巾木一両の書き垂れ劇場 -6ページ目

巾木一両の書き垂れ劇場

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大角 隼人(おおすみ はやと)は 燈九郎の後を追って電車に乗り 大分県迄来ていた
隼人が窺(うかが)って見ている…
1車両前に座る燈九郎は 夢遊病者の様に 潜在意識に操られている感だ
JRの在来線を 何度か乗り継いで行く燈九郎の姿を 一時たりとも見逃さぬ様に 細心の注意を払い 様子を見ていた隼人の左肩に 熱をおびた 感覚がのし掛かる 振り向くとそこには あの 燈九郎が倒れていた岩鞍のある山中にいた少年 愛結夢(あゆむ)だった


愛結夢「何してるの」


隼人「…貴方は!?」


愛結夢「ねえ あの子は誰なの?」


隼人「…」


愛結夢「成る程ね 君が何も言わないって事は 菊地一族に 関わる何かが あの子と関係しているって事だね?」


隼人「…厩戸(うまやど)の者には 拘わりのない事だ」


愛結夢「やっぱり そうなんだ(笑)」


愛結夢の誘導に 振り向き躊躇する隼人 電車は 1度止まり また動き出すと 愛結夢は 隼人に対して 嘲笑を浮かべながら 諭す様に 目は 前の車両を見ながら 話を続ける


愛結夢「どうでも良いけど 君の意中の人は 今の駅で降りたよ」


隼人「なんだって!?」


愛結夢に気を捕わられた刹那 燈九郎は 国東(くにさき)駅で 下車していたのだった


隼人「畜生!!」


愛結夢「心配しなくても大丈夫だって あの子の後は 僕の式神が しっかり付けてるから きっと彼は 邪馬台(やまたい)の守護者に 会いに行ったんだろう?」

隼人「何故それを!?」


愛結夢「解るさ 君のオツムの中は 恥ずかしいくらい 裸同然なんだから(笑)」


隼人「くそっ!」


2人は 次の駅で下車すると 反対車線のホームで 国東行きの電車を待っている

隼人「…貴方は何故 燈九郎を?」


愛結夢「燈九郎って云うんだ」


隼人「大国主の末裔である貴方には 関係のない事ではないんですか?」


愛結夢「心配しなくても 僕は スサノウには興味ないよ 僕の指針が あの燈九郎に向いてしまっただけ 岩鞍に倒れていた彼の心の闇が 僕に伝わってしまった それだけ」


隼人「では 我々の邪魔はしないと…」


愛結夢「うん それどころか 君に協力してあげる」


そう言うと 愛結夢は 目を閉じ 何かを感知しようとしている 間もなく 目を開けると 微笑みを浮かべながら 空に向かって 呟き出す


愛結夢「是空(ぜくう) 聞こえるか?」


愛結夢の頭の中に 是空の声が届く


是空「はい 燈九郎は今 国東の 馬頭山(ばとうさん)を登っています まるで何かに引き寄せられているみたいに 歩き続けています」


燈九郎「了解…燈九郎は 馬頭山だってさ 急いで行くと良い」


そのタイミングで 電車が滑り込んで来る
隼人が乗り込んでも愛結夢はホームに立って
微笑みを浮かべているだけだ


隼人「行かないのか?」


愛結夢「うん 急に用を思い出してね 僕は 宇佐八幡に行く事にするよ」


隼人「武内老人ですか」


愛結夢「そう云う事 君達よりも あの お爺ちゃんの方が 面白い話をしてくれそうだからね」


ホームに 笛の音と電車の汽笛が響くと 隼人と愛結夢の間を 電車のドアが遮断する 愛結夢の目には
現世と幽界の狭間の様な空間が 広がっていた 隼人を乗せた電車は 冥界へと誘う 死神の馬車に姿を変え 愛結夢の視界から消えて行く それを見送る愛結夢の表情には あの微笑みが残る


愛結夢「面白くなって来た」


愛結夢は 踵(きびす)を返し 再び 反対側のホームへ歩き出すのだった…


【妖師探偵外伝・誕生篇】 其の拾壱 完

其の拾弐へ続く…
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竹原古墳近くの旅館 菊地彦と緒方は 気を失った燈九郎を そこで休ませていた


菊地彦「やはり 古墳の画に反応を示したな」


緒方「九州に散らばる 他の関連する場所にも 連れて行くか」


翌朝 回復した燈九郎は 何事もなかった様に 菊地彦達と行動を共にしていた
一行は 弁慶ヶ穴古墳に到着する ここにも 馬の壁画が描かれている


菊地彦「ここは 菊地の豪族の墓だ」


壁画を見る燈九郎に 反応はない


緒方「変化はない様だ」


菊地彦「次は山鹿へ向かう」


熊本県 山鹿市に移動した3人は チブサン古墳 長岩横穴群と巡る 長岩横穴群の入り口には 胸の抉(えぐ)れた人が彫られている おそらく 何かの呪術の意味が有るのではないかと 言われている古代彫刻だ しかし燈九郎には反応がない

緒方「ここも無駄足だったか…未だ 反応があったのは 竹原だけだ」


菊地彦「いや 明らかに 昨日迄の燈九郎とは様子が違う もう少し見て廻るぞ」


燈九郎は 装飾古墳を巡っているうち 確かに 何か が変わりつつあった このまま進んで行くと とてつもなく恐ろしいものが待っているのではないか…
そう思いながらも 燈九郎の心は既に 古墳の呪的紋様に捕われ始めていた…

次に3人は 福岡県 浮羽の珍敷塚(めずらしずか)古墳から 福岡県久留米市にある 浦山(うらやま)古墳を回り 福岡県 某所にある 比留子(ひるこ)古墳へと やって来た


菊地彦「今日は ここで終わりにしよう」


燈九郎は 洞穴式古墳の突き当たりにある 幾何学(きかがく)的な紋様に 渦巻きが並ぶ壁画を眺めている


緒方「もっと 確かな反応が欲しいな」


菊地彦「慌てる事はない その内 何か…」


言い掛けて 異様な気配に気付き 燈九郎に振り返る


「おい…どうした? これは!?」


菊地彦と緒方が紋様を見ると 渦巻きの壁が ぐるぐると回りだし 2人の身体は 身動き出来なくなってしまう


緒方「どう云う事だ!?壁画の円紋が回っているぞ?」

菊地彦「これは…催眠装置か!?…しまった!身体が動かない…」


円紋に捕らえられた 2人を他所に 燈九郎は出口の方向に振り返り 歩き出す


菊地彦「奴が行ってしまう…この呪縛を何とか…」


突然 古墳の中に声が広がる


声「選ばれし者以外 スサノオに近づく事は許されぬ!!さあ 殺し合うのだ!! 殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」

心の中で菊地彦が叫ぶ
『何故だ…僕は菊地一族の当主 菊地彦だぞ…』


声「殺せ!殺せ!殺し合え!!」


緒方は完全に取り込まれてしまっている 足元にある石を両手で 持ち上げ菊地彦に迫って来る


緒方「お前は 出雲で 俺の兄が死んだ時…気にも止めなかった…」


菊地彦「しっかりしろ!!あれは 武内とオオナムチがやった事だろう!」


緒方「これ以上…お前の思い通りにさせるものか」


石を振りかぶり 菊地彦の脳天めがけ 振り下ろす
間一髪 呪縛が解けた菊地彦が 横に飛びのくと 石の遠心力で 緒方は前のめりに倒れる


菊地彦「緒方!!目を醒ませ!…緒方…」


うつ伏せに倒れた 緒方の胸あたりから 大量の血が流れ出る 思わず 緒方を抱き抱えると 緒方の両胸は 抉(えぐ)れ ドクドクと血液が溢れ出て来るのだった…まるで…長岩横穴群で見た 両胸を抉られた彫刻の様に…


【妖師探偵外伝・誕生篇】其ノ拾 完

其ノ 拾壱に続く…
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翌日 菊地彦は 菊地一族の1人緒方次郎と燈九郎を伴って 車を走らせていた


燈九郎「何処へ連れて行く気だ?」


菊地彦「これから君に色々と見て貰いたい物がある
今日はその1日目だ」


燈九郎「俺は 興味ない」


菊地彦「君は 亡くなった君の母親から 何も聞いてないのか?」


燈九郎「お前 昨日も そんな事を言ってたな 俺の事を 知っていたとか…お前と 俺の母親の間に 何があるって言うんだ!?」


菊地彦「そうか…本当に何も知らないんだな… ま 後でゆっくり話してやろう それよりも 出雲で消えた君が 自分でも知らない間に あの巨石の上で 気を失っていた…そこで あの巨石に関連する古墳に 案内しようと思ってね…さあ着いた」


車を降りた場所は福岡県鞍手郡にある 諏訪神社の山門前である 急な石段の入り口には 幟(のぼり)が立ててあり そこには史跡 竹原(たけはら)古墳と書いてある
ここは信濃の諏訪大社の分社
燈九郎が諏訪から出雲を通り
あの巨石の上に現れたのも何か関係があるのではと
菊地彦には容易に想像出来ていた…
その長い石段を 3人で上がり切ると 境内に出た 菊地彦が案内したのは 境内の右隅に祀られてある 祠(ほこら)の様な場所だった


菊地彦「残念だが石室には誰も入れないが
この装飾古墳は
君にとっても何かを呼び起こす切っ掛けになるかもな…この祠の先に 覗き窓がある そこから中を見てくるんだ」


燈九郎「いやだと言ったら?」


菊地彦「前に美羽から聞いたと思うが 君に降り掛かっている 一連の出来事は 君の 御父上の死にも深く 拘わっている事なんだ その手掛かりの1部が ここにもあるんだよ だから 君をここに連れて来た」


燈九郎は 菊地彦の言葉を苦々しく聞きながら 祠へと歩き出した


燈九郎「人の弱みを突くのが 上手い奴だ」


独り言を言いながら 祠に近付き 中を覗き込む


装飾古墳とは…石室の壁等に 画(え) や紋様が 描かれたものを云い 九州に多く残っている その中でもここ 竹原古墳は その特異で 力強い画で知られている 燈九郎は 覗き窓から 石室の中を見た途端
1点の画に釘付けになる…

この壁画に描かれた画で 何よりも目を引くのは 中央の上部にある 不思議な神馬である 角(つの)や爪を生やし 尾は 蛇の様に長く 全身と口から 火を吹き出している絵だ その神馬の上部には太陽が描かれており
その太陽の真ん中に×印が描かれている
太陽→神馬→そして1番下には
祈りを捧げている様な人の姿が見える…
燈九郎は その神馬から目を離せなくなってしまった そこへ菊地彦が後ろから 語り掛ける


菊地彦「僕は最初 この絵を見た時 天ノ斑駒(あめのふちこま)だと直感した 全身の赤い斑(まだら)が そう言っていると感じたからだ 君を追って 九州に戻り あの巨石で君を見つけた… あの巨石には 麒麟(きりん)を封じ込めていると云う 伝説もある 君に これを見せたいと思ったのも 菊地家に伝わる 石馬の導きかも知れないな」


菊地彦の言葉を 燈九郎の意識も思考も 聞いていない 燈九郎の見つめる 壁画の神馬が 彼の心の中に 囁き掛けていたからだ 燈九郎の命は虚ろになり 神馬に取り憑かれている


声「来る…のだ… 早…く 印(しるし)…を受…け取…りにや…って来…い」


その声を聞きながら 燈九郎の意識は遠退き 気を失ってしまう
菊地彦と緒方の声が小さく響いて聞こえたのが最後だった


【妖師探偵外伝・誕生篇】 其 九 完

其の拾に続く…