巾木一両の書き垂れ劇場 -5ページ目

巾木一両の書き垂れ劇場

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一方 菊地彦達が 馬頭山に辿り着いた頃 愛結夢は 宇佐八幡宮で 燈九郎と伴に 甲賀三郎(こうがさぶろう)の人穴に入り 出雲大社で姿を消した 武内老人を探していた…
 
 
愛結夢「爺ちゃん見つけた」
 
 
武内「これはこれは 厩戸様 お久しゅうございます 比叡(ひえい)から何時 降りて見えましたのですかな?」
 
 
愛結夢「燈九郎は国東六郷山施餓鬼寺(くにさきろくごうさんせがきじ)にいるよ」
 
 
武内「何と手回しの良い」
 
愛結夢「一緒に行く?」
 
 
武内「宜しいですとも 道中 お話を聞かせて下さい  その前に 黒男神社(くろおじんじゃ)に参拝させて頂いても宜しいかな?」
 
 
愛結夢「成る程ね 爺ちゃんには 縁深い社(やしろ)だもんね」
 
 
武内「タケシノウチノクスネを奉(まつ)った 社ですじゃ これは不思議な人物で 4世紀から5世紀にかけて 6人の天皇に仕え 300年も生きたと云われております 私の考えでは 3世紀の卑弥呼にも仕えていたのではないかと… 魏志倭人伝にある 卑弥呼の元に出入りしていた 雄一の男と言うのが それではないかと その男の役目は 審神者(さにわ)と云われる 神の言葉を伝える者…言わば 神と人との仲介者ではないかと考えておりますのじゃ…」
 
 
愛結夢「ふーん でも それだけじゃないんじゃない? 例えば…景行(けいこう)天皇 例えば…蘇我馬子(そがのうまこ)例えば…安倍晴明(あべのせいめい)例えば…」
 
 
武内「(笑)厩戸様には 敵(かな)いませんな…そう言う私も 及ばずながら 神と人との仲介者になりたいと 黒男神社にあやかりに参った訳でして」
 
 
愛結夢「殊勝な心掛けだね …それはそうと爺ちゃんは 菊地一族には冷たい様だけど?彼等が神に近付こうとしているのを 邪魔するのは何故?」
 
 
武内「…もう 手遅れですからなぁ 菊地彦が どんなに 足掻(あが)こうと 既にスサノオは燈九郎と共に動き出そうと
しておりますから」
 
 
愛結夢「まあ そんな事だろうとは思ったよ  あんまり可哀想だったんで 菊地彦には ヤマタイの秘法の在処(ありか)を教えてあげたけどね」
 
 
武内「何ですと!?」
 
 
愛結夢「いけなかった?」
 
武内「あれは!…あの泉は
 
 
愛結夢「不老不死の禁断法でしょ それくらい良いじゃない」
 
 
武内「あの秘法に菊地彦が興味を持つとは思いませぬが もし泉に手を着ける事があれば 厄介な事になります 急ぎ 六郷山に向かわなければ」
 
 
愛結夢「爺ちゃんが そんなに慌てるなんて以外だね(笑) よっぽど楽しい事が起こるらしいや」
 
 
武内「施餓鬼寺にいる 燈九郎に危険が及ぶかも知れませんぞ」
 
 
愛結夢「…そりゃ大変だ」
 
足早やに 宇佐八幡を後にする武内の後を 軽やかに追う愛結夢の心は これから起こるであろう禍(わざわい)に 好奇心を駆り立てられていた…
 
 
【妖師探偵外伝・誕生篇】其ノ 拾伍 完
 
 
其ノ 拾六に続く…
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菊地彦と大神美羽(おおがみう)は 国東の馬頭山の山道を外れ登っていた


美羽「もっとゆっくり歩いてよ」


菊地彦「本家に待機している様に言った筈だ」


美羽「私には 大神家の権利を守る義務があるの 貴方が 私をそこに連れて行くのは 当然なんだから」


突然 菊地彦達の前で風が鳴り 是空が現れる


是空「遅かったな」


美羽「誰!?」


菊地彦「厩戸(うまやど)が寄越した式神だ」


美羽「何ですって!? まさか私達の計画を…」


是空「案ずるな 愛結夢様は お前達の企みに興味はない それどころか ヤマタイの秘法を授ける様 申し遣っている」


菊地彦「何だと?」


是空「付いて来い」


2人は 是空の案内で燈九郎が聖痕を受けた 磨崖仏のある場所へやって来た


菊地彦「燈九郎は無事か」

是空「安心しろ 大角(おおすみ)が 施餓鬼寺(せがきじ)に向かっている 間も無く到着する頃だ それよりも この石仏群の上にある 梵字(ぼんじ)を読めるか」

大神「梵字?」


菊地彦「これは 種字(しゅじ)と云うものだ 仏(ほとけ)の名前を 梵語の一字で表したものだ 右端の 孔雀明王を表す 『マ』と発音する 左隣の梵字は 夜叉を意味する『ヤ』右にあるのは『タ』次の梵字は『イー』と読み 帝釈天を表す」


美羽「まさか!?」


是空「密教で使う 特別な読み方をすれば ヤマタイと読む」


美羽「ここが…邪馬台なの」


邪馬台国とは…
大きく分けて 畿内(きない)の大和朝廷に結び付ける説も 主流の九州説でも その比定地(ひていち)に関しては 様々な説がある その1つに 国東半島の直ぐ近く 宇佐を中心とする 中津平野だとする説ががある 全国八幡社の総本山 宇佐八幡は 古くは八幡(やはた)と呼び ヤマタイが変化したと云われ その蔡神 ヒメ大神(おおかみ)が 邪馬台国の女王 卑弥呼ではないかと云う説がある


菊地彦「美羽 魏志倭人伝(ぎしわじんでん)を知ってるな?」


そう言いながら 菊地彦は 石仏群に 近付いて行く
美羽は 馬鹿にするなと言わんばかりに ムッとした顔をしながら 魏志倭人伝の一説の暗唱を始める


美羽「南にして 邪馬台国に至る 女王の都する所 水行(すいこう)十日 陸行(りっこう)一月…」


美羽が語る魏志倭人伝の一説が 響く中 今度は石仏群から離れる菊地彦は 石仏達の 目線の位置を確認している様だ


美羽「その南に狗奴国(くなこく)あり…狗古智卑狗(くこちひく)あり 女王に属せず…年既に 長大なれども夫婿(ふせい)なし 男弟あり 助けて国を治む…」


突然 菊地彦が叫ぶ


菊地彦「やはりだ!」


美羽「どうしたの!?」


菊地彦「この無数の石仏の目は 一点を見ている おそらく この石仏の目が全て集中する場所に何かがある」


是空「流石 菊地一族の長は伊達ではないな 勘は働く様だ」


菊地彦は 石仏群の視線が集中する場所を探り 少しずつ 離れて行く すると 草や蔦に被われた 何かに背中がぶつかった


菊地彦「これは?」


是空「それで良い その被っている草を取り除いてみろ」


菊地彦「美羽 手伝ってくれ」


被っていた 草や蔦を 取り除くと そこにはまた 馬頭観音が彫られた 庚申塔(こうしんとう)が現れる 菊地彦は 庚申塔を隈無く調べだす 長い年月にむした土や苔を取り除くと 馬頭観音の下部に彫られた 見猿 聞か猿 言わ猿の三猿があった


菊地彦「こんな所に何故…」


美羽「菊地彦 見て この見猿 何か変だわ」


美羽に促され 改めて見猿を見ると 目をふさいでいなければならない筈の見猿の手が 僅かに開いていて 猿の目が見えている

菊地彦「…ここでも目がヒントなのか」


是空「その馬頭観音の目を調べてみろ」


菊地彦が 庚申塔の馬頭観音の目に指を入れ 中を探ると 何かが引っ掛かる それを力を入れて動かすと 背後から 大きな音がした 菊地彦と美羽が振り向くと 石仏群の真ん中に彫ってある 馬頭観音の台座部分が 開いている


是空「私の役目は ここまでだ 後は自分達で確かめろ」


菊地彦「貴様…いや 愛結夢は この事を知っていたんだな」


美羽「何ですって!?」


是空「愛結夢様からの言付けを伝えよう この天岩戸(あまのいわと)にある秘法を お前達に教える どう使うかは 菊地一族に任せるそうだ」


そう言い終わる刹那 是空の姿は消えてしまう


美羽「…どうするの?」


菊地彦「厩戸は何を企んでいる…」


美羽「菊地彦!!」


菊地彦「…行くさ 毒を喰らわば皿までだ」


美羽「そうね 貴方が行かなかったとしても 私は行くつもりだし」


菊地彦「よし 行くぞ」


意を決した2人は 天岩戸へと続く 闇へと入って行った…


【怪師探偵外伝・誕生篇】其ノ拾参 完

其ノ拾四に続く…
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燈九郎は馬頭山(ばとうさん)の登山道から離れ 道なき道を歩いていた 彼の意識は またしても何者かに 操られている… その何者かは 燈九郎の意識の中で 朧気ながら具現化されている
いくつもの人影の様なものが 真ん中に座す大きな影を取り巻いている その影達に導かれながら 歩き続ける燈九郎に 問い掛けて来る声が 脳髄に響いて来る

声「我を知りおく者よ」


燈九郎「お前は…ブラフマンか?…」


声「我は ブラフマンの下僕(しもべ)であり 暗黒神の使いである 汝に問う 決心は如何に」


影達の真ん中の 大きな影の輪郭が はっきりと見え始める その影は 胸元で合掌し 右肩から掛かる 絹の様な僧衣を着た 首から上が 馬の形をした 異形の神が現れた そして 虚ろな周りの影達が オオム返しに 燈九郎の頭の中に響かせる

声「決心は如何に…」


声「…如何に…」


馬頭神「汝を呼び寄せた あの ヒルコ古墳は 選ばれた者への道標(みちしるべ)であり それ以外の人形(ひとがた)を 秘密に近付かせない為の仕掛けでもあるのだ」


声「秘密は守らなければならぬ…」


声「秘密…守る…」


声「…秘密を…」


声「…秘密…秘密…秘密…」


燈九郎「いったい何なんだ!? 俺にどうしろと!? 緻密の力とは 何の事だ!? 俺にどんな力をくれると!?…」

声「決心したな♪それでいい」


声「アートマンが誕生するぞ♪」


声「…アートマンだ…」


馬頭神「汝は 宇宙の根源 ブラフマンと結び付き 転輪聖王(てんりんじょうおう)となるのだ やがて 果て無く遠い場所に赴き(おもむき)暗黒を司る神 スサノオに 会い見え(あいまみえ)るのだ しかし まだ足りぬ 汝の身体に印さなければならぬ刻印は 八つ必要 諏訪と出雲で二つ そして 我が与える印が三つ目だ 八つの刻印が揃いし時 汝が持つ 真の運命が動き出す!!」


馬頭神が 言い終えぬ間に 燈九郎めがけ 襲い掛かると 燈九郎の意識は 再び 深い闇へと沈んで行ってしまう…


…その頃 馬頭山の麓から登って来た隼人が 是空と共に 燈九郎の後を追っていた


是空「急げ 見失うぞ」


隼人「これでも必死なんだよ!! お前と違って 僕は生身の人間なんだからな!」

是空「ふんっ 聞き飽きた台詞だ 人形は 何かと 生身の器を言い訳に使うが 日々の精進が 足りないだけの事だと知り措け」


隼人「式神に説教されてりゃ世話ないな…」


是空「何か不服か?」


隼人「別に」


とりとめのない会話が止まり 是空の様子が豹変する


隼人「…どうした?」


是空「…何かいる…燈九郎の命に 何かが入り込んでいる」


隼人「どういう事だ!?」


是空「こっちだ 走れ!」


是空を先頭に 息を切らしながら 必死に着いて行く隼人 木立と叢(くさむら)を掻き分けながら 拓けた場所に出ると是空が叫ぶ…

是空「見ろ!!」


隼人「あれは!?遅かったか…」


隼人の目の前には 山間にある 大きな岩壁に 馬頭観音を中心とした 無数の磨崖仏(まがいぶつ)が掘ってあり その中央にある馬頭観音の口には 左足から血を流し 逆さ吊りにぶら下がり 気を失っている燈九郎がいた


隼人「菊地彦様に知らせなきゃ…」


是空「麓(ふもと)迄戻らなければ通話は無理だ!私も愛結夢様との交信が出来ない!!何か強い結界が働いている様だ! 私は 奴を 近くの寺へ運んでおく 連絡は任せたぞ」


隼人「判った」


隼人は 急いで元来た道を 戻って行く…それを見送ると 是空は交信を試みる


是空「…愛結夢様」


是空の命に 愛結夢の声が届く


愛結夢「御苦労様♪どうなってる?」


是空「燈九郎は おそらく新たな聖痕(せいこん)を受けた様です これから彼を連れて 施餓鬼寺(せがきじ)に向かいます 宜しいですか」


愛結夢「そうしてくれる♪ それで菊地彦は?」


是空「程無く やって来るかと」


愛結夢「判った それじゃあ 菊地彦に ヤマタイの秘密を教えといて」


是空「御意」


交信を終え 燈九郎を磨崖仏から下ろし 肩に担ぐと 風の様に その場から消え去った…


【妖師探偵外伝・誕生篇】其ノ拾弐 完

其ノ拾参に続く