真夜中、町へと再び戻ってくる影を見た。どうやらこの町に、自分以外の“人”がいることに気づいたみたいだ。
――どうしようか。
自分の中に浮上してきた選択肢は、一つしかない。
「やってしまおうか」
声と共に、鉄製の何かが地面へぶつかり、火花が散った。
その後に残るのは、暗く沈んだ月の光と冷たい風。
まだまだ、夜は明けそうにない。
第三話
その時、火花が散った。
薄暗い月の光の中でのそれは、まるで星のようだった。
「俺が星になっちまうわ!」
平たいフラットな地形の一箇所に、穴があいているところがある。
およそ四メートル。人が飛び越えられないくらいの穴だ。
いや、穴というより、クレーターと言った方が賢明だろう。
そのクレーターの中には、一人。
「はぁ……」
薄汚れた青いシャツと、茶色い土がアレのようにケツに付いているズボンを着こなし、なぜかよく似合っている。
彼はスティーブ、旅人だ。これもう二回目。
「クリーパーさんコワスギデス……」
この世界には、ゾンビの他にもモンスターが存在する。
その中に、クリーパーという怪物がいた。
身長はスティーブと同じ、二メートルほど。しかし、クリーパーはヒトの近くへと行くや否や、爆発する。
それに、クリーパーには地味なチート的能力が有り、足音がないのだ。本気で殺しにかかってきていると言っていいだろう。
このことから、多くの旅人には地形破壊の達人。リフォームのた、ではなく、爆破魔として恐れられている。
今回、それにまんまと爆破されたスティーブは、髪一発のところで爆破の威力を最小限まで抑えた。
いくらおっちょこちょいだからといって、数年旅人をしているスティーブは、やはり悪運が強い。
ここまでは、彼の自画自賛だ。彼が誇らしげに心の中に留めている事を述べただけなのだ。
「俺はそんなこと思ってない!」
一人ツッコミは、所詮一人ツッコミで、誰も聞く耳を持つものは居なかったのだった。
○
暗闇の中からでも良く見えるビルが、スティーブの前に顔を出した。
五十メートルはあるだろうか。いや、もしかすると百メートルくらいなら行ってそうだ。
「さて、ここから人間を探さないといけないな」
ぐぅ。腹が鳴る。
スティーブは腹を抑え、なにか食べ物でもないかな、と口を漏らす。
その言葉に、言葉を重ねる者はいない。
その言葉を、聞くものもいない。
しかし、その言葉をチャンスだと思ったものは――
「死ねえええぇぇええぇええ!!」
一人だけいた。
「うわぁっ!?」
突然の奇声に、スティーブ自身も奇声を上げる。
慌てて後ろを睨む。誰もいない。
前へ向き直る――瞬間、スティーブの体に電撃が走った。
「!!」
声にならぬ悲鳴。まさにそれだ。
長方形の手をかすめる位のところに、光る物があった。
一振りの剣。斬れ味からすると、鉄剣。
まずい。
「だっ誰だ!?」
痛みに耐えながらスティーブは唸る。
しかし、相手からの返答は返ってこない。
――闘うしかないのか
そう考え、背中へと手をやった。
「あ、れ……?」
ない、ない、ない無い無い無い無い、無い!!!!
そこにあるはずの、スティーブ愛用の剣が、何処にも無い。
そこで思い出す。
自分は死んだのだと。自分は、全てを失い、この世界に来たのだと。
「あ……」
目の前が真っ暗になる気がした。
何も、考えることが出来ない。
「……終わりだ」
相手は、スティーブを、
You died
「シネ」
殺した。
○
混沌とした世界から逃げ出すように、二つの選択を選ぼうとした。
したのだったが……。
『あれ……なんで……』
先ほどの世界の数億倍は真っ暗な、死後の世界。
ここでは二つの選択、今までいた世界に生き返るか、新たな世界へと旅立つか、を選べる。はずだ。
『なんで……無いんだよ……』
嫌だ。もうあんな世界には行きたくない。元居た世界へ帰りたい。
だが、選択はそれを許すことはなかった。
微かな意識の中に浮かび上がるもの。
――Respawn
ただ、それだけ。
『もう一つは何処へ!?』
本来ならもう一つ、New worldというモノが浮かび上がるのだが……、
それは何処にも無い。
『あ……これはもう……』
死より恐ろしいものを感じたスティーブだった。
○
また、地獄のような地へ降り立った。
「あーあ」
暗い。そこはかとなく暗い。
またあの長い長い道を行かなければいけないのだろうか。
「あーあ」
仮に、あの長い道を越えても、次に待つはなんだか良く分からない殺人鬼。
「あーあ」
三度目のため息がでた。
そして、見つけた。
数メートル先に、暗くて良く見えないが、“木”らしきものがある。
「なんで……あんなところに?」
こんな腐敗した土地に、どうしてあんなものが育っているのだろう。スティーブは疑問に思いながらも、“木”らしきものへと近づいていく。
そこで全てがわかる。
「これは……」
数々の地を巡ってきた経験をもつスティーブでさえも数える程しか見たことがない、世界拡張の鍵『Mod』。
ソレは、今、目の前に広がる土地そのものだった。
「嘘だろ、おい!!」
まるで毒に支配されたような紫色の木が、黒い葉を落としながら広大な暗黒の大地で、堂々と腰を下ろしている。
未知の世界での無知は、命取りとなる。
そして、その無知を背負うものは……
スティーブただ一人だけだった。
○
また殺してしまった。罪のない者を、また。
「まあいいさ……」
辺りは大分明るくなってきていた。夜が明けるのだ。
ここは“人間側の大地”と“暗黒の大地”の国境に位置していた町ムート。
民の数は約数千人だったとされている。
この町の地下には、立派なマグマだまりがあり、そこで黒曜石を量産し、この世界に『Mod』の力によって追加された黒曜石のツールを作っていた、らしい。
「今では誰も住んでないただの廃墟の塊みたいなもんだがな、っと」
コツン。石ブロックの上に何かが落ちた。
薄暗いところで光ったそれは、紛れもない、
スティーブを殺した鉄剣。
「…………」
それを無言で拾い、肩へとかける者は、スティーブを殺した本人。名はアレックスだ。
「太陽だ」アレックスが呟いた。
ヒビ割れた窓の外には、太陽の温かい光。
人間側の土地にしか出ない太陽は、とても輝いていた。
暗黒の大地には、太陽は出ない。
これは、人間だけのものだ。
そう思って“あちら側”に行ったヒトは、何人くらいいるのだろうか。
そんなことは誰もわからない。
ただ一人だけになったこの世界では、何を考えることもできないのだから。
徐々にこのworldのことがわかってゆく……
どうでもいいですが、この小説学校行き帰りの電車の中で書いてやすww