巾木一両の書き垂れ劇場 -9ページ目

巾木一両の書き垂れ劇場

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一行は蓼科山の山奥にいた 甲賀三郎伝説が色濃く残る この山一帯は 様々な遺跡や集落跡 出土品が出て来る為 未だに開発を逃れている 数少ない場所である 麓周辺は 観光地になってはいるが 霊山として信仰対象になっているこの山に深く足を踏み入れると 今も太古の風が吹き通るかの様な深緑に 圧倒される
竹内 美羽 燈九郎は登山道を外れ 常緑樹の生い茂る 道なき道を 竹内を先頭に掻き分けながら歩いて行く …と… いきなり緑葉が切れると そこには かなり広い草地が広がっていた

竹内「燈九郎君 この場所を憶えているかね?」


美羽「…ここなんだ」


燈九郎の脳裏に あの日の事が 靄(もや)に掛かって蘇ってくる 父親はこの草地で俯せに倒れ 腰の辺りから 夥(おびただ)しい血が流れていた そして肩の激痛に堪えきれず 泣いている燈九郎自身…
そして…燈九郎の後ろに立っている黒い影 それが父親を殺したのか 余りの肩の痛さに見た幻覚なのか また 肩の傷はどうして付いたのか… 記憶のベールは まだ真実を写し出してはくれない 追憶の中にいた燈九郎に 美羽の声が響き 現実に帰る


美羽「先を急ぐわよ…竹内さん 後 どれくらい歩くの?」


竹内「この草地を抜ければ直ぐだよ」


竹内はどう贔屓目にみても70後半だと思われる しかし燈九郎や美羽の顎が上がる程の山道を この老人は涼しい顔で歩いている とにかく謎な老人だ 美羽との関係も気になるが 何故 自分の名前を知っているのか…とにかく用心に越した事はない 燈九郎は美羽を挟んで 一番後ろを歩いていた 程なく歩いた処に 八体の石仏が並んでいる 竹内はその前で立ち止まると一番右端を指さした

竹内「ここだよ」


美羽「えっ!?」


竹内「その端の石仏を動かしてごらん 燈九郎君 君も手伝ってくれ」


美羽は背負っていたリュックから 折り畳み式のスコップを取り出し 石仏の下を掘り起こし始める 石仏の廻りの土は 掘り始めは固かったが 物の数分で柔らかくなった 70cm程掘ると 土に埋まっていた石仏の全てが現れた


竹内「石仏を退(ど)かすんだ」


言われるまま 石仏に力を込めると グラグラと動き出し 石仏は数秒で倒れた すると そこにはポッカリと小さな穴が空いている


美羽「ここなの?」


竹内「ああ 後は私達が入れるくらい 掘り広げてくれればいい 頼む」


美羽は燈九郎にスコップを渡すと お願いっと云った目線を送る 渋々 穴の廻りを丁寧に広げて行くと 簡単に大きな穴が空いた


美羽「考えたわね 流石に石仏に手を掛ける様な罰当たりは いないから」


竹内「さあ 入ろうか」


リュックから懐中電灯を取り出す 美羽と燈九郎 大きく口を空けた穴の中は なだらかな坂になっていて 容易に中に入って行けた 進むに連れて 穴の中は広大に広がって行く


美羽「何で ここまで知っているのに わざわざ私達を連れて来たの?」


美羽の質問は的を得ている 燈九郎も同じ疑問が口から出そうになっていたからだ しかし竹内は答えない
痺れを切らした美羽は 竹内を押し退けて 先を急ぎ始める


竹内「あまり慌てると 転んで怪我するぞ」


美羽の足元から パキッと云う 何かを踏み壊した音がした 立ち止まった美羽が懐中電灯で先を照らす 一瞬の静けさは 美羽の悲鳴で終わりを告げた 駆け寄った燈九郎に 美羽は明かりを向けている方向を指差したまま動かない 燈九郎が光の先に目を凝らして見てみると

そこには 夥しい人骨が ずっと奥迄 続いていた


燈九郎「何だこれは!?」


竹内「只の白骨だよ 大神の姫さん 恐ろしいかね 心配いらんよ 噛み付きゃせんから」


美羽「誰が怖いもんですか!!」


そう言うと 人骨の中をバキバキと踏み付けながら 先を歩いて行く美羽


竹内「なんとまあ 単純なものだ」


燈九郎「これが本当に 甲賀三郎の人穴なのか?」


竹内「そうだよ 【神道集】によると 三郎は 維縵国(ゆいまんこく)と云う 巨大な地底にあった国に 辿り着いたとある 甲賀三郎の伝説は中世頃の話だが この穴はずっと前から 人が移り住んでいたんだろう ほら これを見てご覧」


竹内が指差した場所には 縄文土器が 人骨の間からのぞいている


竹内「この土器の形状からするに 紀元前5千年はくだらないだろう この穴の果ては浅間山の風穴とも繋がっているからな それと この白骨は 何かが原因で 一度に滅んだのだろう これだけの数の人間が 一瞬でな」


燈九郎「あんたは どう考えているだ?」


竹内「さあ そこまでは…戦争 疫病 天変地異 何れも想像の域を出んよ」


先を行っていた美羽の懐中電灯の光が こちらを照らすと 美羽の苛立った声が聞こえて来る


美羽「竹内さん まさか私を騙したんじゃないわよね!?骨ばっかりの こんな薄気味悪い処に アレが本当にあるの!?それとも ここじゃないの!?」


竹内は燈九郎の懐中電灯を取り上げると 光を上部に当てた その光に浮かび上がったのは 石の玉座に座り 右手には剣を持ったまま 白骨化した死体があった 何故かその白骨の頭部の半分が無くなっている


竹内「他の白骨に比べると 新しいな 持ち物から見て 甲賀三郎だろう」


美羽「何 この頭の傷!?これ 牙の後じゃない!?」


竹内「この聖域に踏み行った報いを受けたのかもな」

美羽「そんな事 どうだって良いわよ!!ここに 私が探している物はあるの!?」

竹内「ここに そんな物があるなんて 一言も言った憶えはないよ」


美羽「何ですって!?」


竹内「慌てなさんな 別に無いとも言ってない 手掛かりでも探してごらん」


燈九郎は甲賀三郎であろう人骨を見ていた すると 人骨が座っている玉座の後ろから 微かに空気の流れを感じる 燈九郎は玉座に上り 人骨を退かそうとすると ボロボロと崩れ落ちてしまった 壊してしまった人骨に手を合わせ 改めて玉座を動かしてみると 玉座の後ろに扉を見つけた


燈九郎「おい!奥があるぞ!!明かりをくれ」


美羽「そこにあるのかも ねぇ!その奥で 水の気配 感じない!?」


竹内「慌てるなと 言ってるだろう!燈九郎君 気を付けて探ってくれ」


竹内が燈九郎に懐中電灯を渡すと 注意深く奥に進んで行く…と 何か金属の擦れるガチャガチャと云う音と共に 何者かの気配が感じられた


何かいる…


気を取り直し 音のする方へ歩みを進めていると 急に右肩の傷が痛み出し 激痛へと変化した 思わず懐中電灯を持った手を 肩口に回そうとした時 目の前に 異様な姿が映し出されていた


それは 両足を大きな鎖に繋がれている 鎖には梵字の様なものが びっしりと書き詰めてある 身体には 遮光式土器等に見られる 渦巻き紋様が 入れ墨の様にくっきりと見て取れる 両腕は 引きちぎられた様に 歪(いびつ)な形で 両肩から無くなっている そこから伸びている 長い首は まるで ひっくり返った亀が甲良から 全部の首を出して 仰け反る時の様に剥き出しになり ヌラヌラと粘着性の水分がまとわり付いている そして先端に付いている顔は竜の様だ その顔の半分を占める 口には 不規則に並んだ無数の歯が鋸(のこぎり)状になっている あの甲賀三郎の頭蓋骨は 間違いなく この得体の知れない生き物の仕業だと 簡単に答えが導き出された 生き物は燈九郎から視線を外さず 様子を伺っていたが 咄嗟(とっさ)に長い首を伸ばし 燈九郎の肩口に 歯を立てた 間一髪 燈九郎は反応し 紙一重で 服を食い破られるだ
けで済んだのだが 燈九郎の肩に残る古傷が 顕(あらわ)になる… まるで 蛇が鎌首をもたげた様に見える その傷が 一層激しく痛み出す 追い付いた竹内が 物凄い力で 燈九郎を抱き抱え 出口へと走る


竹内「大丈夫か!?」


燈九郎「…あれは何なんだ」


竹内「タケミナカタだ」


竹内の言葉を聞かぬ内に
燈九郎の意識は遠退いて行った
竹内は 入り口迄来ると 燈九郎を下ろし 玉座を元の場所に戻した


美羽「どうしたの!?」


竹内「心配ない 気を失っているだけだ…それは?」

美羽の手には 変わった形の土偶が握られていた

美羽「あの扉近くに転がってたの 縄文初期の作りみたい」


その土偶の全身には 数匹の蛇が取り巻いている不気味な土偶である 竹内は土偶の胸に目を止めた
幾何学的な形が渦巻きを形状して並んでいる


竹内「これは古代文字か?」


美羽「縄文時代に文字なんて 馬鹿な事言わないでよ」


竹内「昭和29年に 尖石遺跡で発掘された 原始絵画が描かれた 石板を知っているかね 人間と木 ×印を付けられた太陽の絵だが これを 古代に起こった ある事件を現した絵文字だと云う説がある…この古代文字は…我が母の国 根の堅州国(かたすくに)に至るべし…」


数時間後 3人は地上にいた 燈九郎も程なく目を覚ますと 肩の傷の痛みも消えていた 石仏を元に戻し 土を被せると 元来た道を辿る道すがら 美羽が口を開いた


美羽「ねぇ 甲賀三郎の財宝って 例の泉の事じゃないの?」


竹内「お前さんも 執念深いのう」


燈九郎「泉って何の事なんだ?」


竹内「ああ この大神の姫殿は 不老不死の泉を探しておるのだよ」


燈九郎「そりゃまた メルヘンだな」


美羽「貴方には夢物語に聞こえるでしょうけど 私には確証があるの 不老不死の泉は 邪馬台国にあったのよ」


竹内「まあ 今は好きにすれば良いさ それはそうと どうだね この燈九郎君を 暫く 私に預けてくれんか 甲賀三郎の人穴が邪馬台国ではなかったと解れば あんたには用無しだろう?」


美羽「…まあね」


竹内「菊池の当主との対面も その内叶うだろうしな その前に この燈九郎君をどうしても連れて行きたい処があるんだよ」


燈九郎「勝手に話が進んでるが 俺の意志が入る余地はないのか?」


美羽「もう手遅れよ」


竹内「そう云う事だ」


燈九郎「今度は何処に連れて行こうってんだ?」


竹内「出雲だ」


【妖師探偵・外伝】誕生篇其の参 完


その四に続く
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燈九郎と美羽は長野にいた 美羽の促しに 蓼科山へ向かう前に 茅野市(ちのし)にある 尖石考古館(とがりいしこうこかん)に立ち寄る そこには現地で発掘された先人達が使ったであろう 鏃(やじり)や土器 土偶等が陳列してある 館内の状況を見て 燈九郎はハッとする


…俺は ここに来た事がある…


そう思った矢先 ある縄文土器が目に止まる 燈九郎の様子を伺う美羽の後ろから 野太いが何処か威厳のある声が 2人を驚かせた


老人「その縄文に惹かれたのかい?」


振り向くと 白髪を胸の辺り迄 伸ばし 真っ白な髯を蓄えた老人が立っていた
美羽は閉口した口振りで 老人に対し慇懃(いんぎん)に言葉を投げる


美羽「これはこれは 竹内さん まだ生きていらしたのね 御健勝何よりですわ」


竹内と呼ばれた老人は 美羽の言葉が聞こえていない様に 燈九郎を見て微笑みながら美羽の前をすり抜ける


竹内「ここへは初めてかな?」


美羽「ちょっと!?」


燈九郎「いや…何と言うか…その…」


竹内「この土器を見ていたね」


美羽「ちょっとってば!!」

燈九郎「…何となく…記憶があると云うか」


竹内「この地方は蛇の伝説が多く残る処でな この土器にも 蛇模様の取っ手が付いているだろう この尖石遺跡を中心にして 紀元前5~6千年頃の縄文時代から 大きな集落があったんだ 連中は 蛇を神聖視して崇めておったんだよ 伝説では 希に一族の中に 鱗(うろこ)があったり 神紋を授かる等の言い伝えも残っておる」


燈九郎「蛇…神紋?」


業を煮やして美羽が割って入る


美羽「いい加減にしてよ! 竹内さん この人は私の御客なの! 今 混乱される事言われるのは 迷惑だわ!!」


竹内「そう居丈高になりなさんな 私は お前さん達の邪魔をしようと言うんじゃない むしろ 手伝ってやろうと言っているんだよ」


美羽「どう云う意味!?」


竹内「甲賀三郎の人穴に案内してやろうと思っているんだが」


美羽「何ですって!?」


竹内「全く…そう大きな声を出さんでもいいだろう どうだね燈九郎君 一緒に行って見ないか」


燈九郎「…何で 俺の名を!? あんた達は何なんだ!?」

竹内「お前さんの声もデカイのぉ 良いから付いて来なさい あの蓼科山が全て教えてくれるだろうよ」


そう言うと 竹内は スタスタと出入口に歩き出した 憤懣やる方ない美羽は竹内の後ろ姿を見送っている


燈九郎「あのジイサン 誰なんだ 何で俺の名前を知ってた? お前達は連れなのか?」


美羽「最初の質問に関しては 知らないわ そして私とあの人は どちらかと言えば 敵よ 何時も私達の先回りして 何を企んでいるのか見当も付かないけど 油断出来ないジイサンよ」


燈九郎「あのジイサンも言ってたが 私達って言うのは誰の事を言ってるんだ?」


美羽「その内解るわ そんな事より 竹内を追い掛けるのが先決よ」


そう言い終わらない内に駆け出す美羽


燈九郎「おい待て!」


その後を追いかけて 燈九郎も駆け出す


3人が去った後の館内には再び静寂が戻ったのだった
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大神美羽(おおが みう)は 燈九郎と目が合うと微笑みを浮かべた


美羽「やっぱり来た(笑)」

燈九郎「こんな物 見せられたら 来ない訳には行かないからな…」


燈九郎は コートの内ポケットから紙片を取り出し 美羽に渡す


燈九郎「参(しん)は猛悪にして血を好み 羅傲(らごう)は厄害を起こし闇に反る…」


美羽は紙片に目を落としている その大きな瞳には 人格化した羅傲(らごう)の頭上に 八匹の蛇が蠢いている 絵が映っていた


美羽「そう この羅傲を写した紙を握り締めて 貴方の御父様は殺された…幼かった貴方の目の前でね」


紙片を見つめていた瞳が 再び燈九郎に向けられると彼は一瞬戸惑った…


真っ直ぐに燈九郎を突き刺す眼は 何処までも続く 深淵を感じさせ
その漆黒に吸い込まれそうになったからだ
一瞬の動揺を気取られない様に 落ち着いた風を装っていたが 美羽が放った 次の言葉に 燈九郎は凍りついてしまった


美羽「その時に出来た傷 未だに痛むんじゃない?」

燈九郎「…誰から聞いた」

美羽「それは おいおい… 先ずは私と 諏訪に来てくれる?」


燈九郎「断る事は出来ないんだろう」


美羽「貴方の御父様が何故 殺害されなければならなかったのか… そのヒントがその場所にあるかもって言ったら どう?」


燈九郎の頭の中で 様々な思考が交錯していた 事の初めは……2日前の夜 1本の電話が切っ掛けだった


彼は 事務所のデスクに座り 一向に鳴らない置き電話の側で 神道集(しんとうしゅう)と云う文献を読んでいた


彼…勘解野小路 燈九郎(かでのこうじ とうくろう)の稼業は 探偵である


浮気調査がメインの良くある 探偵事務所なのだが 最近の不景気の波は 燈九郎の事務所にも 多大な影響を及ぼしていた


おかげで 有り余る時間の中 父親が残した 膨大な歴史資料に 目を通す時間を与えられていた


20年前…
燈九郎の父親は燈九郎を連れ 長野県 蓼科(たてしな)に旅行中 その山中にて 何者かに殺害された たまたま猟に来ていた 地元の猟師に発見された時 父親の死体の傍らで 右肩から血を流し 泣いている燈九郎が保護された


燈九郎の父親は史学博士で 邪馬台国研究の第一人者であった よく燈九郎を連れ 日本各地に赴き 各地の神話伝承等を調査していた その調査先で父親は殺害されたのだが 人気のない山の中 目撃者や遺留品の存在が皆無故に 未だに犯人は捕まっていない
雄一 その日 燈九郎達以外に 山に入って行く15~6才くらいの少年が目撃されていたが その少年が誰なのかも 確認されていない…


燈九郎は暇を持て余す中 父親が残した資料を読み漁る様になった そもそも燈九郎自身 探偵になった切っ掛けが 父親の死に影響を受けた事は少なからずあると想像出来る そんな折 暫く無駄な置物に成り下がっていた ガラクタのベルがなる 燈九郎は持っていた 神道集を放り投げ 電話に飛び付いた


「はいこちら 勘解野小路探偵事務所」


受話器の向こうから 若く涼やかな女の声が微妙な感じで応えて来る
営業電話にしては明らかに燈九郎の声が大き過ぎたのだろう
電話の相手は確実に受話器を耳から遠ざけている


美羽「…手紙は届いているかしら」


燈九郎「はっ?」


美羽「大神と言う名で 貴方宛てに送ってあるんだけど」


燈九郎はデスクの横にあるレターケースの中を 無造作に掻き回すと ピンクの封筒が目に止まった 差出人を見ると 確かに大神と書いてある ペーパーナイフを取りだし 一気に封筒を開けると 例の羅傲が書かれた紙片が 出て来たのだ


燈九郎「これは!?」


美羽「貴方の御父様が亡くなった秘密を教えてあげる」


燈九郎「どう云う事だ?君は誰なんだ!?」


美羽「明後日の正午 武蔵野にある 歴史資料館に来てくれる そこで自己紹介するわ…それから貴方の御父様の資料から【神道集】を持って来る事」


燈九郎「訳の分からない 誘いには乗らない事にしている 親の遺言でな」


美羽「(笑)貴方は来るわ それが貴方の宿命だから」

燈九郎「宿命?何を言ってるんだ?」


美羽「貴方の肩に刻まれた傷がそれを教えてくれるわ…時が来たのよ…待ってるから」


そう言うと 電話が切れた


燈九郎は 呆けた様に受話器を下ろし 無意識に左手で右肩を押さえていた チリチリとした痛みが 何かを暗示するかの様に 燈九郎の好奇心を掻き立て始める


燈九郎「明後日…」


…そして 今 燈九郎は大神美羽と会っている


美羽「【神道集】は?」


燈九郎は 言われるまま 鞄から【神道集】を取りだし美羽に渡す パラパラと頁を捲り ある箇所で手が止まる


美羽「ここを読んで 読める?」


燈九郎「馬鹿にするな これでも 史学学者の息子だ」

美羽「門前の小僧って訳(笑)」


燈九郎「甲賀三郎諏訪(こうがさぶろうよりかた)の件か…」


神道集に 書かれている 甲賀三郎は 天狗に拐われた春日姫を探して 信濃(現長野県)の蓼科山の洞窟に迷い込み 長い年月を経て 地底の国々を見て廻る そして最後には 蛇体となって 地上に戻り 諏訪の神として 祀られたとある…


美羽「私の持っている これを」


そう言うと 美羽はバックの中から 一冊の本を取り出し 燈九郎が持っていた【神道集】と交換する 美羽が渡した本には
室井恭蘭(むろいきょうらん)信濃秘志(しなのひし)と書いてあった 燈九郎が興味深げに頁を捲っていると 傍らの美羽が註釈を付ける様に 語り出す


美羽「室井恭蘭は 江戸時代に伝説の収集で知られた 国学者で 【神道集】に書かれた甲賀三郎の伝説よりも古い言い伝えを発見したと言われていて 彼が地底で見つけたのは 莫大な財宝だったと言うの その伝説によると 甲賀三郎は 財宝を外に持ち出す事が出来ず 地底で死んでしまい 蛇となって 財宝を守ったとあるの 室井恭蘭自身 この伝説を元に 諏訪山中に分け入って 財宝を探したらしいけど 結局 宝は見つからず 狂死したって伝えられているわ」


燈九郎「…で その宝探しと 俺の父親の死に 何の共通点があるんだ?」


美羽「貴方の御父様は その宝を探して 諏訪に行っていた…いいえ 多分その場所を特定していたんじゃないかしら」


燈九郎「何で そんな事を君が知っているんだ?」


美羽「私の大神と云う姓は 菊池一族の1つに数えられる 熊蘇(くまそ)の末裔 なの 貴方とは別の系統に属する 古代人の血を引く者よ」


燈九郎は全身が泡立つ様な感覚に襲われながら 込み上げて来る 何か得体の知らない衝動を 抑え付けるに必死になっていた
美羽は燈九郎の異常な感情を察知していないかの様に 燈九郎に問い掛ける


美羽「行ってくれるわよね 私と諏訪へ」


その言葉を 熱に冒された様に聞いていた…


【妖師探偵外伝・誕生篇】其ノ一完

【妖師探偵外伝・誕生篇】其ノ二に続く