人間側には太陽がついた。
暗黒側には闇がついた。
双方がぶつかり合う時、世界バランスは崩れてゆく。
第四話
コツコツと、木を手で樵る時に聞こえる音がした。
場所は暗黒の大地。相変わらずの暗さだ。
ただ、少し明るくなったような気がしなくもない……気のせいだろう。
パァン。その多少の快感を伴った音は、木がアイテム化する時に鳴る音だった。
「ふう、手ェ痛い」
スティーブは手を優しくさすりながら、アイテム化された原木を見た。
アイテム名が表示される。
「ダークネスオーク……?」
Modで追加されたものに間違いはないだろう。
アイテム化されたそれは、小さな手のひらサイズのアイテムになっても、禍々しいオーラを放っている。
「武器とかは作れんのかな?」
通常ならば、木の道具などが作れるのだが、この『Modで追加された木』で作れるのかは、作ってみなければわからない。
スティーブは、まず作業台を作ってみることにした。
作業台がないと何も始まらない。この世界はそんな世界だ。
作業台の作り方はとても簡単で、先ほど取れた原木を四つの木材に分ける。
そうすると、ダークネスオークが、ダークネスウッドになった。
「やっぱ黒いか」
木材にしても黒いままだ。なんだか、恐ろしいものに手をつけてしまったような気がして、怖くなってきた。
だが、この世界で生き抜くためには、まず武器を作り、ピッケルや桑を作らなければならない。今ここで恐れている暇が、惜しいくらいに忙しくなるのだ。
続いて、その四つの木材を、ちょうど正方形になるように並べ、作業台を作った。
「作れるのか……」
作れないのではないかという不安が、スティーブの中にはあったのだが、何ら問題なく作業台は作れた。
ダーククラフティングテーブル。それが作業台の名前らしい。
「ネスは取ったんだな。ダークラフトで良くない?」
暗黒の大地に風が吹くのだった。
○
――ダークネスソード。それが出来た剣の名前。
「……ッ!」
絶句だ。その剣を前にして、彼は何かを言うことはない。
手でブロック化できるくらいの木を元に作られた剣とは、到底思うことはできない。
黒い光と、表しておく。
その剣から出る眩い黒線は、スティーブの瞳孔を狂わせる。
狂気に満ち溢れた、悍ましいものだ。
「これは……まずい……」
立ちくらみがする。
スティーブは、その剣を見るのをやめて、光に満ちた町があった方を凝視した。
微かに見える明かりは、希望そのものだ。しかし、希望には殺人鬼が潜伏していた。
「……これは……逃げ場なし、か?」
消去法で言えば、断然殺人鬼を逆に殺す方が簡単だろう、と思う。
暗黒の大地には、何があるのかさっぱり分からない。一方、殺人鬼の方はただの人のようだった。
「武器が作れたらいいんだけどな。けど、武器なんて作れないし」
作れても、彼の目の前にある、ダークネスソードだけだ。
「そうなると、作戦を立てるほか方法は無いな」
対殺人鬼の、一人ぼっちの作戦会議が始まった。
風が騒がしい。アレックスは石ブロックでできたビルの上で、いつもと雰囲気が違うことに気づく。
「イビルMod、か」
その名は『イビルMod』。この世界に組み込まれた新たなる要素の名前。
誰が、どんな意味を持って、この世界の鍵穴に“それ”をはめ込んだのかは知る由もない。
邪悪に汚染された大地を見る。
その遙先に見えるは、天高くそびえ立つ漆黒の塔。
「あそこに行けば。アイツはいる」
アレックスは、自分の記憶を駆け巡り、ある顔を思い出す。
それは、男の顔だった。
「あ……ああ……」
眩暈。目眩。連続的に来る鋭い痛みに耐えきれなくなり、浮かんでいた顔は消える。
「絶対に、助ける」
心に誓うのは、いつか誓った想い。
○
頑張ろう。スティーブが考えた作戦はそれだった。
頑張ればなんとかなるとはこの時のためにある言葉なのではないだろうか。いやこんな時のために使う言葉ではない。
「もうどうにでもなれ!!」
やけくその大声。目の前にある大地は空腹の時のところ。なんだか凄く懐かしく感じる、草ブロックが、目の保養となる。
「ぐぐぅ~」
また、お腹が空腹を訴えてきた。それをまるで他人事のように無視して、殺人鬼を殺す作戦を、ガンガン行こうぜ! に設定しながら早足を進める。
武器は、素手。
「やっぱり素手で逝かないとねぇー……え?」
スティーブは、何かを思い出したように、草ブロックを壊し始める。
自殺の道へと自分から進んでいくのは、やはり勇気のいるものだった。
草ブロックが、有るか無いか、それは随分と差が出るような気がする。
「十個ほど持っておけばなんとかなる、かな?」
時間は昼頃だろうか。頭上に太陽が出ていて暑苦しい。
「どうせなら土で剣とか作れたらいいのにな。まぁ無理か」
一人笑いするスティーブ。
炎天下の中で、空腹を訴えられると、自分の腹に腹を立てたくなる。
ここには食べ物はない。しかし、あの町には何かしらの食べ物があるはずだ。そうじゃないと、スティーブを殺した者もすぐに空腹によって倒れてしまうだろうから。
「さて、俺の腹が減りすぎて壊れる前に、行ってやるか」
目的地は、もう少し行ったところにある町――。
「ん?」
人影を見つける。
「まさか、また来たのか!?」
それは 先ほど殺ったはずの人影だった。
「……」
無言で、肩に掛けてある愛用の鉄剣へと手を伸ばす。
もう一度、人を殺めようと冷静に考えて。
次回、衝突なるか!?