登山道入口へ向かうバスの中から、この島では見れないと思っていた夏雲が目に飛び込んできた。
8月とは思えないほど濃い青色の遥か上空へ、数秒ごとに形を変えなが伸びている。
広い視野で眺めると、至るところで同じような光景が広がっていて、出遅れた夏の景色を急いで準備しているかのようだった。
そんな忙しない雲の動きに比べると、落ち着いた足取りで歩きはじめた。
林道に入ると、前に降った雨の影響で地面がぬかるんでいて、何度も足を滑らせた。
1時間余りでようやく沿岸部へたどり着くと、見たことないくらい穏やかな波が優しい音で海岸に打ち寄せている。
カメラを構えたくなる光景をようやく目にすることができたのは、三度目の正直だった。
日陰になっているわずかな岩場の窪みで、作ってもらったオニギリを頬張ると、30分も経たずにその場を後にした。
沿岸部を歩き終えると、また島内の中心部へと歩みを進めていく。
そのあとの林道は、前に歩いた時よりも一段と葉を茂らせれていて、掻き分けながら歩くのには少し苦労した。
それでも今回一緒に歩いている職場の女性は、怯むことなく、むしろ楽しそうに僕の後ろをついて来てくれていた。
しばらく続いた林道を抜けると、折り重なる丘陵が目の間に広がった。
海も空も青く、そのずっと向こうに見えたのは、とてつもない高さにまで膨れ上がった夏雲。
バスから見えたものよりも遥かに巨大で、空を丸呑みにしそうな怪獣が迫って来ているようだった。
ジリジリと止まない蝉の音と、空気中に染み込んだ青々しい草木の匂い。
空に張り付けたような輪郭の積乱雲。どこを切り取っても夏で、今年はじめて蒸し暑さを味わえたような気がした。
帰路に着く道中、目の前の夏雲は何度も形を変えていたけれど、空が赤みがかった頃にその姿をどこかへくらましたのだった。
