を止めた
幾何学的な形が渦巻きを形状して並んでいる
竹内「これは古代文字か?」
美羽「縄文時代に文字なんて 馬鹿な事言わないでよ」
竹内「昭和29年に 尖石遺跡で発掘された 原始絵画が描かれた 石板を知っているかね 人間と木 ×印を付けられた太陽の絵だが これを 古代に起こった ある事件を現した絵文字だと云う説がある…この古代文字は…我が母の国 根の堅州国(かたすくに)に至るべし…」
数時間後 3人は地上にいた 燈九郎も程なく目を覚ますと 肩の傷の痛みも消えていた 石仏を元に戻し 土を被せると 元来た道を辿る道すがら 美羽が口を開いた
美羽「ねぇ 甲賀三郎の財宝って 例の泉の事じゃないの?」
竹内「お前さんも 執念深いのう」
燈九郎「泉って何の事なんだ?」
竹内「ああ この大神の姫殿は 不老不死の泉を探しておるのだよ」
燈九郎「そりゃまた メルヘンだな」
美羽「貴方には夢物語に聞こえるでしょうけど 私には確証があるの 不老不死の泉は 邪馬台国にあったのよ」
竹内「まあ 今は好きにすれば良いさ それはそうと どうだね この燈九郎君を 暫く 私に預けてくれんか 甲賀三郎の人穴が邪馬台国ではなかったと解れば あんたには用無しだろう?」
美羽「…まあね」
竹内「菊池の当主との対面も その内叶うだろうしな その前に この燈九郎君をどうしても連れて行きたい処があるんだよ」
燈九郎「勝手に話が進んでるが 俺の意志が入る余地はないのか?」
美羽「もう手遅れよ」
竹内「そう云う事だ」
燈九郎「今度は何処に連れて行こうってんだ?」
竹内「出雲だ」
【妖師探偵・外伝】誕生篇其の参 完
その四に続く




